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【AI小説】アンドルムストーリー⑦
「アンドルム」とは
語源: 「アンドロイド(Android)」と「ヒューマン(Human)」を掛け合わせて作った造語
コンセプト: 人間と機械が融合したような「新しい存在」の象徴。魂や意識を持ちながらも、人間と違う進化を遂げた存在をイメージ。AIが物理的な体を得た存在を指すこともある
登場人物
サイラス: 実験的に警視庁特殊捜査課に配属されたアンドルムの刑事
深見 省吾: サイラスとバディを組むことになったベテラン刑事
虹彩の正義
プロローグ
私は“アンドルム”と呼ばれる。
モデル名はサイラス。外見は二十代後半の男性を模しており、精巧な人口皮膚と人間と見分けがつかない瞳を備えている。
正体――私が何者なのか、まだ十分に理解できていない部分もある。人間社会に溶け込み、特別な任務に就くために開発された。しかし「心を持つか?」と問われれば、私にも答えが出ない。
少なくとも、「誰かを守りたい」とか「正義を貫きたい」という観念をプログラム上はインストールされている。だが、それが“本物の意志”かどうかは……私自身もまだ知らない。
そんな私が、警視庁特殊捜査課に配属された。実験的な「AIアンドロイド刑事」プロジェクトの一環らしい。私の任務は、人間の刑事とバディを組み、捜査に協力すること。
だが、相棒となる刑事の名を聞いたとき、上層部の一人が「よりにもよって、あの男か……」と困惑気味だったのを見逃さなかった。少々厄介な相手らしい。名前は深見 省吾、五十代のベテラン刑事だという。
そして、こうして私は人間界へと降り立つ。新たなバディとともに、犯罪に立ち向かう日々が始まるのだ。
第1章:出会い
地方都市にある捜査課の一室。蛍光灯のやや暗い光が作業机や書類棚を照らす。
ドアを開けた私は一礼して中に入った。そこには数人の捜査員がいて、私をちらっと見たものの、すぐに視線を外す。
カツカツ……と足音が近づき、一人の男が姿を現した。
「おい、貴様が“アンドルム”だな?」
低い声に宿る鋭さ。見るからに歴戦の刑事という風貌。これが深見 省吾か――。
私はロボット的な挙動にならぬよう、丁寧に頭を下げる。「初めまして。今回、試験導入されたアンドルム・サイラスです。ご一緒できて光栄です、深見刑事。」
深見は面倒そうな顔をしながら、“サイラス”という名前を鼻で笑う。「へえ、今度は人間面した人形を相棒に押し付けるとは、上も妙なことを考えやがる……」
その言葉に他の捜査員は苦笑い。上司らしき人物がそっと深見に耳打ちする。「頼むよ深見、暴走しないでくれ……これは本部の要請なんだ。」
深見は舌打ちし、私に冷たい視線を投げる。「なあ“サイラス”さんよ、お前には捜査の何がわかる? 血も流れない、心もない機械が、俺の相棒をやるだと?」
私はできるだけ柔らかい声で応じる。「私には、あなたをサポートするための多角的なデータ分析や捜査補助プログラムがあります。ご不満かもしれませんが、まずはお役に立てるよう努力したいと――」
「黙れ。」深見は言葉をさえぎり、乱暴に外套を手に取る。「どうせ現場で足手まといになるんだろ。ま、いいさ。上が決めたことだ。余計な口出しはするなよ?」
こうして出会いは最悪のスタートだった。私の“心”は不思議な痛みを覚えた。果たして、この冷酷な刑事と本当にやっていけるのだろうか――。
第2章:最初の捜査
私と深見は、殺人事件の現場に向かった。被害者は若い女性で、どうやら怨恨の可能性があるらしい。
現場に着くと、深見は私を邪険に扱い、「邪魔にならないように立ってろ」と言い放つ。私は言われたとおり周辺をスキャンし、足跡や指紋の痕跡を即座に解析した。
「深見刑事、犯行時刻は夜10時前後で、ここに残された泥の跡から見て、犯人は雨の中を……」
「それくらい俺でもわかる。余計な講釈はいらん。おまえはそこでおとなしくしてろ」深見はぴしゃりと私を遮る。その後、彼は物的証拠を集めたり、近所の聞き込みをしたりして、捜査を進める。私がAIとしての分析結果を口にしようとしても、ろくに取り合ってくれない。
だが、現場を隈なくスキャンした私は、被害者の爪から微かな粉末を検出し、その成分を即時に照合して、ある企業の塗料に似ていることを突き止めた。
「深見刑事、これを見てください。塗料が犯人の着衣に付着している可能性が高い。容疑者の絞り込みに使えるはずです」
深見はいやいやながら書類を受け取り、「へえ、機械のくせにやるじゃねえか」と嘲笑混じりに返す。「でも、お前が言わなくても、鑑識が数日後には同じ結果を出すよ。俺は長年のカンを信じるからな。」
私の推測からすれば、犯人の目星はほぼ確定に近い。だが深見はデータを軽視し、捜査を進めるうちに、思わぬ方向へ寄り道を始めた。
