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沈む寺

裏庭の桜の大木が枯れてしまった。引き抜かれた根のあとに何かが覗いている。そっと掘り起こすとお寺の形をした置物だった。蓋を開けるとバラバラになった数珠のような茶色の玉と、その下に白いものが・・・
これは骨?

曾祖父は医者でこの地に病院を建てた。一番にラジオを買って村の人たちに聞かせた、とか医師会の会合で上京するときは駅のホームに芸者が並んだ、とか派手な話題の持ち主だった。子供に恵まれず夫婦養子をとったが、それが私の祖父母夫妻である。

曾祖父の妻は庄屋の娘で我儘な人だった。曽祖父は看護婦見習いに来た若い女性と恋仲になりかけ落ちまでしたが、その女性は結核で亡くなった。当然ながら妻ともうまく行かなくなり、病院は義理の息子夫婦つまりわたしの祖父母に任せっきりで家を空けるようになった、と聞く。

あの白い骨はもしかして曾祖父の恋人?派手だった彼は実は寂しい人だったのかもしれない。私は寺の置物をまた土深く埋めた。

           おわり(411文字)


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