舞うイチゴ#シロクマ文芸部
舞うイチゴ?
目の前をすうと横切り、夕昏の空に舞っていくのはまさしくイチゴ。
わたしは、魅せられたようにそのあとを追って歩き始めた。
スーパーのレジ係は疲れる。セルフレジが増えても、「ねえちょっと来てくれない?」の声にふりまわされる。機械が動かない、という訴えに調べてみると硬貨が紙幣入口にねじ込まれていたことも。これじゃ以前のようなレジの方が楽だった・・・
そんな疲れ切った帰りに、舞うイチゴを見つけたのだ。駅裏口の細い道の方へ誘うように舞っていく。両側から竹がアーチのようにせり出し
上空で合掌しているような薄暗い道。こんな道あっただろうか?
通り抜けると、小さな駄菓子屋がぽつんと立っている。店先の
ぼんやりした灯りに「フルーツシャボン玉」と書かれた札が
浮かんで見える。店主の老人は店の奥で居眠りをしているのか動かない。
「すみませ~ん。このフルーツシャボン玉ってなんですか?」
老人はゆっくり目を開きめんどくさそうに答えた。
「ああ、シャボン玉なんだけどね、果物のかたちになるんだよ。
ほら、イチゴ、ミカン、リンゴ、メロン、いろいろあるよ」
「え?すごいじゃないですか!子どもたちに人気あるでしょう?」
「まあ、そうなんだけど、最近こどもが減ってきて、そんなには
売れないねぇ~」
気に入った!さっそく買ってみよう。
「ひとついただくわ。お進めはなに?」
「ああ、あんた、背が高いようだね。体も大きい」
はぁ、失礼な、最近出てきたお腹を思わず撫ぜた。関係あるの?
そんなこと・・・
「じゃあ、スイカなんてどう?」と老人。
面白い!スイカのシャボン玉なんて聞いたこともない。
さっそく買い、試しに飛ばしてみることにした。
液に浸したストローを吹くと、みるみる大きなシャボン玉が生まれた。
つややかな緑色に黒いうねうねした縞・・・
次の瞬間、わたしの身体がフワリと浮いた。
あれ?ここは?シャボン玉のなか?
緑の皮を通して竹林が、駅が、遠くなる。
とおく、とおく・・・・
おわり
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