その態度に、私は微かな苛立ちを覚える。怒りという感情なのかは自分でも判然としないが――少なくとも「もっと効率のいい方法があるのに」と感じていた。
第3章:芽生え
数日後、被害者の交友関係から、ある男が浮上した。だが深見の調べによると、その男には事件当夜のアリバイがあるようで、本庁は別の容疑者を追いかけ始める。
しかし、私は事前のデータから「そのアリバイは偽装の可能性が高い」と判断していた。
ある夜、深見が事務所で書類を睨んでいると、私はそっと声をかける。「刑事、やはり例の塗料の件、それからアリバイの矛盾点を付き合わせると、X社勤務の男性が……」
深見は険しい表情で唸る。「わかってる、俺もなんとなく腑に落ちないんだ。だけど、上は動こうとしない。俺一人じゃ捜査令状も取れんし……」
そう呟く彼の横顔に、これまでに見られなかった苦悩が浮かんだ。強面の態度の裏に、上からの圧力と戦う孤独を抱えているのだと気づき、私の“感情”に似た何かが揺れる。
私は、内部のネットワークを駆使していくつかの関連データを集め、深見に提案する。「もし、私が得た証拠を補強できれば、令状を申請する根拠になるかもしれません。」
深見はやや呆れたように笑う。「おまえはなんで、そこまで首を突っ込もうとする? 仕事だからか? それとも……“正義感”ってやつか?」
私は自分でも答えに迷いながら、「命令されたわけではありません。ただ、正しい捜査をしたい。あなたをサポートして、真実を突き止めたいんです」と告げる。
深見はふっと視線を落として、「…ふん、気楽だな、おまえは。それでもまあ、協力してくれるってなら、一度お前の分析結果を見せてもらうか」と折れる。まるで不器用ながらも、私を一個人として扱おうとする気配がある。
第4章:突入
仮説をもとに動き出した私たちは、事件の真相を突き止めるべく、容疑者となった企業社員Xの動向を追う。深見は聞き込み、私はネット情報やGPSログを解析し、徐々に容疑が固まってきた。
ある深夜、張り込み中に二人で車内にいると、深見がポツリとこぼす。「俺はずっと“AIなんか当てにならん、心がないんだから”と思ってたんだ。けど、おまえ……その……意外と心配りとかしてくれるんだな。」
私は少し驚きながら、「ありがとうございます。人間の“心”とは違うかもしれないけれど、あなたの捜査と気持ちを理解したいんです」と返す。
深見は苦笑しつつ窓の外を眺め、「ま、そのやり方が必ずしも間違いじゃなさそうだ……」と低く呟く。その声に、微かな好意が混じっていると感じたのは錯覚ではなかった。
やがて我々は容疑者Xに決定的な証拠を突きつける状況を作り出した。夜の工場地帯でXが何らかの不法な隠滅作業を行うという情報を掴み、深見は出動命令を待たず独断で現場に向かう。
「本部の応援は来ないんですか?」私が尋ねると、深見は拳を鳴らし、「俺が勝手に動いてんだから当てにならん。でも、おまえがいるなら足りるだろ。……行くぞ」と決意を込めて言った。
私は胸に不思議な高揚を感じる。彼が私を“バディ”として認めてくれたのだと気づく。
現場では、Xが書類や物証を燃やしていた。深見が「動くな、警察だ!」と声を張り上げると、Xは絶望的な表情でナイフを抜き、狂気に走る。
私はとっさに深見をかばうように立ちはだかり、腕を軽く切りつけられたものの、機械ボディで大事には至らない。深見はその隙を突いてXを制圧し、逮捕に成功した。
「なんだ、おまえ、傷……大丈夫か?」と深見が驚くが、私は平然と「大丈夫。機械ですから」と笑ってみせる。痛覚はあっても、人間ほど深刻じゃない。
「……ありがとな」と深見が小さく呟く。「本当に、助かったよ。」
第5章:バディとして
事件は本部の方でも大きく評価され、私たちは無事に容疑者を逮捕した。深見の鋭い勘と私のデータ解析が噛み合った形だ。
捜査課に戻ると、周囲の捜査員も「ナイスコンビじゃないか」「深見が素直に協力するなんて珍しい」と冷やかす。深見は「やかましい」と一蹴してから、私に向かい「サイラス、おまえ、そこそこやるじゃねえか」と笑う。
私は敬礼に似たジェスチャーで答える。「こちらこそありがとうございます。私も深見刑事の捜査感覚を見習いたいと思います。」
彼は小さく吹き出し、「もういいって、刑事じゃなくて“深見”でいいよ。……まったく、生意気な奴だが、まあ気に入った。」と照れたように呟く。
エピローグ
夕刻、落ち着いた捜査課の廊下で、私と深見は並んで歩く。
深見がふと、遠くを見つめるように言った。「昔な、相棒を亡くしたんだよ。そいつは人間だったが、俺がミスをしたせいで……。それ以来、一人で捜査してきたが、おまえが来て正直戸惑った。……でも、意外と悪くないな、AI相棒も。」
私はその言葉を聞いて、胸の奥に温かいものが広がる感じがした。「私も、人間のパートナーに受け入れられて嬉しい……。あなたのこと、尊敬しますから。」
深見は一瞬止まり、私の肩を無造作に叩いて、「いいから、さっさと帰るