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万年筆好きならわかってくれると思うけど、万年筆って書く道具ってだけじゃなくて玩具というかリラクゼーションアイテムというか、流行りっぽい言い方だとマインドフルネスの実践ツールなんだよね。
その万年筆。自宅や仕事場以外で使うのがすごく苦手というか慣れない。だいたい万年筆を持ち歩くのがおっかない。練習のためにとペンケースに入れた万年筆をリュックとかバッグに忍ばせて持ち歩く。気が気じゃない。
フルハルターっていう、万年筆好きなら知ってる人多いんじゃないかな、万年筆屋さんがあって、かれこれ10年くらい前かな、大井町にあった小さなお店に行って店主の森山さんと言葉を交わすことができたのね。ペリカンのM600かM800が欲しくて、でも自分には分不相応な気がして、一応お金だけは財布に仕込んでちょっと様子を見に行く感じで。戦々恐々。
全部素直に話したわけ。そしたら森山さんが「まあ道具なんでね、気負わずに使うのがいいと思いますよ」って。当時の俺はLAMYのサファリを持ってて、それが唯一の万年筆で、3000円くらいのものなんだけど、それすら外に持ち出すのがおっかないって言ったのね。それに対する森山さんの返答にしびれたね。
「万年筆ってね、カバンに入れてもポケットにさしてても、そこに液体があるんだと、そうね、ちょっとだけ意識してやることができれば万年筆も持ち主も幸せなんじゃないかな」
その言葉を聞いた俺は買うのは今じゃない気がして手ぶらで引き返した。それから7年くらいかな、お店も大井町から我孫子に引っ越しちゃってから意を決してドアをノックするわけよ。正確にはメールを送ったんだけどね。
森山さんには太いペン先のものをお願いしようと決めてたのでその旨リクエスト。なんとなくせっかくなのでサイズの大きなM800を選んで、ペン先はBBをさらに太く研ぎ出してもらうことに。用意された紙に自分の名前やら住所やら色々書いて、これは俺の書きグセを測るためなんだけど、森山さん「はい、わかりました」って感じで。
極太M800を手に入れて数年、宛名書きとか一筆箋にちょっとした挨拶とか書くのに使ってる。いまだに外に持ち出せない。何回かは持って出たけどね。やっぱり気が気じゃない。
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