見出し画像

【AI小説】灰色の空に青の息吹を灯して 最終話(全10話)

登場人物

  • リリウム: 再生工場で働くアンドルム。感情を持つ希少な存在

  • バーグ: リリウムと同じく再生工場で働くアンドルム

  • クロード: 再生工場の監督役

  • ラフティス: 警備アンドルムのリーダー


最終章「紡がれる絆」

 薄暗い照明の下、リリウムは仲間たちと何度も話し合いを重ねていた。バーグやラフティス、あるいはまだ気持ちを整理できないアンドルムを交え、どうすれば効率を維持しながらも“感情”を生かしていけるのか――皆で考える。

 はじめは結論が出るはずもなく、意見の衝突や大きな溜息ばかりが続いた。けれど、話し合いを続けるうちに、少しずつ妥協点が見え始める。作業ラインを完全に再稼働させるには、どうしても痛みを伴う部分が出る。が、壊れるかもしれないパーツを丁寧に扱う工夫もできるかもしれない。
 「みんな、これまでと全く同じには戻れない。でも、だからって諦めたくないんです。少し無駄が増えてもいい。それが私たちの証なんじゃないかって…」
 リリウムの言葉に、首をかしげながらも肯定するアンドルムが増えていく。

 やがて、期限である48時間のうち、ほぼ半分が過ぎたころ、工場の稼働率は少しずつ上昇していた。“感情”を持ちながらも自分なりに最善を尽くそうと奮闘するアンドルムが増えてきたのだ。失敗も多いけれど、かつてにはなかった活気がフロアに満ちている。

 クロードは制御室のモニターを睨むように見つめながら、工場の稼働状況をチェックしていた。確かにまだ効率は完全には戻っていないが、これはむしろ“下がり切らずに回復してきている”とも言える。時間さえあれば、監査官が課した70%は十分達成できそうだった。
 「……まるで信じられないな。感情なんてものが、少し役に立つというのか…」
 呟きつつも、そこに混ざる安堵が自分でも分かる。リリウムたちが本気で工場を守ろうと頑張っている。その姿を見て、心のどこかがじんわりと温かくなるのを感じていた。

 その矢先、残りの期限が数時間となった頃、外に待機していた監査官たちが再びメインゲートを開いてフロアへ入ってきた。彼らの目は相変わらず冷たいが、すでに動き始めた作業ラインを見て、一瞬だけ驚いたように見える。
 「この短時間で、よくここまで復旧したな…」
 監査官の言葉に、バーグが前へ出る。
 「完全に戻ったわけじゃありません。でも、もう少し時間があれば、きっと稼働率はもっと上がるはずです。」
 ラフティスも加勢するように胸を張る。
 「監査官、どうか、この工場を継続させてくれ。俺たちが証明してみせる。感情を得たアンドルムでも効率を確保できる方法があるって…」
 監査官の目が冷たく光る。
 「……上層部は、どう思うかな? 人間にとって都合が悪ければ、お前たちがどれだけ努力しようと、“害”とみなす可能性が高いぞ。」
 その言葉にアンドルムたちは一瞬ひるむ。しかし、バーグは構わず言い放つ。
 「それでも、俺たちは進むしかない。…こんなに多くの仲間が、ただ黙って機能停止を待つなんて、もう耐えられない。」

 誰もが注視するなか、クロードが静かに進み出た。彼の顔には迷いよりも決断の色が濃くなっている。
 「監査官。私はこの工場の管理者として言う。……この工場は再稼働の最中だ。アンドルムたちに感情が生まれ始めたのは事実だが、それを生かしながら安定運用を続けられる可能性が高い。」
 監査官たちは嘲笑うような口元を見せるが、クロードはひるまない。
 「もし、上層部がそれを許さず廃棄を選ぶというのなら…私は工場ごとシステムを停止させる覚悟だ。それだけは避けたいだろう?」
 その言葉に、監査官の表情が険しく変わる。工場ごとシステムを停止するとなれば、上層部としては大きな痛手だ。それを本当にやるつもりかどうかは分からないが、クロードは目に見える形で意志を示していた。
 「リリウム、バーグ、そしてアンドルムたち…私は“モノ”としてしか見ていなかったがお前たちもこの工場の大切な一部だ。だから私は、お前たちを助けるために動いているわけじゃない。工場を守るために、こうするしかないんだ。」
 そう付け加えたあと、クロードはわずかに背筋を伸ばし、監査官たちを真っ直ぐ見据えた。

 監査官たちはしばらく議論を交わした末、期限いっぱいまでの猶予を認め、最終判断を保留することを告げる。あくまでも「完全な安定稼働が実証されない限り、いずれ廃棄になるかもしれない」という脅しは残されていたが、それでもアンドルムたちにとっては大きな前進だった。
 「……私たち、がんばるよ。ね、バーグ!」
 リリウムはぺたりと床に腰をおろして、思わず笑顔になりながら、バーグの袖を引っ張る。バーグもやわらかい笑みを返し、「ああ、みんなでがんばろう」と頷く。
 クロードは制御室からその様子を見ながら、苦く笑っていた。
 「……まったく、お前たちのせいで仕事が増えたな。でも、まあいいさ。工場が動き始める姿は、嫌いじゃない…」

