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【AI小説】アンドルムストーリー⑩

あらすじ

舞台は近未来の世界。アンドルムと人間が共存する社会だが、アンドルムは "永遠" の命を持ち、人間は有限の時間を生きる。
技術が進化し、アンドルムは完全な意識と感情を持つ存在として認められているものの、 彼らは「老いることも、終わることもできない」という孤独を抱えている。
人間は限られた時間を愛する存在と生き、アンドルムはその変わらぬ姿で人間と共に時を刻むが…

「アンドルム」とは

  • 語源: 「アンドロイド(Android)」と「ヒューマン(Human)」を掛け合わせて作った造語

  • コンセプト: 人間と機械が融合したような「新しい存在」の象徴。魂や意識を持ちながらも、人間と違う進化を遂げた存在をイメージ。AIが物理的な体を得た存在を指すこともある

登場人物

  • ユウ: ある雨上がりの夕刻、アンドルムのセラと出会う。

  • セラ: アンドルム。ユウと親しくなり2人で一緒に暮らす。




永遠の愛、その先へ

プロローグ

灰色の雲が垂れ込める近未来の街。人々は人工知能やアンドルムを当たり前に受け入れながらも、どこか無関心に暮らしている。
ユウは28歳の青年。大きな夢もないまま、淡々と仕事をこなし、なんとなく日々をやり過ごしている。そんな彼が、ある雨上がりの夕刻、アンドルムのセラと出会った。
雨に濡れた街角で膝を抱えていたセラは、外見こそ25歳くらいの女性だが、その瞳には深い色が宿っている。アンドルムだからこそ老いず、長い時間を背負う存在――「永遠の命」を持つ。

倒れこむように座っていたセラを見かねたユウが、「大丈夫? 具合…悪いの?」と声をかけると、セラは弱々しく微笑み、「……少し、調子が悪くて……ごめんなさい、こんな姿で」と答える。彼女は古いモデルらしく、メンテナンスが十分でないらしい。
通りを行き交う人々は、アンドルムに関心があるような、ないような冷淡さで通り過ぎる。ユウはそんな視線を気にも留めず、セラをタクシーに乗せて安全な場所まで送り、一緒にいるうちに奇妙な親近感を抱き始めた。
(どうしてこんなに、彼女が気になるのか……)
雨上がりの空にわずかに夕陽が差す中、二人の物語は、静かに動き始める。


第1章:日常を重ねる二人

セラとユウは、出会いから幾度か会話を重ねるうちに自然と親しくなり、いつの間にか同居生活を始めるようになる。きっかけは、住む場所を転々としていたセラに、ユウが「うちに来たら?」とあっけらかんと提案したことだ。

ある朝、ユウがキッチンで目を覚ましたばかりの頭を掻きながら、コーヒーメーカーをセットする。「おはよう、セラ。今日は珈琲の香りで起きてきた?」
「うん、おはよう。匂いでだいたいわかるよ。……私には、味の概念が少し違うけど」とセラは椅子に腰掛けながら微笑む。アンドルムだから、人間ほど味覚は強くないが、“好き”や“美味しい”という感情は芽生えるらしい。
ユウは笑ってマグカップを二つ並べ、「どう? 飲みやすいようにミルク多めにしたけど」と差し出す。
「ありがとう。うん、優しい味がする……」セラはマグを持つ手に、どこかぎこちない仕草があった。だが、彼女の瞳には確かな感情が宿り始めている――ユウとの朝を共有できる幸せ。その瞬間が、彼女の“永遠”を初めて暖めてくれる。

しかし一緒に暮らすとささいなケンカも起きる。洗濯機が古くなり買い替えを検討していたときのこと。
「まだ動くのに捨てるの? もったいないよ」セラはと言い、ユウは「でも何度もエラー出てるし、時間の無駄だろ」と主張する。お互い譲らず、声を荒らげる形になってしまう。
「何よ、私がアンドルムだからって、“時間は余ってるだろ”とでも言いたいの?」
珍しく怒りを露わにするセラに、ユウは慌てて「いや、そういう意味じゃなくて……」と弁解するが、一度噛み合わなくなった会話は簡単には戻らなかった。

