懐かしい
「懐かしい」という言葉は英語には無いと聞いた。Google翻訳で調べてみるとnostalgic と表示される。う~んなんか薄っぺらだ。意味だけならあってはいるが、「懐かしい」という言葉の持つ温かさ切なさ重さ心に広がる「なにか」が足りない。
「懐かしい」の「懐」は「ふところ」とも読む。着物文化の日本では「大切なもの」をしまう場所だった。「懐寂し」といえば「お金がない」という意味だし、秀吉が信長の草履を温めたのも「懐」。「懐刀」といえば、武家の女性が身につける護身用の短剣でいざという時には自害をする命を左右する道具。そこから「腹心の部下」という意味でも使われる。
私にとって懐かしいものは、なんといっても今は亡い両親と生まれ育った故郷だろう。広がる青田から聞こえる蛙の歌、家の前を流れる川で群れを成して泳ぐ鮠や鮒。鰻さえ獲れた。裏庭横の土手の上を東海道線が走り、その音で電車の種類や車両の数までも分かった。
意気地なしですぐ泣く、と面白がられてボールをぶつけられたり、仲間はずれにされて泣いて帰っても母が迎えてくれた。学生時代ハーモニカ部だったという父は見事な伴奏付きで「おててつないで」を吹いてくれた。私は父のハーモニカの聞こえる家が好きだった。
引っ越しを決め沢山の部屋を見たが、今の部屋をみつけたとき「ここだ」と思った。横を電車が走り、裏に川が流れている。私の心があの故郷を求めているのかもしれない。そしてこれからもずっとこの思いは変わらないだろう。
おわり
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