質問箱より:衣紋の抜き具合について
ご質問ありがとうございます。
まずはなんで衣紋は抜くものなのか、を考えてみたいと思います。
衣紋はその昔、女性が日本髪を結っていた頃の着物の名残です。後頭部の髱が後ろの襟に付いて汚れたり、髱を乱したりしないための工夫でした。ですから男性の着物は衣紋を抜かないのもそういう理由からです。抜く必要が無かったんですね。
では現在でも何故衣紋を抜く必要があるのか。実は別に抜かなくてはいけないという厳密な決まりはないのです。抜かなくても別に良いのです。
しかし、一般的にはやはり衣紋を抜いた姿の方が美しいとされています。
人間の眼は面白いもので、全く同じ人が、衣紋を抜いたのと抜いてないのでは姿勢の良さが全く違って見えます。衣紋を抜いていないと背が丸まって見えるそうです。
そして抜き加減ですが、着物教室などでは一律に「拳ひとつ分」と教わることが多いと思います。しかし実は人によって抜き加減は様々であるべきです。
体型は一人一人違うからです。
抜き具合の一つの目安にしていただきたいのですが、抜いた衣紋のカーブの頂点と、自分のお尻の山の頂点をまっすぐ結んで垂直になるぐらいがベストな抜き具合です。そのラインを作ることで背筋が真っ直ぐに見えます。
痩せ型の人は衣紋を抜き過ぎるとよりか細く見えてしまって弱々しい印象を与えます。ふくよかな方は衣紋を若干抜き気味にして、首回りに余裕を持った着付けをするとすっきりと見えます。
それから衣紋を抜くことで裄丈の調節にもなります。
リサイクル着物の裄が少し足りないと思ったら、衣紋を抜き気味にしてみてください。2、3センチは長さを出せると思います。私はこの方法で裄の長い客様に対応しています。
それからフォーマルな場合はよく抜いてカジュアルな場合は控えるとも言われますが、これも特には決まっていません。フォーマルだろうとカジュアルだろうと着るのは同じ自分ですので、体型に合わせた方が合理的と言えます。
半襟の出し方や襟の合わせ方によって変化をつけると同じ衣紋の抜きでも印象が変わってきます。
衣紋の抜き方ですが、衣紋抜きを引っ張るのではなく、布全体を引っ張って肩山自体を後ろにずらすように、V字ではなくU字の形にするとしっかり抜くことができます。それから着物を着付ける前には最終的な仕上がり目標よりも少し多めに抜いておきます。何故ならば襦袢の段階で理想的な抜き具合にしておいても、後から表着を重ねると(特に袷の場合は)着物の自重で衣紋が詰まってきてしまうからです。
ご参考になれば幸いです。
ご質問ありがとうございました!