着付が上手に見える!? 錯覚着付術

アンケートにご回答くださった皆様ありがとうございました。
一番得票数が多かった「錯覚着付術」について書いていきたいと思います。
前提として既に一通り着物を自装することができる方に向けての内容となります。
錯覚着付術、言い換えれば着付を綺麗に見せるためのポイント、ということになります。昨今何かとメディアに登場する着物姿についていろんな意見が飛び交いますが、批判する人たちはどこを見て「着付が拙い」と言っているのか、それを列挙し、さらに改善するポイントをお伝えしたいと思います。
重要な順番から書いていきますので、一つでも見直してみるとグッと着付が変わってくると思います。



1.おはしょりの仕上がりが全てを左右する

まずはおはしょりです。着付の工程の中でも一番厄介な、というか我々着付師でもここを綺麗に仕上げられるかどうかが腕の見せどころと言っても過言ではない部分です。ここさえ綺麗にできてしまえば、もう半分は仕上がったも同然。
コツとしてはとにかく三角上げを徹底してしまうことです。おはしょりの部分は薄くさえしておけば結構どうにでもなります。
他が綺麗にできていてもここがモコモコしてたりぐちゃぐちゃだと全てが台無しです。着付の上手い人でここが汚い人はまずいません。



2.背中のシワだけはとにかく取るべし

なぜか。
色々理由はあると思います。中には縁起が悪いから、なんて言う人もいますが
ズバリ。老けて見えるから。
無理に若作りをする必要はないと思いますが、別に年齢以上に老け込んだ装いもする必要はないと思います。せっかく背筋を伸ばしていても背中にシワがあったりだぶついていては元も子もありません。あと清潔感にも欠けてしまいます。
とりあえずシワを取るに越したことはないです。
背中心はもちろん中心にあった方が良いのですが、それのズレよりも真っ先に目が行くのがシワだと思います。背中のシワは左右の脇に集中させて、身八ツ口の中に押し込みます。

上記のおはしょりを綺麗にすることとシワを取ること、この2つを徹底していればあとはもうオマケみたいなものです。この2つがマストですし、そんなに難しいことではないので、ぜひ取り入れてみてほしいです。
おそらくですが世間の着物警察がまず指摘するのもこの2つの部分です。



3.老いも若きも帯は高く締めるべし

よく年齢に応じて帯の高さを変える…なんて指導する着付教室あるあるですが、そんなの無視しちゃっていいです。とりあえず帯は高く締めておけば間違いないです。と言うのは、高く締めた帯を後から下げることはできても、低く締めた帯を上げることはできないから、というのが一つと、何も自分からわざわざ見た目年齢を上げる必要はないからです。重心が下がることで見た目年齢が上がります。踊りの衣装付けでも老女の役などではわざと帯を低めに結ぶことからも明らかです。着付教室ではフォーマルでは高く、カジュアルでは低く…なんて言う指導もあったりしますが関係ないです。
あと、誤解が多いのが「帯を下げる」ことを「帯全体を下げる」と思っている方が多いと思いますがこれは違います。帯全体を下げると前述した老女役の着付けになってしまいます。正しくは帯の前側(胴巻き部分)だけを下げます。粋な着付け方として紹介されていたりしますが、個人的にはあまりお勧めしません。やりすぎるとかえって野暮ったく見えてしまいます。
帯の形よりも帯の高さ、位置の方が人目につきやすいですし、後で直しにくいです。
帯幅を調節できる帯ならば、幅は半分よりも気持ち広めに出しておいた方が良いです。これは身長との割合で考えればよいので、背の高い人なら幅広く、低い人なら狭めに、と考えてみてください。