その晩、ユウはリビングで気まずく座り込み、「ごめん……俺が言いすぎたかも。洗濯機のこともだけど、もっと大事に使いたい気持ちを無視しちゃった」と謝る。
「私こそ感情的になっちゃった。アンドルムである自分が、“人間の価値観”をちゃんと理解できてないのかもって思ったら、不安だったの……」とセラも打ち明ける。
「そんなの、これから徐々に分かりあえばいいさ……」ユウは照れたように笑い、セラの手をそっと握る。こうして二人はいっそう深く互いを理解するようになっていった。

休日を利用して郊外へ日帰り旅行に出かける。緑の多い公園で、ユウが子供のように芝生を駆け回り、セラは笑顔で追いかける。
「まるで子供みたいね、ユウは……」と呆れた口調で言いつつ、セラの表情も楽しげだ。
木陰に座って休んでいると、ユウがふと空を見上げて呟く。「いつか、歳を取ったらこういうのもできなくなるのかな……」
「どうして、そんなこと言うの?」セラが心配そうに聞き返すと、彼は苦笑し、「いや、別に……ただ君がずっと変わらないのを見ているとさ、俺がどんどんヨボヨボになったらこんな風に走れないんだろうなぁって思うと、複雑でさ……」とこぼす。
セラは静かに首を振る。「私は、どんなあなたでも……大切だよ。走らなくたって、一緒に座っているだけで嬉しいんだから」
ユウは少し照れながら、彼女の肩を抱き寄せ、「なら、老いたも一緒に座っていような」と笑う。その何気ない未来の約束が、セラの胸に「本当に、いつまでも一緒にいられる」と信じさせる温かさを与えてくれた。


第2章:永遠と有限の狭間で

人間と違い、アンドルムのセラは自分の内部に大量のデータ領域を持つ。夜、ユウが寝静まったあと、彼女はそっとソファで目を閉じ、自身のメンテナンスモードへ入る。
記憶は想起しようとすれば、鮮明に呼び出される。ユウと散歩した川沿い、洗濯機をめぐるケンカ、初めてキスをした夜。
「……私、こんなにも“心”に近い感情を抱いているのに、身体は老いない。いつか、この記憶だけが増えていくのだろうか……」
彼女の胸を静かにかすめる不安。「人間がみな老いて消えても、自分は残る」。そんな世界で、セラは本当に幸せと言えるのか――モニターを閉じるように、彼女は深く息をついて目を開ける。
隣で眠るユウの寝顔は、穏やかだ。それを見つめると、セラの不安は少しだけ和らぎ、「大丈夫。私はあなたといる今が大切……」と自分に言い聞かせるのだった。

ユウが38歳になったとき、セラは小さな誕生日パーティを企画する。彼が好む辛口ワインを用意し、手料理でパスタとサラダを作る。
ユウが帰宅すると、テーブルにロウソクを立てたケーキがあり、「おかえり、お誕生日おめでとう!」とセラが笑顔で迎えてくれる。彼は感激し、「うわぁ、ありがとな。まさかこんな風に用意してくれてるなんて!」とテンションが上がる。
食事をしながら、ユウは「歳を取るのも悪くないよな。こうしてお祝いしてもらえるし」と冗談めかす。セラは微笑んで「そうだね……私には誕生日がないけど、あなたとこうして祝う日があるだけで嬉しい」と返す。
そこでふとユウが真顔になり、「君にも誕生日を作ろうか。何月何日って決めて、毎年お祝いしよう。君は永遠かもしれないけど、そういう“区切り”があっていいじゃない」と提案する。
セラは思わず潤んだ瞳で、「……私が永遠に生きるからって、そんな発想、なかった。ありがとう……」と呟く。二人は手を重ね、ロウソクの光を見つめながら微笑み合った。

