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白星学園怪奇譚 第3話
登場人物
夏木颯太:冷静で正義感の強い高校生。問題解決能力に長けておりリーダーシップを発揮する
月野ルナ:誠実で真面目な性格だが、好奇心旺盛。天文学や理系知識に詳しく観察力が鋭い
青山瞬:陽気で行動力のあるムードメーカー。謎の事象に興味津々で物理的な実験を手伝う
紅林明香:穏やかで優しい性格。心理学に詳しく事件の背景を探る
第3話 消えた街灯
プロローグ
白星学園の近くに住む高校生の間で「夜道で行方不明になる」という不気味な噂が広まっていた。噂の発端は学園近くの商店街を通る小道での出来事だった。ある夜、一人の男子学生が突然街灯の消えた道で姿を消し、翌朝ふらふらと戻ってきたのだ。彼は何が起きたか覚えておらず、「甘く懐かしい匂い」を感じた記憶だけが残っていた。
その話を聞いた颯太は、小さな苛立ちを覚えた。
「甘い匂いだって?何かおかしい。普通に帰ってくるなら行方不明じゃないだろ?」
だが、近隣住民や学園の教師も困惑していた。街灯が消える現象は続き、行方不明になる住民も増えていったからだ。
謎への挑戦
「颯太、行こうよ!」
ルナが静かに促す声に、颯太は顔を上げた。クラスメイトの瞬がスマホを片手に噂の現場である小道に向かう途中だ。
「こういうのって単なる都市伝説だろ?」瞬は軽口を叩くが、その声には緊張感があった。
ルナは颯太の横で、何かを考え込んでいるように見えた。
「甘い匂い……ね。何かを思い出しそうな気がする。」
彼らが現場にたどり着いた時、小道は薄暗い霧に覆われていた。3人はじっと立ち尽くし、しばらく何も起きないことを確認して、歩き始めた。
「ん?匂い……しない?」瞬が鼻をひくつかせる。甘い、どこか懐かしい香りが漂ってくる。
その瞬間、街灯がふっと消えた。暗闇に包まれる中、颯太の耳にかすかな囁き声のような音が聞こえた。ルナは小さく息を呑み、颯太の袖をつかんだ。
「これ……何かいるよね…?」瞬の声が震えていた。
甘い匂いが残した手がかり
翌日、颯太たちは学園の理科室に集まっていた。部屋に差し込む午前の陽光が、無機質な器具や薬品棚を柔らかく照らしている。だが、その場にいる3人の表情は重く沈んでいた。
ルナが、昨日の出来事を思い返しながら慎重に口を開く。「甘い匂い……あれ、たぶん植物の花粉だと思うの。記憶を引き出す効果があるものかもしれない。」
颯太は驚きこそしなかったが、やや驚いたように眉を上げた。「記憶を引き出す?」
「うん。」ルナはゆっくりと言葉を選びながら続けた。「香りって、脳の奥深くにある記憶とつながりやすいんだって。だから、特定の植物が作る花粉が脳に作用して、忘れてた記憶を呼び起こす……そんなこと、聞いたことがあるの。」
瞬が椅子にふんぞり返りながら眉をひそめた。
「花粉?そんなもので人を消すなんて、本当に可能なのか?」
颯太は瞬にちらりと視線を向けた後、短く答えた。
「電磁波だよ。」
「電磁波?」瞬が半信半疑な様子で体を起こす。
「昨晩、街灯の近くにあった変圧器……たぶん細工されてた。あそこから電磁パルスを流せば、周囲にいる人の脳波に干渉できる。それで意識を失わせたり、記憶に影響を与えたりすることも可能だ。」颯太は無造作に机の端に置かれた筆記用具を手に取り、無心で転がしながら説明を続けた。
「……昨日の状況を考えると、何か特別な仕掛けがあったはずだよね。甘い匂いと電磁波が組み合わされて、人を……その、操作するような……」
「で、それがわかったところで、どうするんだよ?」瞬は苛立つように椅子を回しながら言った。
颯太は溜息をつき、机から立ち上がった。「調べるしかない。仕掛けを作った奴を突き止めるんだ。」
その声には迷いがなかったが、目の奥にはどこか不安な色が見え隠れしていた。颯太自身、この異様な出来事に巻き込まれていることを感じずにはいられなかった。
瞬は立ち上がり、「まあ、行くしかないか。」と投げやりに言った。
ルナはかすかに笑みを浮かべた。「……きっと何か分かるはず。」
颯太たちは、わずかな希望と強い不安を抱えながら、理科室を出た。
真実の背後
倉庫の中は、暗く湿った空気が肌にまとわりつき、油と焦げた電気の臭いが鼻をついた。所々に灯る無数の小さなLEDライトが、機械の配線やモニターをぼんやりと照らしている。それはまるで、生命を持たない機械たちが無言で睨みつけてくるようだった。
壁沿いには人の私物らしき物が乱雑に積まれ、崩れた山の中からは誰かの写真、バッグ、そして靴がちらりと顔を覗かせている。人の生活の痕跡が、この倉庫の無機質な空間に異様な不調和を生んでいた。
中央には、冷たく光る銀色の装置が鎮座している。その筐体は無骨な形をしており、至るところにボルトとケーブルが張り巡らされていた。その上で赤い警告灯が不気味に点滅している。
颯太は声を潜めた。「……ここで、何をしてたんだよ。」
その時、倉庫の奥から足音が響いた。闇の中から現れたのは、やつれた顔をした中年の男だった。痩せ細った体に薄汚れたシャツを纏い、その目には異常な光が宿っている。
男は口元に薄い笑みを浮かべた。「君たち、よくここまで来たね。」
颯太は一歩前に出た。「お前が……街灯を消して、行方不明の人をさらった犯人か?」
男は答えずに、装置の脇に立ち、手を軽く滑らせるようにして触れた。「この装置を見てどう思う?素晴らしいだろう?人間の記憶を保存し、移植する……私の最高傑作だ。」
ルナが震える声で尋ねた。「記憶を……移植するって……どういうこと?」
男は目を細めた。「家族を失ったことはあるか?私の娘はまだ幼かった。交通事故だった。気づいた時には、もう二度と彼女の声も、笑顔も、この世界には戻ってこないと言われたよ。」
彼は装置を指差しながら言葉を続けた。「でも、私はこの世界から彼女を失うことを許せなかった。だから、彼女の記憶を生き続けさせる方法を探した。この装置なら可能なんだよ。彼女の記憶を他の人の脳に移すことで、彼女はその人たちの中で生き続ける。」
瞬が眉をひそめた。「おい、それって……他人を犠牲にしてるってことだろ?ふざけんなよ!」
男は瞬をじっと見つめ、静かに言った。「犠牲だと?違う、これは新たな『生』だ。彼らの記憶に娘が溶け込むことで、娘は再び笑い、話し、愛される存在となるんだ。私の計画は誰もが新しい絆を得るためのものだ。」
「お前、本気でそんなことを言ってるのか?」颯太は怒りで声を震わせながら問い詰めた。
ルナの顔は青ざめていた。「……でも、それは……娘さんの本当の記憶じゃない。それはただの……」
「ただの何だ?」男は冷たくルナを遮った。
「君は何もわかっていない。これは娘が戻ってくる唯一の方法なんだ!」
颯太はその言葉にたまらず叫んだ。
「そんなの、娘さんを冒涜してるだけだ!他人の人生を壊してまで、自分の記憶を押し付けてるだけだろ!」
瞬が男に詰め寄った。「だいたい、こんなことで本当に幸せになれると思ってんのかよ!?」
だが、男の目は憎悪に満ちていた。
「お前たちに何がわかる!?娘を失った父親の痛みが……!」
男は装置にすがりつくように手を置き、感情が抑えきれなくなったように叫び声を上げた。「お前たちに娘の笑顔を奪われるくらいなら、ここで全員消してやる!」
颯太たちは言葉を失った。彼の狂気じみた執着と絶望は、怒りを超えた何か、底知れぬ虚無のようだった。だが、颯太はその視線を逸らさず、静かに立ち向かった。
「……確かに、俺たちにはお前の痛みはわからないかもしれない。でも、それでも俺は許せない。他人を傷つけることで娘さんを生き返らせたって、それは本物じゃないだろ!」
ルナは震える声で付け加えた。「お父さんなら、娘さんがこんなことを望んでないって気づけるはず……」
男は苦しそうに顔を歪めたが、それでも装置のスイッチに手を伸ばそうとした。
悪夢の終わり
男が装置に手を伸ばした瞬間、颯太は迷わずその手を掴み、全力で引き戻した
「俺には止められないんだよ!」男は叫び、颯太を強く押しのけようとした。
「これは娘を生き返らせるための希望なんだ!それ以外に何がある!」
颯太は倒れ込みながらも、渾身の力で男を引き戻し、叫んだ。
「お前のせいで、家族を失った人もいるんだ!その人たちの気持ちはどうなるんだ!」
その一言は、倉庫全体に響き渡った。男の動きが一瞬止まり、その目が動揺で揺らいだ。颯太はその隙を逃さず、言葉を続けた。
