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銀河売り #シロクマ文芸部
銀河売ります、のチラシが新聞に挟まれてきた。夜空をバックに堂々とそびえる建物の写真に「レジデンス銀河」の文字、新築マンションの広告だ。買うのはとても無理だと一旦は諦めたが、その間取りと値段表を見て心が動いた。駅から徒歩8分3DKの割には安い。
僕は証券会社に勤めて8年になる。多少の貯えもありローンを組めば何とかなりそうだ。割安なのは、幹線道路に面しているため、車の音がやかましいこと。「窓を閉めていればほとんど聞こえません。今はエアコンの時代ですからね。それに何と言っても眺めが素晴らしい。駅近でこんな物件はもう出ませんよ」不動産屋の言葉が決め手になった。
買ったのは13階、快適だったが、まわりのビジネスビルの灯りとネオンで、銀河はほとんど見えない。まあ、仕方がない、月はよく見えるからいいか。一生に一度の高い買い物に後悔はしたくなかった。
車の音はしたが、夜ベランダに出て、みなとみらい地区の灯りを眺めるのが楽しみになった。煌々と輝き空の道を辿っていく月が美しかった。
その夜も、手すりに持たれて外を眺めていた。すると突然爆発音が響いた。
ドカン!
衝突事故だ!だれかが助けを呼んでいる。僕は思わず身を乗り出し眼下を覗き込んだ。
あっと思った途端、身体はベランダの柵をするりと乗り越えていた。
両手で柵になんとかつかまったが、腕に力を込めても身体は上がっていかない。オフィスワークですっかりなまっていたのだ。
こわごわ下を見てはっとした。
広い道路を車の灯りが流れていく。まるで銀河のようだ。
声を上げても身体を揺すっても誰も気づかない。ついに力尽きた僕の手は柵からするりと離れた。落ちていく視界いっぱいに、地上の銀河がキラキラ光りながら広がった。
おわり
小牧さんの企画に参加させてただきます。よろしくお願いいたします。
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