見出し画像

〈連載第2回〉ひよっこ児童書作家が卵から孵るまで!

村上 えーっと……。

黒猫 …………。

村上 きょ、今日も今日とて日が暮れて、ステキに夜がやってきた。フレーベル館 児童書公式noteをご覧のみなさん、こんばんは。3週間ぶりですね。『ひよっこ児童書作家・村上雅郁のなにがニャンだか』。第2回目ということで、始めていきたいと思います。

黒猫 次回作、なんでおれが出ないんだよ。

村上 それは、ほら、あの……いろいろ事情があるんだよ。

黒猫 だけどおれ、ロケした覚えがあるぞ。ほら。なんか寝ぼけた顔の主人公が、トナカイで坂道を駆け降りるところのシーン。ほとんどカメオ出演だったけど、3カットくらいやり直しさせられたじゃん?

村上 あの話はボツにしたんだ。

黒猫 まじかよー……。

村上 と、いうわけで、ですね。先日、表紙が公開されました。『キャンドル』、装画はなんと、遠田志帆さんです! めちゃくちゃ豪華じゃない? もうご覧になったでしょうか。表紙に描かれている、鋭い瞳をした黒いハイネックの少年。

キャンドルカバー画像2

黒猫 少女かもしれないだろ。

村上 そうだね。彼、あるいは彼女はいったい誰なのか。いろいろ想像してみてください。まだ多くは語れないのですが、このキャラ、『キャンドル』の物語において非常に重要な人物です。

黒猫 まあ、表紙を飾っているんだからモブってことはねえよな。おれはモブですらねえけどな。

村上 頼むから機嫌をなおしてくれ……。

黒猫 わかったよ。オッケーオッケー。切り替えていこうじゃないか。おれだってプロ意識の高いイマジナリーキャットだからな。すこしくらい作者に裏切られたからってへそを曲げたりしないさ。

村上 引き受けた仕事はちゃんとやらないとな。

黒猫 そうだ。全国35万人のフレーベル館 児童書公式noteの読者がお待ちだ。

村上 前回より増えてる……。

そもそも物語を書いたのはいつ?

黒猫 さて、今回は村上に、児童書作家の卵時代、つまり小説投稿者だったころのことを語ってもらおうと思う。

村上 どんとこい。

黒猫 そもそも、最初に児童文学というか、物語を書いたのはいつのことなんだ?

村上 幼稚園時代に絵本を作ったのが最初かなあ。『トントン』というクマのぬいぐるみとか、遅くまで寝ないでいるとやってくる『ぶたくん』とか、まあ、ぼくにはいろいろな友だちがいたわけですが、彼らと夏休みに海に行ってなんやかんや遊んだ話を絵本としてつくった覚えがあります。

黒猫 幼稚園時代って……。だいぶ幼いころから、なんつうか、未来の児童書作家としての片鱗を見せていたわけだな。っていうか、なに? その、『ぶたくん』って。

村上 いや、親が言うんだよ。『遅くまで起きているとぶたくんが来るよ』って。

黒猫 ぶたくんは、おまえのところに来ていったいなにをするんだ?

村上 ああ。「ねえねえまーちゃん。サッカーしようよ」とか言って、眠くなっても家に帰してくれないんだって、親は言ってた。

黒猫 なるほど、なまはげみたいな感じか。悪いことをすると来る妖怪みたいな。

村上 なまはげの解釈がそれで正確なのかはあやしいけど、まあそんな感じ。幼き日のぼくはぶたくんをひどく恐れていた。

黒猫 ぶたくんのことも気になるが、話を未来に進めよう。

村上 その後は小学校の授業で短いお話を作ったり、中学に行って作文を先生にほめられたりとかしたけれど、実際に創作をはじめるのはもっとずっと後のことです。

19歳で初めて新人賞に投稿!

黒猫 それで、明確に児童書作家になろうと思って創作をはじめたのは、いつよ?

村上 とりあえず、本格的に小説を書こうと思ったのは20歳になる年の春。まだぎりぎり19歳だった。

黒猫 つまり、10代最後の春だったわけだな。なにか、考えることがあったのか?

村上 うーん……いいや。そんなことはないかな。ただ、自分がある程度好きにできる時間ができて、それを有効に活用しようと考えたときに、小説を書きたいなと思ったんですよ。そして、書こうと思った。

黒猫 書こうと思って、そんなにすらすら書けるもんなのか?

