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棒アイドル

小学校5年生のころだった。学芸会の劇の配役を、抽選で決めることになり、わたしは準主役の女神の役を引き当てた。主役のリスが絶望して池に
飛び込もうとするところを引き留める、という大役だ。

当日は母の手作りの白いワンピースにレースのカーテン地のベールをかぶり、緊張で震えながら登場場面を待った。出番だ!でもさっきまで覚えていたセリフが出てこない、どうしよう、と思った時、級友がグイ!と背中を押し、いきなり舞台の真ん中に放り出された。

真っ白な頭で棒立ちのまま、沈黙が続いた。満員の生徒や保護者がざわつきだしたとき、担任の先生の野太い声が響いた。

「お待ちなさい」

忘れていたセリフだった。講堂中に笑いが広がり、クライマックスの深刻な場面は台無しになった。

家に帰ると、見に来ていた母も姉も劇の話は何もしなかったが、それがよけいわたしには辛かった。アイドルなんかまっぴら、二度とやるもんか、と心に誓った。

          おわり (407文字)


たらはかにさんの企画に応募いたします。
お世話をおかけしますが、よろしくお願いいたします。
今週のお題は「棒アイドル」です。

いろいろ考えたのですが、皆さんの傑作を読んだ後だったので
どれも気に入らず、結局、体験談を書いてしまいました。
事実は小説より奇なり、です。😅

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チズ
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