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初めての鬼

昔、昔、羽後の国に鬼が出て民を困らせておった。畑でできた野菜、米、なんでも奪って行ったそうな。

農民伊平の家では、長男平太が生まれ、貧しいながら幸せな時が流れていた。
ところが、ある夜、こともあろうに鬼が襲ってきた。寝かされていた平太を奪い去ろうとしたそのとき、平太がにっこり笑った。まさに天使の笑顔だった。鬼はたじろぎ、そのまま逃げるように去って行った。

平太は初めて見る鬼を恐ろしいとは思わなかった。鬼はまた、初めて見る笑顔というものに驚き、混乱してしまったんじゃ。鬼に笑いかけるものは誰もおらず、鬼もまた笑ったことはなかったから。

その後、鬼は姿を現すことはなかったそうな。漁師が、はるか沖をシベリアの方向に泳いでいく鬼を見たと言ったが、定かではない。

それから何百年、シベリアを抱く大国では、支配者が略奪を繰り返している。それを聞くたび、あの鬼を思い出してのう。誰か平太のように鬼退治してくれんやろか。困ったもんじゃ。


       おわり(408文字)


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今週のお題は「初めての鬼」です。


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