村上 うん。最初は割とうまくいった。5月だったかな。『クロの恋』という掌編を書いた。野良猫が女の子に恋をする話。

黒猫 はっはー。偶然にしてはできすぎているな。お前が最初に書いた物語も、黒猫のものだったってわけか。

村上 そうそう。黒猫って象徴的だからね、いろいろと。書きやすいんだよ。それから、その物語にでてくる魔法使いを軸に、何作か短編を書いていって、連作にした。『まほうのしらべ』という作品です。

黒猫 うん? 聞き覚えがあるっていうか、なんとなく既視感のあるタイトルだな。

村上 そう。『あの子の秘密』の作中作で『魔法使いのアルペジオ』というのが出てくるけれど、ぼくの中ではそのつながりで名づけたつもりです。知ったところでしょうがない裏話だけれど。

黒猫 へえー。いろいろとつながっているもんだな。ちなみに、その『まほうのしらべ』はどこかに送るとかしたのか?

村上 とある出版社さんに持ちこんだら、『自費出版しない?』と言われたんだけど、19歳の少年には到底賄える額ではなかったので、丁重にお断りしました。そこでようやくですね。新人賞に応募すればいいんだって思ったのは。

黒猫 19歳だもんな。

村上 19歳ですよ。10年ささげる気持ちがあれば、たいていのことはできると思います。いや、どうだろう。わからないけど。

黒猫 ひよるなよ。それで? 初めに応募したのは?

村上 第11回日本児童文学者協会・長編児童文学新人賞。『まほうのしらべ』に短編を一つプラスして、細かな修正を加え、『魔法の調べ』とタイトルを漢字に変えて応募しました。

黒猫 児文協の新人賞か! それで? どうしてそこに?

村上 しめきりのタイミングがちょうどよかったんですよ。あと、「日本児童文学者協会」ってところが主催しているくらいだから、きっとちゃんとした賞なんじゃないかと思って……(ぼそぼそ)。

黒猫 おまえ、本当になんにも知らなかったんだな……。場合によっては多方面に謝罪が必要なコメントだぞ。なんか、もういやな予感しかないけど、そもそもどうして児童文学なんだよ?

村上 自分で言うのもなんだけれど、黒猫が主人公で魔法使いが出てくる物語って、どう考えても大人向けの小説じゃないよな、と思ったから……。

黒猫 …………。

村上 そんな目で見ないでください……。ちなみに『魔法の調べ』、「日本児童文学」の2012年5-6月号に、一次選考通過作品として名前が載っています。

黒猫 ……どうだった? その、自分の名前が冊子に載っているのを見て。

村上 うん。「あ、ぼくはこの世界を目指してもいいのかもしれない」って思った。正直、ぼくの書いているものがどこにカテゴライズされるものなのか、いまいち自信がなかったし。だけど、最初に書いた作品が、当時の応募総数126編の中から16編に選ばれたのは、たしかに自信になりました。よし、じゃあこのまま進もう。児童文学を勉強して書いていこうじゃないかと、そう思った。

黒猫 126編? たしか、第2回フレーベル館ものがたり新人賞の応募総数は……。

村上 そこには触れるな!

佳作もらってからスランプになっていった!?

黒猫 じゃあ、なんだ。けっきょく8年くらい書いていたわけか。受賞するまでに。

村上 そうですね。22歳の時に、別の出版社さんで佳作をもらったけれど、それから5年間は鳴かず飛ばずでしたね。

黒猫 どんなこと考えて書いてた?

村上 最初はがむしゃらでした。だいたい、短編連作ばかり書いてましたね。で、ときどき長編。まずは数をこなそうと。一日中物語について考えて、思いついたらずっとキーボード叩いて。書けないときもありましたけど、『これを乗り越えたら、また一つ成長できるはず』と心の中で唱えていました。最初の2,3年は、一度書き始めたものは全部完結させて、友人に読ませていました。

黒猫 なかなかやるじゃんか。なにがそこまでおまえを駆り立てていたんだ? モチベーションっていうか、そういうの。あるなら。

村上 モチベーションって言うか、純粋に楽しかったんですよ。文章を書いて、物語の世界を創造していくのが。

黒猫 好きこそもののなんとやら、ってやつか?

村上 その言葉は真理だよ。で、『魔法の調べ』の次に書いた作品が『小夜子の不思議な生活』です。

黒猫 お!

村上 うん。『あの子の秘密』に登場する主人公の名前だね。『小夜子』は。

黒猫 そしておれの親友の名前でもある。あ、気になった人は、『あの子の秘密』をチェックな(宣伝)。今回もリンク貼っとくぜ。


村上 ぼくは『小夜子』っていう名前が好きなんですよ。イメージが膨らみやすいというか。だから、小夜子という名のキャラクターは、わりと何度も書いていたな……。

黒猫 夜の子どもだもんな。かっこいい名前だ。その後は?

