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Photo by
hikaliyano
部室棟の怪人
インスタグラムをぼんやりと閲覧していたら、知り合いかも?のサジェストのところに見覚えのあるアイコンと名前が現れた。
もしかして、A君?
記憶の蓋が一気に開く。
私がまだ大学生だった頃の話。
学校の外れにクラブハウスとは名ばかりの小汚い部室棟があった。
打ち捨てられたキャンバス、バス停から拾ってきたと思しきベンチ、地面に残る何かを燃やした跡など、さながらスラム街のようだった。
上から見るとロの字型をしたその建物は、内側部分にぐるりと廊下があり、ロの字のちょうど角の部分に私の所属するサークルの部室があった。
ある日の昼休み、サークルの友人達とそこでしゃべっていると、外からソプラノのオペラらしきものを歌う声が聞こえてきた。
スラムにそぐわない高尚な芸術の香り。
おまけにその歌声は近づいてきては遠ざかっていったり、また近づいてきたりと、奇妙な聞こえ方をした。
思わずドアを開け廊下を見渡すと、女装家のA君(あの学校のいいところは誰がどんな服装をしてようが、喋り方が女性っぽかろうがみんな大して気にしないところだ)が下僕風男子に台車を押させ、自分はその台車の上に乗り、廊下をぐるぐる引き回されながら歌っていたのだ。
しかもとびっきりの美声で。
それを見た全員、もちろん爆笑。
そしてこちらに気づいたA君は
「芸祭(学園祭)で歌うから見にきてね〜。オンステージよ〜♪」とにこやかに手を振って台車で引き回されながらまた遠ざかって行った。
私が生まれて初めて生で聴いたオペラは、今では著名な日本画家となったA君のオペラということになる。
※ブログFROG★WORKS雑記帳2010年12月18日掲載「サンタ&スノーマン」より加筆修正