リタイアメントプランを「人的資産」から考える
個人で保有する「資産」というと、金融資産や不動産などを思い浮かべます。でも、それだけではなくて、「人的資産」という「資産」もあると言われます。働く力、働くことで将来得られる収入も、その人の「資産」という考え方です。
近年話題の『LIFE SHIFT 人生100年時代の人生戦略』の中にも、「見えない「資産」」として「生産性資産」「活力資産」「変身資産」というキーワードが登場します。これらも「人的資産」に繋がるものと、興味深く読みました。
「人的資産」は、1992年にノーベル経済学賞を受賞した、米シカゴ大学のゲーリー・S・ベッカー教授が「人的資本」(Human Capital)という概念を提唱したことが始まり、とされているようです。
ベッカー教授は、意欲をもって教育・職場訓練・健康等に投資を行うことにより、働くことで得られる将来の収入を増やすことができる、ということを、米国等の実際の調査で検証しました。(参考図書:ゲーリー・S・ベッカー著 佐野陽子訳『人的資本』東洋経済新報社)
若い時には金融資産は僅かかもしれないが、将来働くことで得られる収入(「人的資産」)は、働ける期間が長い分大きい。一方シニアになると、これまでの働きで金融資産や不動産が増えていますが、将来働く期間は短くなるので「人的資産」は小さい。
これをバランスシート的にイメージしたのが下の図です。
この図を眺めていると、若くて金融資産が少なくても、過度に不安に思う必要はないし、定年が近づいてきても、少なくなった人的資産をいくらかでも回復できれば、その後のシニアライフもあまり深刻にならなくとも良さそうだ、と思えてきます。
「人的資産」を維持していくために必要なこと。それはどんな仕事をするか、どんな働き方をしたいのかなど、仕事に対する価値観も含めて様々ですが、シンプルには次の3つの要素に集約されるものと思います。
① 健康であること
② 仕事をする意欲があること
③ その仕事をしていく能力(知識・スキル・人脈など)があること
そして、この3つは、どれか一つでも「0」になってしまうと、続けることが難しくなります。その意味で、働くことで得られる収入は、「健康」と「意欲」と「仕事能力」の掛け算。
働くことで得られる将来の収入 = 健康 × 意欲 × 仕事能力
この3つの要素を無理なく手入れして、「人的資産」を長持ちさせていくことができれば、家計の収支も安定し、「人生100年時代」を生き抜くための安心感も生まれるのではないかと思います。
次にこの3つの要素 「健康」・「意欲」・「仕事能力」 について、リタイヤメントプランの観点から順に考えていきたいと思います。