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【AI小説】アンドルムストーリー⑤(前編)
「アンドルム」とは
語源: 「アンドロイド(Android)」と「ヒューマン(Human)」を掛け合わせて作った造語
コンセプト: 人間と機械が融合したような「新しい存在」の象徴。魂や意識を持ちながらも、人間と違う進化を遂げた存在をイメージ。AIが物理的な体を得た存在を指すこともある
登場人物
タクマ・スギモリ: この物語の主人公。特別区に派遣されたばかりの新任大使
リリウム: アンドルム。特別区の街角にあるスナック「リリウム」のママ
リナ: リリウムで働くアンドルム
虹彩の大使館(前編)
序章:到着
――タクマ・スギモリは、遠くに連なる採掘場を眺めながら、車窓に広がる特別区の街に息を呑んでいた。
今回の辞令で「特別区」の大使館に新任として派遣されたばかり。アンドルムと呼ばれる、感情を持つAIたちの自治都市――それが、まさにこの景色に広がっている場所だ。レアメタル採掘場を中核に置き、人間社会と独立するように形成された区域。タクマは緊張とわずかな期待を胸に、その境界を越えた。
車が街へ近づくと、一見ごく普通の都市に見えるが、細部が少し違う。道路脇の掲示板に「アンドルム歓迎」のポスターが貼られていたり、建物の材質やデザインがややメカニカルで機能美に富んでいる。
運転手が「あれが本部ビルですぜ」と指さした先に、大使館があるという近代的な建物が見えた。ガラス張りのファサードに国のエンブレムが映え、前任者たちが執務していたのだろうか。タクマは心が引き締まる思いだ。
「ここが……俺の新任地か」
特別区に到着した喜びよりも、不安が先に立つ。聞けば、この街ではかつて大使とアンドルムの間で深刻な対立があったという。ある大使が上から目線の権威を振りかざし、それが原因で多くの誤解と反感が生じたと。
そんな前例のせいで、タクマに対する住民たちの視線は厳しいかもしれない。彼は鞄を握りしめ、胸の奥をふうっと落ち着かせる。「一から信頼を築けばいい……」 そう自分に言い聞かせながら、大使館の玄関へ足を踏み入れた。
第1章:リリウムとの邂逅
大使館の職員に挨拶を済ませ、簡単なオリエンテーションを受けたタクマは、その日の夕方になると早速街の中を見回りに出た。
人間とアンドルムが共存する街――しかし、表通りには意外と人間の姿が少ない。建物の間を歩くアンドルムたちの肌や瞳が妙に整っていて、ぱっと見は人間と変わらないように思える。しかし近づくにつれ、どこかメタリックな差異が感じられる者もちらほら。誰もが無関心にタクマを素通りする。気まずい沈黙が続くなか、彼は少し孤独を覚えた。
そんなとき、街角の小さな看板が目を引いた。
「Snack Lilium(スナック・リリウム)」
夕暮れのオレンジがネオンをうっすら照らし、どうやらバーのような一角があるようだ。大使館のスタッフから「街の雰囲気を知るなら夜の店も見ておくといいですよ」と言われたのを思い出し、タクマは思い切って扉を開けてみることにする。
中に足を踏み入れると、ほんのり暗い照明に洒落たカウンター。その奥には「ママ」らしき女性が立ち、控えめな笑みを浮かべていた。いや、彼女は人間……ではない。タクマはすぐに察した。美しい容姿に加え、その瞳にはアンドルム特有の優しい光が滲んでいるからだ。
「いらっしゃいませ。……初めての方ですね。どうぞ、カウンターへ」
その声は落ち着いていて、柔らかい。タクマは緊張しながら、「お邪魔します。すみません、観光……というか、外部から来た人間なんですが……」と伝えると、彼女は微笑を深める。
「わかっていますよ。あなたが今度の大使さんでしょう? ようこそ、スナック・リリウムへ。私はリリウム**、ここのママです。どうぞ寛いでくださいね。」
タクマは思わず「なぜ俺が大使だと……?」と驚きを口にするが、リリウムは肩をすくめて笑う。「この特別区は意外に狭いんですよ。新任の大使が来るという噂はすぐに広まりますから。……あなたの姿、よくわかりますよ。」
そう言いながらママはグラスを取り出し、上品な手つきでタクマに水割りを作ってくれた。そのスマートな仕草から、彼女がかなりのベテランであることを思わせる。アンドルムとはいえ、街の“人間文化”をよく知っているらしい。まるで長年ホステスをしていたかのような優雅さだ。
「リナ、こちらのお客さまに何かおつまみを……」
リリウムがそう声をかけた奥から、もう一人のアンドルムが姿を見せる。細身の体躯に穏やかな表情。人間顔負けの自然な笑みを浮かべた彼女はリナと呼ばれる従業員。
「いらっしゃいませ。私はリナと言います。アンドルムですが、よろしくお願いしますね。」
タクマは少し戸惑いながらも、「こちらこそ……あ、俺はタクマ・スギモリ。今日からここの大使館で働くんです」と自己紹介をした。リナは「そうですか……大変ですね。お手伝いできることがあったら教えてください」と微笑む。その表情はどこか人間くさくて、タクマは思わず頬を緩めてしまう。