「お前は娘さんを取り戻したいかもしれない。だけど、お前がさらった人たちの家族はどうなる?あいつらの親や子供や兄弟が、帰ってこないと知ったとき、どんな気持ちになるか考えたことがあるのか!」
男は押し黙った。彼の目には再び狂気の光が宿りかけていたが、その中に微かな迷いが見え隠れしていた。
「……そんなこと、知るものか……!」男は震える声で返した。「私には娘しかいない。だから、他人なんてどうだっていいんだ!」
颯太は男を押さえつけながら叫び返した。「他人なんてどうだっていいだと!?お前が守りたいのは本当に娘さんか?それとも、自分の満足かよ!」
その言葉に、男はハッとしたように目を見開いた。その手が装置の操作盤に伸びかけるが、今度は震えて止まる。
「俺はお前の気持ちを完全に理解するなんて言わない。でも、お前がやってることは、娘さんの記憶を守ることじゃない。他の人たちの大切なものを壊してるだけだ!」
男の肩が震えた。彼は装置に視線を落とし、呟いた。「……でも……これを止めたら、本当に娘は……」
「それでも!」颯太は力を込めて言い放った。「お前がこれを続ければ、また別の家族が苦しむ。お前の娘だって、そんなこと望むはずがない!」
その瞬間、颯太は男の手を振りほどき、装置の緊急停止ボタンに向かって駆け出した。男は呻きながらも立ち尽くし、止める力を失った。
装置の緊急停止ボタンが押されると、倉庫全体が深い静寂に包まれた。赤い警告灯が消え、機械音が途切れる。その場には、颯太の荒い息遣いと、男の嗚咽だけが残った。
「……私は……何をしていたんだ……」男は膝をつき、震えながら頭を抱えた。
颯太は肩で息をしながら答えた。「お前が失ったものは戻らない……でも、他の人の大切なものまで奪う必要なんてなかったんだ。」
ルナがそっと颯太の隣に立ち、穏やかに言葉を付け加えた。
「娘さんを忘れないでください。でも、その記憶を守る方法は、きっと他にもあるはずです。」
男は涙を流しながらうなだれ、もう抵抗しようとはしなかった。
装置は停止し、街灯の明かりが再び灯った。
エピローグ
事件から数日後。夕焼けに染まる校庭を眺めながら、ルナは一人ベンチに座っていた。目を閉じると、あの日、倉庫で感じた甘い匂いが蘇る。
それは不思議と心を揺さぶる香りだった。どこか懐かしく、けれど胸が締め付けられるような感覚。匂いに包まれるたび、ルナの頭に浮かぶのは、自分がまだ幼かった頃の記憶だった。
──温かな光に包まれた庭園で、優しい声が語りかける。顔は見えないが、笑い声だけが鮮明に耳に残る。ルナは無意識にその手を伸ばそうとするが、いつも届くことはなかった。
目を開けたルナは小さく息を吐き、ベンチの背もたれに寄りかかった。「……これは、私の記憶なのかな。それとも……」
「ルナ、大丈夫?」不意に後ろから颯太の声がした。ルナは小さく微笑み、手元の缶ジュースを握りしめた。
「うん。ただ、あの匂いのことを思い出してたの。」
颯太は隣に座り、空を見上げる。
「あの装置の影響を受けたのかもな。」
ルナはその言葉に頷いた。「ねえ、颯太……もし、私が自分の記憶を全部信じられなくなったら、どうすればいいのかな?」
颯太は一瞬考え込むように黙り込んだ後、少し笑って答えた。「信じられる部分を見つければいいさ。それだけで十分だろ。」
ルナはその言葉を胸に刻むようにしながら、微かに香るような甘い匂いを、まだどこかに感じていた。
翌日、明香が駆け寄ってきて、不安げな表情で切り出した。
「颯太君、ルナちゃん、ちょっと聞いてほしいの。」
「どうしたんだ、そんな慌てて。」颯太が身を乗り出すと、明香は低い声で続けた。
「……昨日、街灯がまた消えたの。それでね、あの甘い匂いも漂ってたって……」
「嘘だろ?」瞬が信じられないという顔で口を開く。
「あの装置は壊したはずだ。どうしてまた……?」
颯太たちは重い沈黙の中で立ち尽くした。その背後で、校庭の街灯が僅かにちらつき、一瞬だけ甘い匂いが漂ったような気がした。
あとがき
生成AIが物語を作れるならと、お仕事での生成AIの使い方を工夫してみました
ワークシートやシナリオを元に、生成AIで複数人にセッションをさせてみて、レビュー前の資材チェックをしてみました
まだ手探り状態ですが、ワークシート項目やシナリオの不備や漏れを”そこそこ”見つけられそうです