▼つよがりは、いけないことでしょうか

高宮さんは異国の祝日に、乗客がみな俯いているバスの中でした、昔熊のぬいぐるみと一緒に寝ていた話をしてください。
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ああほら、思い出さない？あの日もこんな雨だったじゃない。

乾期だからって選んでエアラインのチケットを取ったのに、馬鹿みたいに土砂降りだった。空港を出て、空港にまた入るまでね。

東京の空とは違うからっとした匂いが知りたくてパスポートを取ったから、あの旅は本当に残念だったわ。

だからこそ、こうして思い出すけれど。

王様の誕生日で、トロリーも地下鉄も人が多かった。

瓶詰めのフルーツジュースと卵のサンドイッチが入った紙袋もビシャビシャになっちゃって、日本を飛び出してまで何してるんだろうって話したよね。

梅雨の日の満員電車と全く同じ空気だったもの、あのバスは。

スーツの人はいなかったけど、男の人も、女の人も、おじいさんも学生みたいな子も、みんなみんな下を向いていたね。

あの町に住んでる人は、濡れた屋根もやしの木の葉が雨に叩かれる音も、見飽きたし聞き飽きていたのよ。だって、私ですら次の停車場までそれを数えることは退屈で仕方なかった。

みんな、水の染みた靴やサンダルを見ていたから、私、思い出しちゃったの。実家のベッドにずーっと置いてある、ほうじ茶の色したテディベアのこと。

熊みたいね、って、あなたにだけ聞こえる声で呟いたら、不思議そうな顔をしてたね。

そこから、あのぬいぐるみのことを話した。その時も言ったけど、この話をしたのは本当にあなたが初めてだったのよ。

親友だと思ってたし、恋人だと思ってた。

なのに、抱きしめることも撫でてやることもしなくなったわ。私の悩みも、内緒話も、黙って聞いてくれてたあの可愛い子を。

大人になったら必要なくなってしまうのかしら。だけど、みんな熊のぬいぐるみを抱きしめて眠るんでしょう？イギリス人なんかは、とくに。

それって、私が薄情なのかしら。冷たい女だからかな。

あなたの好みじゃないでしょうけど、私は好きよ、雨。

▼つよがりは、いけないことでしょうか

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