4.衣紋はとりあえず抜いておくべし

とりあえず抜いておきましょう。衣紋を抜くことで姿勢がよく見える効果もあります。衣紋が極端に詰まっているとなんだか息苦しさを感じてしまいますからね。どれくらい抜けばいいかは以前にも書きましたのでご覧いただければと思います。→衣紋の抜き具合について
ざっくり言うと、着物の格によって変える必要はありません。
自分のお尻のトップと衣紋の中心が縦に一直線になるくらいに抜ければ最もバランスが良いかと思います。細身の方は控えめに、体格の良い方は多めに抜くのがお勧めです。



5.襟の角度は年齢や着物によって変えなくても良い

上記の衣紋と同じで、年齢や着物の格によって変えるものではなく、自分の体型に合わせるのが良いです。粋な着付けとやらで鋭角に合わせて…などと言われますがやりすぎると貧相に見えたりだらしなく見えるのでお勧めしません。
とりあえずは直角に合わせることを基本にすると良いと思います。



6.半襟を出す幅も変えなくて良い

さらに襟まわりのことでもう一つ。
半襟の幅も変えなくていいです。よく半襟の幅2センチ…フォーマルだと広めに…と着付教室で教えますが、あれは大人数を一斉に均一に指導するために設けられているだけの基準です。ちょうどいい幅と言うのは人によって全く異なります。
衣紋からの続きになりますが、細身の方は細幅に、体格の良い方はゆったりと広めに出すとバランスが良くなると思います。が、正直好みの幅で問題ありません。左右対称の幅になっていれば綺麗に見えるものです。

半襟にシワが寄ったりヨレヨレしてないことも大事です。
そのためには少し手間ではありますが三河芯を用いて半襟を付けるとしなやかに添いやすい襟になります。差し込むタイプの襟芯は補助的に使うと良いです。



7.裾つぼまりを意識しすぎるな

裾つぼまりのやりすぎは着物の美しさを損ないます。
よく体型をカバーしたいあまりに極端に裾をつぼませてタイトスカートみたいになっている人がいますが、かえって強調してしまっていますし、生地にも負担がかかってしまいます。太ももにピッタリ無理なく着物がくっつく程度で良いです。着物の美しさは直線にありますし、裾をつぼませ過ぎるあまりに柄が歪んでしまっては本末転倒です。



8.帯あげは帯の中につっこんでおくべし

振袖やあえて帯揚げを目立たせるコーデの場合は除いて、基本帯揚げはほとんど帯の中にしまってほんのわずかに覗かせている方がベターです。
着付が上手くいっているのに、帯揚げがぴょこんと帯から飛び出してしまっているためになんとなくだらしない姿になってしまっている人をよく見ます。
帯揚げも綺麗に仕上げられることが一番ではありますが、面倒であればほぼ帯の中にしまっておくことで粗が目立ちません。ぶっちゃけそこまで神経を使う部分でもありませんので、知らん顔してつっこんでおけばよいのです。
特に帯揚げの中心(本結びなら結び目)が飛び出してこないようにグッと帯の奥まで押し込んでおきましょう。



9.終わりに

今回は綺麗に見せる着付のポイントを挙げてみました。
綺麗に見えるも汚く見えるもちゃんと理由とコツがある…ということが伝わればいいなと思います。全てに神経を行き渡らせて完璧な着付ができるのであればそれが理想とは思いますが、なかなかそうはいかないものです。
いくつかのポイントさえ押さえておけば、手を抜くことだってできます。その方が楽だと思いますし、着物を楽しんで着れるのではないでしょうか。
誤解しないでいただきたいのは、今回挙げたことは「やらなければいけない」ことではありません。別にこんなことは気にしないでも着物は着れます。
ただ、より良い姿で着たいと思った時にポイントを知っておくことは近道になるかと思います。

昨今では着物は自由との声高らかに、どんな着姿であろうと発信した者勝ちの風潮があり、何が上出来で何が不出来なのか、初めて着物を着ようとする方には区別の難しい世界になってきてしまっているなと感じています。
その中で、今回のアンケートで皆様の関心の多くが着付けにあったこと、着付師の端くれとしてとても嬉しかったです。

今回の記事が、皆様のお悩みの解決の一助になれば幸いです。

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