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期待効用理論

意思決定理論

人は何らかの条件が与えられたときどうやって意思を決定するのか?
経済学におけるこの議題に関する理論を意思決定理論と呼ぶ。この際に注意すべきことは人が意思を決定する際に危険(risk)を考慮に入れるということで、単純な帰結の期待値を評価するのみとはならない。例えば確実にもらえる5000円と確率0.5で貰える10000円では金額の期待として見るのならば同等なものだが、危険からの選好を考慮すると各人にとってその意味合いが違ってくる。もし二つの選択が無差別であるとするならば、確実に貰える額が4999円になった瞬間、任意の人間は2分の1で当たる10000円を選択するが、これは現実的ではない。この時、確実に貰える方を選択する選好を危険回避的選好と言い、逆を危険愛好的と言う。

単純くじの設定

帰結の集合を$${Z}$$とする。この時、$${l}$$が$${Z}$$上の単純くじであるとは、正の確率を持つ帰結が有限個しかないような確率分布を言う。ここでその帰結の全体を$${S(l) \subset Z}$$とする。また$${Z}$$上の単純くじの全体を$${\Delta_S (Z)}$$とする。
この時、人がどのくじの仕組みを選ぶかを考えるのだが、これを$${\Delta_S (Z)}$$に選好$${\succsim}$$という全順序関係が入っていると数理的に表現する。これは任意の順序関係では駄目であり、確率分布に効用という何らかの重みを付けた積分がこの順序に関して好ましさを意味してなければならない。即ち、$${\succsim}$$が期待効用表現を持つということを「ある$${u:Z \rightarrow \mathbb{R}}$$が存在し、任意の$${l, m \in \Delta_S (Z)}$$について
$${l \succsim m \iff \sum_{z \in S (l)}u(z)l(z) \geq \sum_{z \in S (m)}u(z)m(z)}$$
が成り立つことを言う。」
という前提を設ける。この$${u}$$は一般的に効用関数と呼ばれるもので、選好と表裏一体であるのだが、序数表現(※順序のみに意味がある表現)であることに注意しなければならない。上式から明らかなように$${u}$$が上記のある選好の効用関数として取れるならば、$${2u}$$も同じ選好の効用関数になるからである。即ち効用関数はアフィン変換について一意であり、基数的(※量的に意味がある表現)ではない。

非単純くじの設定

選好に関する性質を述べる前に非単純くじの設定を簡単に述べる。
以上の単純くじの場合にはくじの帰結が離散有限であったが、これが連続量であってもあまり本質的な違いは出ない。即ち、$${(Z, d)}$$をコンパクト距離空間とし、$${\Sigma}$$を距離$${d}$$によって生成されるボレル完全加法族とするならば、$${(Z, \Sigma)}$$上の確率測度の全体$${\Delta (Z)}$$を非単純くじとみなせる。ボレル確率測度の全体には弱収束を入れるがこれはProkhorov距離における確率測度収束と同値であり、$${Z}$$がコンパクトであれば$${\Delta (Z)}$$もこの位相についてコンパクトである。
これが自然な設定であるが、確率測度全体に対して位相を考えている理由は、選好の関係$${l \succsim m}$$を満たす{(l, m)}の全体を$${\Delta(Z) \times \Delta(Z)}$$の閉部分集合としたいからである。

期待効用表現定理

非単純くじの設定の下、期待効用理論を満たす選好$${\succsim}$$(※ただし期待効用理論を満たすとは、選好として成立すべきいくつかの自明な公理を満たす事とする)は$${U}$$によって表現されるが、それはあるアフィン変換において一意な連続関数$${u}$$によって次のように表現される。
$${U(l) = \int_Z u(z)l(dz)}$$
アフィン変換において一意とはこの表現を満たす$${v}$$があればそれは実数$${A, B}$$を用いて$${v = Au + B}$$と表現されるということである。

効用関数の曲率

ここでは危険回避性が効用関数が凹として特徴付けられることを述べる。
$${\delta (z) \in \Delta(Z)}$$を$${z}$$に確率1を与える測度とする。1の方が2より危険回避的ということを「$${l \succsim_1 \delta(x) \Rightarrow l \succsim_2 \delta(x)}$$かつ$${l \succ_1 \delta(x) \Rightarrow l \succ_2 \delta(x)}$$」と定義する。
次が成り立つ。「$${\succsim_1, \succsim_2}$$をそれぞれ期待効用理論を満たす危険選好とし、1が2以上に危険回避的であるとする。また、$${u_1, u_2}$$をそれぞれの期待効用表現とする。またあらゆる$${x, y \in X, \lambda \in [0, 1]}$$について$${\delta(z) \sim_2 \lambda \delta(x) + (1 - \lambda)\delta(y)}$$なる$${z \in X}$$が存在するとする。この時、ある凹関数$${\phi}$$が存在し$${u_1(x) = \phi(u_2(x))}$$が成り立つ。」
即ち危険回避選好を持つ人の効用関数はより凹であるということである。これは期待効用理論の帰結として我々がよく知っているものになる。

まとめ

期待効用理論には批判が多くあり、特に途中「期待効用理論を満たす危険選好」としてごまかした部分には公理として選好の独立性を仮定していたのだが、これが現実的ではないというのがひとつ本質的な批判である。
例えば囚人A、Bがいるとして明日にそのうちのどちらかを殺さなければならない。という問いの下では「公平を期す」という考えを基にコインを振り0.5の確率でA、その反対でBを殺すという考え方の方が恣意的にAまたはBを殺すという考え方よりも好ましいと考えれる。このことは「独立性は規範的に破られるべきである」という考え方に基づいている。
こうして独立性公理を落とした非期待効用理論が展開される余地がある。

個人的には公理的意思決定理論ではどの公理をどう緩めるかが明らかであるところが良いところに思う。
今回は次の本の内容を一部紹介しました。興味があれば読んでみてください。

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