村上 うん。だいたい佳作もらってからですかね。児童書以外の公募にも応募したけど、そのころからスランプになっていった。

黒猫 スランプ? 書けなくなったってことか?

村上 いや、そうじゃなくて。気持ちがね。惰性になってきた。

黒猫 おいおい。

村上 本当よくないよね。最初みたいに成長する気概もなくなって、なんとなく手近な賞に向けて書いて、途中で書けなくなったら放り出して、まあ適当な感じになっちゃって。

黒猫 そりゃ5年間鳴かず飛ばずだろうよ。

村上 ねー。で、そのころぼくはあるエッセイに出会ったんだ。

黒猫 エッセイ?

「未来を生きる子どもたちになにを語るか」という責任

村上 児童文学の雑誌にあった、とある大御所の作家さんのエッセイだったんだけど、そこにあった一節に、ぼくは打ちのめされたんですよ。

黒猫 なんて書いてあったの?

村上 要約すると、『一般文学とは違い、若い人に向けて物語を書く場合、書き手は責任を負わなければならない』ってこと。

黒猫 いやいや、それは一般文学でも同じじゃないの? お金払ってもらって、時間をかけて読んでもらうんだぜ? ある程度責任はあるだろう。

村上 そう思うでしょ? でも、この場合の責任っていうのは、そういうことじゃないんだよ。ここでいう責任は『未来を生きる子どもたちになにを語るか』というものなんだ。

黒猫 未来を生きる子どもたち……。

村上 混沌として先の見えない今の時代に、個人個人の気持ちや生活が、たやすく踏みにじられるこの時代に、これからを生きていかなければいけない子どもたちに、なにを語るか。どう語るか。それをぼくらは問われている。

黒猫 まあ、世の中極楽って感じじゃないもんな、今。

村上 うん。だからって、『この世は絶望に満ちているから死んでもいい』だなんて、絶対に語ってはいけない。それこそ、死んでも語ってはいけない。だけど、安易なキボウモドキをまき散らしても気持ち悪いだけだし、かえって無責任だ。その作家さんはそう書いている。

『書き手としての責任、大人としての自覚、そして本気で時代や社会と戦う覚悟。こんな時代でも「生きる」ことを本気で語り続ける仕事を児童文学の書き手は担うのだ』——「日本児童文学」2016年11-12月号 【エッセイ 児童文学の新しい地平】「物書きの一人として思う」あさのあつこ ——

黒猫 …………。

村上 どう思う?

黒猫 あさのあつこ先生だってわかっちゃったな。

村上 そうだけど、茶化さないでよ。

黒猫 ……いや、言葉もない。ただただ重たい。

村上 ぼくも同じ感想を抱いた。そして、思ったんだ。『ぼくには無理だ』って。

黒猫 は?

村上 ぼくは書くのが楽しいから書いていたんだ。書いて、友だちや家族の反応をもらうのが楽しかったから。物語のテーマとか、伝えたいこととか、なにひとつなかった。ただ、自分の楽しみのために書いていたんだ。応募こそしていたけれど、児童書作家というのがどういうものかなんて、深く考えていなかった。本当になにも考えていなかった。世の中のこともろくに知らなかったし、ぼくの物語を現代の子どもたちが読んだらなんて、想像もしていなかった。ぼくには児童書を書く資格がないということを、突きつけられた気分だった。それで、ぼくはどうして児童書を書きたいのか、書いてどうしたいのかを、考えないといけなくなったんだ。

黒猫 でも、おまえはその後も書き続けて、賞を獲って、そして今も書いてるだろ? ということは、なんらかの答えを見つけたんだよな?

村上 そうね。でも、それはだいぶ後になってからですよ。ぼくがぼくなりの答えを見つけて、児童書作家としてやっていこうという覚悟が決まったのは。

黒猫 具体的にはいつよ?

村上 第2回フレーベル館ものがたり新人賞を受賞して、作品の改稿をしているときですね。

黒猫 遅!

フレーベル館ものがたり新人賞受賞と、児童書作家としての信念

黒猫 ここで、村上がデビューしたきっかけである賞、フレーベル館ものがたり新人賞についても触れておこう。株式会社フレーベル館創業110周年を記念して創設された児童文学の新人賞だ。第1回の大賞が蓼内明子さんの『右手にミミズク』。そして、第2回の大賞がのちに『あの子の秘密』として出版された「ハロー・マイ・フレンド」。村上の作品だ。


村上 前回も書いたけれど、だいぶ『今後の成長に期待!』という感じだったらしいけれどね、ぼくは。だからこそ、受賞した後がめちゃくちゃ大変だった。半年近く改稿作業をしていた。

黒猫 具体的には、どんなところを直したんだ?

