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水晶体 #シロクマ文芸部

月めくり、祖母はカレンダーのことをそう呼んでいた。月が変わると、祖母の手で今までのページがビリビリと破られ、現れた新しいページはなにか嬉しく、幼い私は背伸びして眺めたりした。

そんな祖母との忘れられない思い出は、高校生のころ、病院に付き添ったことだ。目がいい、と自慢だったのに、80歳を過ぎたころ目の前になにか邪魔するものがあり何度も手で払っても取れない、と言い出し、近所の眼科で見てもらった。診断は白内障、医師から祖母の水晶体の写真を見せられた。その写真は、まぁるいレンズの下半分に白い模様が映っていた。

「この濁った水晶体を取り出し、人工のものを注入すればいいのだから、すぐなおりますよ、だれでも年取れば現れる現象です」とのこと。

手術は日帰りでもできるとのことだったが、高齢でもあり一泊入院することになった。術後の祖母は右目に白い小山がでるほど何枚もガーゼをあてられちょっと痛々しかった。元気に退院、その後90歳まで長生きしたが、私が上京して離れ離れになり、話す機会があまりなかったのが残念だ。

その月めくりを今日、ビリリと破り、カレンダーはあと3枚になった。一昨夜は中秋の名月も見ることができた。その満月を見て「あ」と思った。どこかで見たことがある・・・あの日の祖母の水晶体の写真に似ている。半分くらいぼんやり見える影、祖母の目のレンズは月めくりのように外され影一つないレンズに入れ替えられたのだ。その瞳に私は、世界はどう映っていたのだろう。おばあちゃん、また会いたいね、満月に向かってそっと声をかけた。

           おわり

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