紅葉から
紅葉からの声聞いたことがありますか?
もう10年ほど前鳴子温泉に行ったときのことです。そう、あのこけしで有名な鳴子、紅葉でも有名です。東北の紅葉の美しさは静岡生まれのわたしには息を飲むほどでした。
友人と二人で泊まった旅館は9階に展望風呂、10階にレストランがありました。到着して一休みするとまずは温泉、ということで展望風呂に向かいました。エレベーターに乗ると突き当りの壁に紅葉した山の大きな写真が貼られ、その前に旅館の浴衣に赤い帯を締めた一人の女性が背を向けて乗っています。え?普通は出口を見ているのに、と思いましたが、恥ずかしがりやなのかも、とあまり気にせず入浴を楽しみました。
帰り、エレベータ―に乗るとまたあの女性が背を向けて乗っている、なんだか気味が悪かったのですが、友人と二人だったのであまり気にせず降りました。
夜、もう一回あったまろうと展望風呂に。
友人も誘ったのですが、彼女は疲れたから寝る、とのこと、一人でエレベーターに乗りました。するとまたしてもあの女性が背を向けたまま乗っていたのです。これはコワかった。途中で降りて階段を登りました。
帰り・・・またしてもその女性とあったのです。もう半ばやけになって声をかけました。
「何回もお会いしますね」
「わたし、紅葉の葉なんです。ここから出られなくて…助けて・・・」
細い腕がわたしの浴衣の帯にかかりました。
夢中で近くの階のボタンを押しドアが開くとエレベーターから飛び降りました。
翌朝、朝風呂に行ったのですが、今度は大勢の団体客と一緒だったのでエレベーターは大賑わい、件の女性はいません。ふと見るとあの紅葉いっぱいの写真ははぎ取られてもうありませんでした。
部屋に帰り、浴衣を脱ごうとしたら紅葉が一枚はらりと落ちたのでした。
おわり
小牧さんの企画に参加させてください。
小牧さんお世話をおかけしますがよろしくお願いします。
よろしければサポートお願いします。いただいたサポートはアイデアの卵を産み育てる資金として大切に使わせていただきます。