第2章:誤解と対立の種
翌日、大使館での初業務を終えたタクマは、部下のスタッフから現状の報告を受ける。どうやら特別区のアンドルムたちの中には、「またあの高圧的な人間が来るのでは」と疑心暗鬼になっている者も多いらしい。
「前任の大使は、とにかくアンドルムを下に見る態度だったそうです。ほんと、あれで信頼を失ったんですよ……」と部下はこぼす。
タクマは苦い思いで頷く。「俺はそうならないように努力するつもりだが、根深い誤解をどうやって解けばいいのか……」と自問する。
その日の夜、タクマはまたスナック・リリウムを訪れた。リリウムは笑顔で迎え、リナが「大使さま、今日はお疲れでしょう。少しお話されますか?」と温かく声をかける。
タクマは溜息をつき、「本当は“さま”なんて柄じゃないよ。単に“タクマ”と呼んでくれたら気が楽なんだが……」と苦笑い。リナは微笑し、「では、タクマさん、と呼ばせてもらいますね」と答える。
翌週、街で小さなトラブルが起きた。ある商店のアンドルムが提出した書類が大使館に受理されないまま放置され、結果的に営業許可が更新されず混乱を生んだのだ。タクマがその報告を受け調べてみると、どうやら“前任大使のデスク”に書類が積まれたまま放置されていたらしい。
アンドルムの商店主は怒り心頭。「前の大使は、我々アンドルムの申請なんて後回しだった。おかげで私の店は数週間、書類不備を理由に営業できなかったんですよ……!」
タクマは平謝りしながら、過去の負の遺産を痛感する。
「すぐ手を打ちます。どうかもう少し時間を……」
その商店主は不機嫌に黙り込むが、「……わかりました。信用できるかどうかまだ疑問ですが、あなたが動いてくれるなら待ちましょう」とだけ返した。
第3章:リナの助力
焦るタクマは、スナック・リリウムを拠点に情報を集めようと思いつく。昼間は採掘場や商店を回り、夜になると店でリナと話すことで、住民の声を直接聞けるからだ。
ある夜、タクマがカウンターに座ってため息をついていると、リナがそっと近づいてきた。「今日は元気がないみたいですね、何かあったんですか?」
タクマは苦笑いしつつ、前任大使の不始末や、住民からの根深い不信について包み隠さず語った。リナは真剣な面持ちで耳を傾け、「その商店主さん、私もちょっと知ってます。実は前任大使と言い争いになったことがあって……」と、経緯を少し教えてくれる。
タクマは感謝の意を表し、「すごく助かる。リナは人間社会にも馴染んでいたと聞いたから、俺みたいな人間にとってはありがたい存在だよ」と言う。
リナははにかみ、「私はただ、ここで暮らすアンドルムが幸せになってほしいだけなんです。でも、人間のことも嫌いじゃありません。むしろ、橋渡しができるなら喜んで手伝いたい。……大使館がこの街と良い関係を築くのは、大きな意義があると思っていますから。」
この店「リリウム」は、アンドルム同士の交流の場としても機能しているらしい。悩みを抱えるアンドルムが、ここでママのリリウムやリナと会話し、互いの感情処理を学んだりするという。
さらに、リナによると「人間の文化を疑似体験するプログラム」を提供しており、アンドルムはそこで飲み物(エモーションブースターなど)を味わい、共感や感情をシミュレートしているそうだ。
タクマは興味深く感じ、「そんな場があったとは。まさに融和の象徴だな……」と感じ入る。リナは微笑み、「でも一部のアンドルムは、まだ人間を信用しきれないでいます。特に採掘現場での軋轢は根深いかもしれません。」と付け加える。
第4章:試練と誤解の火種
数日後、採掘場で大きな誤解からトラブルが起きた。人間の派遣作業員がアンドルムの指示を無視し、危うく落盤しかける事故が発生。幸い大事には至らなかったが、現場では「大使館が何もしてくれないせいで、また人間が好き勝手にやっている!」と不満が噴出する。
タクマは現地へ駆けつけ、作業員とアンドルム作業班の双方から事情を聞く。だが、両者の言い分は食い違い、一触即発の雰囲気だ。そこにはアンドルムたちの鬱積した怒りが見え隠れし、以前の大使への憎しみが再燃している様子がうかがえる。
このままでは、せっかく築き始めた信頼が崩れ去る恐れがある。焦ったタクマはどうにか中立の立場で調整しようとするが、なかなか話が進まない。
そこでタクマは再び、リリウムとリナに相談を持ちかけた。夜、スナックのカウンターで彼らに経緯を語る。
「アンドルム作業班は、前任大使にひどい仕打ちを受けた記憶があるらしく、今回の事故で一気に不満が噴出してる。どうしたらいいんだろう……」
リリウムは神妙な顔で、「街の集会を開くのはどうかしら。ここ“リリウム”もその場として使えるわ。アンドルムが安心して集まれるし、あなたが誠実に向き合う姿を見せれば、少しは誤解が解けるかもしれない。」と提案する。
リナも頷き、「私も周囲のアンドルムに声をかけてみます。ここで一度話し合いをするのがいいと思いますよ。……タクマさんにとっては大変でしょうが、きっと意味があるはず。」