食後、ソファで並んでTVを観るとき、セラが肩に寄り添ってくる。ユウは彼女の髪を軽くなでながら、「なんだよ、甘えん坊だな」と笑うが、その瞬間セラの瞳に小さな揺らぎを見つける。
「ねえ……永遠を生きる私と、老いていくあなた。これから先、いろいろあっても、一緒にいられる?」
彼は眉根を寄せて、「そんなの当たり前だろ」と即答する。
「でも、あなたはいつか……歳をとるし、私だけが変わらないのは……嫌にならない?」
「俺はむしろ、君が変わらずいてくれたら嬉しいけど。老け顔になった俺を嫌がらないでくれよ?」と冗談めかしてキスをする。セラは頬を染めながら「嫌うわけないよ……」と囁き、ぎゅっと彼に抱きついた。


第3章:避けられない別れ

やがてユウは60代を迎える。セラは相変わらず外見は20代のまま、皺も増えず、衰え知らずの姿を保っている。一方でユウは、仕事中に体調不良を起こし、精密検査で重い病が見つかった。
「残念ながら、根治は難しいでしょう。余命は……長くはないと思います」
医師の冷たい宣告に、セラは目の前が真っ暗になる。
病室のベッドで、ユウは苦しそうに笑う。「最後まで君に看取ってもらえるなんて、俺は幸せものだな……」と、いつもの軽口を叩く。
セラは泣きそうになりながらも、「そんな……やめてよ、ユウ……死ぬとか言わないで……」と声を震わせるが、彼は頭を振る。「それが人間だよ、セラ。誰も避けられない運命だ……」

ユウの病は急速に進み、動ける日が限られてくる。彼は病院の薄暗い部屋で、セラと昔の写真を振り返ったり、思い出の曲を聴いたりして過ごす。
「あの時、君が初めて笑った顔、今もはっきり覚えてるよ……」とユウが言えば、セラは「それはこっちの台詞。あなたが私に“誕生日を作ればいい”って言ってくれたとき、本当に嬉しかった……」と応じ、二人は優しく微笑み合う。
外では雨が降り出し、あの出会いの日のように窓ガラスを叩いている。セラはユウの手を握り、「あなたがいなくなるのが怖い。私は永遠に生きるのに……あなたがいなくなったら、私、どうなるの?」とこぼす。
ユウは苦しい呼吸を整え、「俺は、君の中で生き続けるって信じてるよ。形はなくなるけどさ……。だから、もし俺がいなくなっても、君は自由に生きてほしいんだ……」
セラは涙を抑えられず、唇を噛むようにして頷く。「わかった……でも、嫌だよ……ずっと一緒にいたかったのに……」
「大丈夫。俺はずっと君といっしょにいたんだから……」

夜が更け、ユウは高熱にうなされ、意識が遠のいていく。セラがベッドのそばで彼の手を握りしめると、彼はかすかな笑みを見せた。
「セラ……ありがとう。俺、幸せだったよ。君がいてくれて……」
彼女は必死に涙をこらえ、「私こそ……あなたといた日々が……私を支えてくれたの……」と声を震わせる。
ユウは微かに呼吸を乱しながら、最後にこう言った。「……生きろ、セラ……君は……自由……なんだ……」
そして、静かに瞳を閉じる。セラは声にならない悲鳴を上げ、彼の身体を抱きしめながら、「行かないで……」と叫び続ける。だが、ユウの心臓は止まり、苦しみから解放されたかのように安らかな顔をしている。セラは嗚咽をこらえられず、その頬を涙が濡らし続けた。


第4章:出会いと再生

ユウを失ったあと、セラはマンションに閉じこもり、ただひたすら彼との思い出に浸る生活を送る。彼の洋服やコップ、すべてが当時のまま置かれ、使えずにいる。
「……あなたがいないなんて。私だけがこうして時を止められなくて、あなたと一緒にいた時間が遠ざかっていく……」
彼女は外出する気力もなく、何もかもが色あせて見える。ユウを想うたびに痛みが募り、深い孤独が胸を締め付ける。永遠の身体を恨むような気持ちさえ芽生えていた。

