僕とエクの物語
僕はカマキリ。この暑いのに生きるために獲物を探して歩いている。生き物しか食べないから動くものを見かけると、この大きなカマで素早く捕まえる。と、向こうから何かが転がって来た。餌か?近づいて調べてみたがこれは生き物じゃない。固くてまずそうだ。少し生き物の匂いがするが、何かの生き物がさわったからだろう。
少し歩くと柵の上になにかが乗っている。これは何?目の玉みたいだけど愛嬌がある。そのとき、ふいに前世人間だったときのの記憶が戻って来た。大好きだったエクレアだ!ひとつもらって帰ろうか。茂みの中のぼくの家に隠してその夜は眠った。翌朝驚いた。なにか生き物が蠢いている!生まれたてのトカゲだ!餌だ!食べようとしたらトカゲが言った。
「お母さんの顔三角ね」
え?お母さん?冗談じゃない・・・でもなんと可愛い目、艶のある身体、
美しい瑠璃色の尾がチャーミング。僕は心を奪われてしまった。トカゲには「エク」と名付け僕たち二人の生活が始まった。
エクは素早く動くことができる。時々その背中に飛び乗ってスルスルと葉っぱの道を抜けて散歩をした。夜は並んで寝る。寝返りをすると冷たい体に足が触る。冷たいけれど温かい行き止まりだ。
時々僕はエクを抱いて飛ぶ。そんなに長くは飛べないし、エクを抱えているからかなり苦しいが、喜ぶエクを見るとがんばってしまう。思い切りジャンプすると少し空が近くなる。
どんな動物でも、ふいに前世を思い出すときがある。川を泳ぐ鯉が動きを止めて流れに身を任せているとき、猫が目に見えないものをじっと眺めているとき、彼らは前世を思い出しているのだ。僕も目覚めたばかりの夢と現実のはざまで人間だったころを思い出す。あの頃は余分なことばかり考えていた。今は餌とエクのことだけを考えていればいい。なんて幸せなんだ・・・
しかし、冬が近づき寒さが身に応えてくると僕はもう長く生きていられないと悟った。エクは脱皮しながら大きくなりまだ何年も生きていられそうだった。
「エク、今までありがとう、幸せだったよ」
「お母さん、死なないで!」
その時、突然エクの瞳がキラリ輝いた。
「私たち、人間だったとき会っていたよね」
僕の脳裏にも、バンガローで夕陽を見ながら告白しようしていた日が突然
蘇った。
「エク、今度トカゲに生まれ変わるからまた会おう」
「ええ、待ってる!」
それがエクにも僕にも前世を思い出した最後のときだった。
おわり
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