村上 その辺の話は、このコラムの最後の回で『あの子の秘密』を特集するときに語ろうと思っていたんだけれど、まあ、さわりだけ。後半部分は全部リライトしましたよ。

黒猫 おいおい、ほとんど別の作品じゃ……。

村上 いや、もちろん大筋は変わってないよ。もっとそれぞれのキャラクターと向き合って、エピソードを深堀していった。最終的に、30字40行80枚だった原稿が150枚を超えた。

黒猫 それは、また、なんといっていいのやら……。ともかく、そのころ、おまえにとっての答えが見つかったわけだな? おまえが児童文学を書くことの意味が。

村上 うん。まあ、そんなにたいそうなことでもないよ。

黒猫 聞こうか。

村上 受賞後は、やっぱり今までと勝手が違った。逃げ場がどんどんなくなるような気持ちだった。まあ、そんなもの最初からないんですけどね。それでも。
書いているうちに、登場人物ひとりひとりの痛みにちゃんと向き合っていないことに気づいて、全員にそれぞれにとっての困難をぶつけていった。容赦なく。その代わり、全員ちゃんと幸福にするぞ、という覚悟をした。それがそのときの自分にとっての『責任』だった。

黒猫 責任。

村上 ぼくの書いた物語で世界中の人々の人生を変えたりとか、世界中の困っている人々の心を救ったりとか、さすがに難しいと思う。まあ無理ですよそんなことは。だけど、ぼくの物語を読んで、ぼくの物語の登場人物たちに共感して、彼ら彼女らに感情移入してくれた誰かの心くらいは、救えるかもしれない。救えるとまでは言えなくとも、いっときを楽しく過ごさせることくらいはできるかもしれない。そのために全力を尽くす。そしてそれを続けていく。

黒猫 もうちょっと端的な答えはないのか? うまいことごまかされている気がするんだが。言葉を使う職業だからなおまえ。油断できない。具体的にこれから、児童書作家としてなにをどう書いていくつもりなんだ?

村上 失礼な言いようだけれど、そうですね。登場人物に対して誠実に物語を紡いでいきたいと思う。

黒猫 例えばおれに対して?

村上 そう、おまえにも誠実に。お前の痛みをないがしろにしない。理解して、共感して、昇華する。それが読者の方たちの希望につながると、ぼくは思っている。個人的な信念かもしれないけれど。

黒猫 なるほどなあ……なんつうか、うん。まあいいわ。

村上 歯切れが悪いな。なに『まあいいわ』って。言ってよなんか思うことあったら。

黒猫 この形式だけでも寒いのに、ボケずにまじめな話するともうなんかいたたまれないな。

村上 まぜっかえすなよ。今回はシリアスな話なんだよ。

次回予告! 高くて硬くて分厚い2作目の壁

黒猫 はい、6000字を超えたところでね。そろそろお開きにしたいんだけれども、とりあえず次回の予告を。

村上 次回は、『2作目の壁』の話をします。

黒猫 お、あの高くて硬くて分厚いと各所で話題の壁。そいつが村上の前にも立ちふさがったわけだ。

村上 2作目、一生出ないんじゃないかと思ったもん。『あの子の秘密』から『キャンドル』の間にあった苦難の日々をね、書いていけたらと思っています。

黒猫 それ、読んでおもしろいのか?

村上 うーん、おもしろいかはさておき。

黒猫 そこをさておくなよ。

村上 これから児童書作家になろうと考えている人の参考にはなるんじゃないかな。『デビューしてからがスタート!』っていうことをね、まざまざと思い知らせるような、そんなお話ができれば……。

黒猫 いやなお話だよ。

村上 実際、自分が思い知ったことなので……。

黒猫 ……また、3週間後のこの時間にお会いしましょう。お相手は半野良イマジナリー・キャットの黒猫と。

村上 ひよっこ児童書作家、村上雅郁でした。シーユーインアナザードリーム、ハバナイスリアリティ!

♪エンディングテーマ 『レイニーナイト』 作詞・作曲 ナナ

Masafumi Murakami
1991年生まれ。鎌倉市に育つ。2011年より本格的に児童文学の創作を始める。第2回フレーベル館ものがたり新人賞大賞受賞作『あの子の秘密』 (「ハロー・マイ・フレンド」改題)にてデビュー。2020年、同作で第49回児童文芸新人賞を受賞。

画像2


〈連載第1回〉フレーベル館 児童書公式noteの記事はこのおれ黒猫がジャックした! 楽しくいこうぜ村上!


いいなと思ったら応援しよう!