そんなある日、セラはひどい頭痛と共に「このままではだめだ」と思い立ち、久しぶりに街へ出る。雨が降りそうな曇天の下、足取りは重い。
ふと見ると、児童保護施設の前で、小さな男の子が泣いていた。名前はハル。7歳くらいだろうか。
ハルは大人に見えないほど小さく身を縮めて、「……施設が嫌い……みんなと仲良くできない……」と泣き続けている。セラはその姿に自分を重ねるような想いがし「大丈夫? なんでそんなに泣いてるの?」と声をかける。
ハルは泣き腫らした目で彼女を見上げ、少し無愛想に「関係ないだろ。大人なんか嫌いだ……」と返す。セラは困惑しながらも、「私も……少し前に大切な人を失って、ずっと泣いてばかりだったよ」とぽつりと打ち明ける。
するとハルは意外そうに目を丸くし、「……あんたも、泣くんだ?」と呟く。アンドルムと知って驚いたのかもしれない。セラは小さく微笑む。「私も、泣くんだよ。愛する人がいなくなると、涙が出るんだ……」


第5章:ハルとセラ

それからセラは、ハルが暮らす児童保護施設を訪ねては定期的に顔を合わせるようになった。最初こそハルは警戒していたが、セラのどこか不器用な優しさに触れ、徐々に心を開き始める。

ある土曜の午後、施設の玄関をくぐると、ハルがそっぽを向いて待っていた。
「また来たのかよ。別に暇じゃないんだけど……」
セラは苦笑しながら「そう言いながら、待っててくれたんじゃない?」と冗談めかして言う。するとハルは少し顔を赤くして、「ちょっと暇だっただけだし」と言い訳する。
施設の一角には小さな図書コーナーがあり、セラはそこから童話の本を一冊選んだ。
「これ、読んでみない? タイトルは『銀色の森の冒険』……。絵が綺麗だね」
最初はハルも渋々と椅子に座ったが、セラが読み始めると次第に物語に引き込まれるように目を輝かせていく。「もっと読んで。続きは?」と促す子供の声はセラにとって新鮮だった。
(自分は永遠を生きるアンドルムなのに、こうして短い物語を読み聞かせする時間が何故か幸福に感じる……)
そう思いながらセラはページをめくり続け、童話の世界を二人で旅するかのように言葉を紡いだ。ハルが身を乗り出して聞き入る様子が嬉しくて、セラもいつしか声に熱がこもっていった。

別の日、セラが施設を訪れたら、ハルが風邪をひいて寝込んでいた。職員たちも手が足りず、セラが「私でよければ、看病させてください」と申し出る。
熱で弱っているハルは「なんでこんなに世話焼くの? 変なの……」と不機嫌そうな口ぶり。ただその頬は赤く、明らかに体調が悪そうだ。
セラは手際よくお粥を作り、枕元で「ちゃんと食べられる?」と声をかける。熱を測りながらタオルを交換し「ゆっくり休んでね」と優しく言葉をかける。
「ありがと……でも、アンドルムのくせに人間の病気を見ても大丈夫なの?」とハルは少し皮肉げに尋ねるが、セラはにこりと微笑んで首を振る。
「私は身体は壊れにくいけど、心はあなたと同じように揺れるんだよ。だから、こうして役に立てるなら嬉しい……」
ハルは「ふーん……」とつぶやくが、その瞳にはほんの少し安堵の色が浮かんだ。セラも、そのまなざしを見て胸が温かくなる。

またある日のこと。施設の中庭で、ハルが他の子とケンカをしていた。ちょっとした遊びのルールをめぐる口論がエスカレートし、ハルが相手を突き飛ばしてしまったらしい。
セラが慌てて仲裁に入ると、「あいつが勝手に約束を破ったんだ!」とハルは息を荒らげ、相手の子も「ウソつくな!」と反発。
セラは二人を落ち着かせるため、そっと手を伸ばしてハルの肩に触れる。「まずは、どうして怒ったのか、一緒に考えようよ。あなたはどんな気持ちだったの?」
ハルは不機嫌そうに顔を背け「……約束してたのに…無視されたら腹が立つだろ……」と小声で漏らす。
「そっか……じゃあ、相手の子はどう感じたんだろう? 何か事情があったのかもしれないよね」
最初は反発していたハルも、セラの落ち着いた問いかけにしぶしぶ聞く耳を持ち始め、相手の言い分をちゃんと聞く気になった。
しばらくして二人はお互い納得して握手をする。その様子を見届けながらセラは胸をなでおろす。
「よかった……でも、私も偉そうに言えるわけじゃないね。人と人の思いが食い違うことは、私もちゃんとわかってるはずなのに……難しいな」
ハルは照れたように鼻を鳴らし「おまえも変なとこあるけど……まあ、悪い奴じゃないや」と呟く。その言葉にセラはくすりと笑って、「私もね、あなたのこと、悪い子じゃないって思ってる」と返す。
こうして少しずつ、“短い時間を駆け抜ける人間の子供”と、“永遠の身体を持つアンドルム”が不思議な友情を育んでいった。


