独立の花#シロクマ文芸部
始まりは・・・貝母という不思議な名前の花に魅かれた始まりは、随筆家、岡部伊都子のある逸話を知ったことによる。彼女が婚家を身一つで飛び出して独立した時、新しい部屋にこの一輪を挿して独立記念日の花としたというのだ。花の著作も多い達人が選んだ一輪とは、いったいどんな花かと興味深々だった。
貝母という花を見てみたいと、花に詳しい詩の会の友Kさんに話したところ、その花ならうちの庭にあるので、咲いたら「貝母を愛でる会」をしましょう、と話はとんとん拍子に進んで、いよいよその日、彼女の家に出 かけた。
初めて見るその花は思いがけず小さいもので、淡い黄色の花弁が恥じらうように下を向き、のぞけば内側には紫色の網目の模様が見える。貝母と書いて、バイモといい、黒百合の仲間だそうだ。ほっそりとした茎高三十センチくらいの幾本かが静かに揺れている様子は、長年憧れ続けた私の期待に応えるに充分だった。
以後我が家でもと、バイモの苗を手に入れ幾年かその花を楽しんできた。ところが・・・独立には未だ遠いわたしの人生を見透かしたかのように、茎が伸び、葉も出るのだけれど、肝心の花はぱたりと絶えてしまった。
遅い春を迎えた今月になって、プランターの土を掘り返していたら、細長い小指の先ほどのラッキョウのようなものがいくつも出てきた。これは?見覚えのないそれらを手にし、しばし眺めていた時だ。「あっ貝母の球根!」突然思い出した。
わたしは手の上の小さなラッキョウに、今年こそ花を咲かせて、と言い含めて土に埋めなおした。もうすぐ転居するするわたしの独立記念日には間に合わないだろうが・・・
おわり
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