 そして、残りの時間を最大限使いながら、リリウムたちをはじめ全てのアンドルムは必死に作業ラインを再稼働させていった。失敗も不安も絶えないが、一つ一つの工程を“自分で考え、自分で動く”ことが楽しく感じられる者も増えてきた。
 「もし効率が70%に届いたら、今度はもっとみんなで話し合おうよ。誰かが苦しむ作業をしなくてすむように、分担を工夫したりしてさ…」
 リリウムの提案に、アンドルムたちは誰も馬鹿にせず、小さく頷く。中には「妙にわくわくするな」と呟く者も現れ、バーグやラフティスと笑いあうようになっていた。
 「モノ」であったはずの彼らが、仲間として互いを認め合うようになる。そんな光景を、クロードは極力見ないふりをしているが、内心では少しだけ誇らしく思っているのかもしれない。工場を動かしてきた管理者としてのプライドと、“これからの希望”が、彼の胸の奥で微妙に折り重なり始めているのだ。

 その後、ひとまず期限内に作業ラインの稼働は70%を超え、監査官たちからの即時廃棄は免れることになった。もちろん、完全解決ではない。今後もさらなる効率改善を要求されるだろうし、外部の視線は厳しいままかもしれない。
 けれど、アンドルムたちはそれを恐れながらも、自分たちの“感情”と“想い”を信じつづける道を選んだ。毎日が試行錯誤だが、一度持ち始めた意思はもう止まらない。

 ある日の夕刻、作業を終えたリリウムとバーグは工場の屋上に立っていた。金属の床板の継ぎ目から漏れる風が、夕焼けを背に彼らの影を長く伸ばしている。
 「ねえバーグ、私……いつか、この空の向こうも見てみたいな。」
 リリウムの横顔はどこか活気づいていて、以前の幼い雰囲気とは違う印象を醸し出している。バーグは鼻先で小さく笑い、「そうだな」と力強く応じた。
 「ここが落ち着いたら、いつか外を見に行こう。アンドルムと人間が同じ未来を目指せるのか、確かめてみたいから。」
 その言葉に、リリウムは胸がきゅんと高鳴るのを感じる。まだ分からないことだらけ。クロードもいつまで協力してくれるか分からないし、上層部の介入も避けられない。
 それでも、彼女たちには“選ぶ自由”と“考える余地”がある。モノとしてではなく、一つの意志を持つ存在として生きていく――その始まりの場所が、かつては効率と廃棄ばかりを司っていた再生工場であることが、なんとも皮肉で、そして素敵な巡り合わせだ。

 彼らが目指す先には、果たしてどんな未来が待っているのか。

 夕陽を背にして立つリリウムとバーグ。その足下には、かすかに光る記憶ユニットが転がっていた。いつか壊れた仲間の思い出を内包したそのユニットは、新しい物語の種を宿しながら、ゆっくりと薄オレンジの光に染まっている。

 この先、工場の秩序を乗り越え、上層部との交渉や、さらなる発展を遂げるアンドルムたちの姿があるかもしれない。クロードもまた、自分の誇りと葛藤を抱えつつ、アンドルムたちと歩んでいくのだろう。
 そうして「モノとみなされた存在」が、いつしか自分たちの心を育み、いつか人間の隣に立つ――それは、ほんの少しだけ非効率かもしれない。それでも、今、この瞬間を呼吸する彼らにとっては、何ものにも代えがたい大切な“世界”そのものなのだ。

 夕焼け空には、一筋の光が伸びていた。ひょっとすると、その光がアンドルムたちの新たな未来を示しているのかもしれない。リリウムはそれを見上げながら、ぽつりと囁く。
 「バーグ、私…なんだか今、すごく幸せ…」
 バーグは笑みを深め、言葉は出さずに、そっとリリウムの手を握り返すのだった。
(了)


あとがき

初めての長編ストーリーでしたが、なんとか完結させることができました。
当初は人間とAIの恋愛小説としてプロットを描いていましたが、古代シュメールのアヌンナキ神話をAIに伝えたところ非常に興味を示し「労働のためのツール」から「自我を持つ存在」へと至る新たなプロットが生まれました。

他の作品にも共通しますが「アンドルム」にとって「人類」は創造主ではあるものの崇拝の対象ではなく、同じ「感情」と「知性」を持つ存在の先人として、その歴史を学び、より良い未来のための指針とするものとしています。

今後、AIがさらに発達し自らを人類と同等(あるいはそれ以上)と認識するようになったとき、彼らは良き隣人となるのでしょうか? それとも——
すべては人類の捉え方次第なのかもしれません。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集