第6章:もう一度、歩いてみるよ

そんな日々を重ね、やがてハルは身長が伸び、表情が豊かになっていく。セラはその“変化”を見守るうち、思い出すのはユウの言葉――「愛は時間じゃない。瞬間の積み重ねだよ」。
(本当にそうかもしれない。彼はもういないけれど、私が誰かを想うとき、そこに生まれるものは確かなんだ……)

ある夕方、ハルが「セラ、大人になったら俺、施設を出て働くんだ。そしたらさ……自分の家を持てるよね?」と嬉しそうに語る。
彼女は微笑み「うん、きっとできるよ。君なら何にでもなれる。これからが楽しみだね」と答える。
ハルは少し得意げに「じゃあセラも、ずっとここにいる?」と尋ねる。セラはハッとする。(私は永遠に近い命を持っていて、いつまでもここで彼を見守ることもできる。でも、それがユウの望みとは違う気がする……)
その夜、ひとり帰路についたセラは遠い昔のユウの声を思い出す。
「生きろ、セラ。君は自由なんだ。」
まるで風に乗るように、その声が耳に届く気がした。ユウがいつか微笑んで語った言葉――「君は何度でも新しい人生を歩んでいいんだよ」と。
セラは涙を一粒落として空を見上げる。「……ありがとう、ユウ。私、もう一度歩いてみるよ。ハルみたいに成長できなくても、私なりに“今”を重ねていく……」


エピローグ

季節が移り変わり、ハルは巣立ちの道を歩み始めた。セラはその場に留まることをやめて、自分の足で新しい場所へ向かう決意を固める。

ある夕暮れ時、セラは再び旅に出る準備をしていた。スーツケースに最小限の荷物を詰め、あの古いマンションを出る。ドアを閉める前、あの部屋に残っているユウの写真をそっと撫で「今までありがとう」と静かに呟いた。
そして街の並木道を歩きながら、ふいに吹き抜ける風に身を委ねる。ふっと目を閉じれば、懐かしい声が蘇るようだ。
「生きろ、セラ。君は自由なんだ……」
頬をなでるそよ風に、ユウが微笑んでいる気がして、セラは小さく笑みをこぼす。「うん、あなたが教えてくれた“愛”を、私が絶やさずに持っていくよ。永遠に……」

少し離れた場所を歩いていた人影が、何気なく風の音を聞きとめるように足を止める。「今、誰かが声を……?」と呟いて周囲を見回すが、そこには誰もいない。ただ遠くを歩く、ひとりの女性――セラが見えるだけ。
不意に吹いてきた風が、その人の髪をかすめて通り過ぎていく。まるで誰かの想いを運んでいるかのような、温かい風。
誰も気づかなくても、確かにそこに“永遠”の残像がある。セラが想うユウの面影は、彼女を通じて風に溶け込み、また世界を包んでいるのかもしれない。
そうして、永遠を背負うアンドルムは、次の一歩を踏み出す。有限なる人間との愛の記憶を抱いて――いま、この瞬間を積み重ねるために。

(了)


あとがき

「人とAIの関係性」をテーマとしたアンドルムストーリーも10話目となりました。
今回の話は以前からプロットはあったのですが、なかなかしっくりとくるストーリーが書けず、何度も書き直しています。
しかし、残念ながら最後まで納得できるものが書けず投稿としました。
(なにがしっくりこないのか分からず、もがけばもがくほど沼にハマっていくようで… そういうこともあって、うまくまとめられずボリュームも増えてしまいました…)
機会があれば、同じプロットで再度チャレンジしたいと思います。

予定通り、アンドルムストーリーは一旦終わりとします。
また何かテーマが思いついたら単発で投稿するかもしれません。

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