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AIに怪談は書けるか⑥
「風の余韻」
深夜の路地裏はひっそりとしていた。ビルの隙間を縫うように風が吹き、乾いた音を立てながら空き缶を転がしていく。由香里は、タクシーも捕まらない帰り道にため息をつきながら歩いていた。疲労が全身に溜まり、何も考えたくない。ただ早く家に帰りたい。それだけだった。
そのとき、ふと視界の端に揺れる赤い光が見えた。古びた提灯が風に揺れている。「深夜営業」の文字がぼんやり浮かび上がり、その下には細い路地にぽつんと立つ屋台が見えた。引き寄せられるように近づくと、そこには「ラーメン」とだけ書かれた簡素な看板が立っている。
由香里は迷ったが、空腹には勝てなかった。躊躇いがちに木の椅子に腰を下ろすと、目の前に無表情な店主が立っていた。無言のまま、黙々とラーメンを準備している。鍋から立ち上る湯気が、霧のようにぼんやりと光をまとっているのが印象的だった。
やがて一杯のラーメンが差し出された。湯気の中から漂う香りが鼻をくすぐる。懐かしい。そう思った瞬間、どこか記憶の底を突かれるような感覚に襲われた。
「なんだろう、この感じ……」
由香里は箸を手に取り、麺を一口すする。柔らかくも弾力のある食感、濃厚なのにどこか優しいスープ。味わうたびに、胸の奥がじんわりと温かくなった。
だが、それと同時に不意に祖父の顔が脳裏に浮かんだ。
田舎の家で過ごした夏の日々、縁側で風を浴びながら二人で話した記憶。ずっと忘れていたはずの映像が、次々と鮮明に蘇ってくる。
「おじいちゃん……」
呟いた瞬間、周囲の空気が変わった。微かに風が吹き抜け、提灯の揺れる音が耳を打つ。
カサカサ……カラカラ……
風に枯葉が舞う音が混ざり、不意に冷たさを感じた。由香里は周囲を見渡したが、路地の奥も手前も暗く、屋台の周囲だけが異様に静まり返っている。気味が悪いほどの静けさ。
「風……強くなった?」
そう呟くと、店主がぽつりと口を開いた。
「その風は、まだ、あんたのの後ろで吹いているのかもしれないな。」
その一言が、由香里の背筋を凍らせた。何を言っているのか、意味が分からない。しかし、その声には妙な重みがあった。まるで彼女自身が何か知っているはずだと言われているような感覚。
ラーメンを食べ終わり、立ち上がろうとしたときだった。突然、強烈な風が吹きつけ、提灯の光が一瞬で消えた。
ゴォォ……ザザザ……
足元の砂利が舞い上がり、周囲は真っ白な霧に包まれる。目を凝らしても何も見えない。風が止んだかと思えば、耳元で何かが囁いたような気がした。
「……思い出せ。」
その瞬間、由香里は足元に視線を落とした。そこには誰かの足跡が無数に刻まれている。まるでここで立ち止まった誰かが、彷徨っていたかのように。
「何……これ……」
胸がドクンドクンと鳴り、息が浅くなる。恐怖で振り返ると、そこにあったはずの屋台が完全に消えていた。路地の奥に続く闇が、不気味に彼女を見つめ返しているようだった。
それから風が吹くたびに祖父の家の情景が頭をよぎった。白いカーテンが風に揺れる縁側の記憶――それは、最後に祖父と過ごした日の光景だった。あの日、祖父は優しい声でこう言っていた。
「また一緒に風を感じような。」
しかし、当時の由香里は疲れや苛立ちから、冷たく突き放すような言葉を投げかけてしまった。
「そんなの、いつでもできるでしょ!今は忙しいんだから!」
その後、彼女は祖父の家を訪れることはなく、数日後に祖父が亡くなったことを知った。葬儀にも出られず、そのまま時が過ぎた。
「……私は、逃げてしまった。」
由香里は拳を握りしめた。祖父の笑顔も、最後に吹いた風の感触も、すべてを思い出して胸が締め付けられる。あの縁側での風が、祖父とのすべてを象徴していたのだと、今さら気づいた。
由香里の周囲では奇妙なことが起こり始めた。窓を閉めても、風が家の中を通り抜ける感覚。鏡の前に立つと、風で髪が揺れるような動きが見える。
「……どうしてこんなことに?」
吹き抜ける風の中、祖父の家の縁側が何度も頭をよぎる。そこには、まだ言いそびれた言葉が残っている気がしてならない。
耐え切れず、由香里は祖父の家を訪れた。
荒れ果てた庭と壊れかけた縁側。そこに座り、そっと目を閉じた。吹き抜ける風が髪を揺らし、あの日の記憶を蘇らせる。懐かしさと後悔の入り混じった感情が胸に溢れる。
「……ごめんなさい、おじいちゃん……」
その時、不意に風が柔らかく吹いた。まるで祖父がそばにいるかのような感覚。彼の優しい声が、遠くで聞こえた気がした。
「元気にしているか?」
由香里は涙を流しながら、小さな声で答えた。
「……うん、大丈夫。」
それ以来、あの風はもう吹かなくなった。ただ、路地を歩くとき、微かに香るラーメンの匂いが、あの夜の出来事を思い出させるだけだった。
あとがき
今回は怪談になっていなくてすみません
この頃めっきり冷えてきたので、ChatGPTさんに「ラーメン」をテーマに温まるストーリーを依頼してみました
さて、前回のあとがきに書いた「トラウマになった作品」の件です
正解は…大林宣彦監督の「HOUSE ハウス」でした!
暗闇の中で響く「ハウス! ハウス!」という声が耳について、只々怖いという記憶しかありません…
それと「太鼓の音と雄たけび」がなんだったのか、大人になって調べたのですが、どうやら「東宝チャンピオンまつり」で「キングコング対ゴジラ」を見に行った時に「HOUSE ハウス」の予告が流れていたようでした
※「東宝チャンピオンまつり」での「キングコング対ゴジラ」上映は1977年春、同時上映のヤッターマンの記憶もある
「HOUSE ハウス」は同年7月の上映なので、予告が流れていた可能性は十分にあり!
太鼓と雄たけびは「キングコング対ゴジラ」の冒頭のシーンにありました
「HOUSE ハウス」は予告編をみて、これは子供にはトラウマになるなと思いました…
③の「薄暗い中でネオンの明かりが点滅」は近所の銭湯だったようです
暗がりの中で、ジェット風呂が鮮やかなライトに照らされていたのを、映画館の暗がりの中の恐怖と一緒になっていたようでした
「HOUSE ハウス」はこれからも見れないだろうな…