記憶に残る風景#虎吉の交流部屋プチ企画
車窓からの富士
新横浜から久しぶりに西に向かう新幹線「こだま」に乗った。
平日で空いていたが、富士の見える側の座席は申し合わせたように一人ずつ先客があり、海側の三人席に座った。
ほどよい暖かさにまどろんだらしい。
「まもなく新富士でございます」の車内アナウンスで慌てて反対側の窓から外を見た。
振り向けた視線より一段高いところに、白い雪をいただいた富士が、長方形の窓いっぱいに見えた。
故郷の山だ。どきりとするほど近い。雪はわずかに乳色を帯び、山すそは背景の空よりほんの少し濃い灰色で、すいと優雅な曲線を描いている。そしてその濃い灰色が、前に立ちならぶ製紙工場の煙突の白さをきわだたせていた。薄曇りの外はほとんど風がないのだろう。煙は割りばしの先についた綿菓子のように、しばらく煙突の口にとどまり、それからものうげに空にむかって広がっていた。
窓の外の富士は、すぐにゆっくりとその姿を後ろにずらし始めた。私は身体をねじってその姿を追い続けた。
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数年前静岡に帰ったときの紀行文です。富士山が車窓から見え始めた時はいつも感激します。故郷に住んでいた兄も転居し、滅多に行く機会がなくなりましたが、機会を作ってまた行ってみたいと思っています。
おわり
虎吉さんの企画に写真と紀行文で参加させてください。
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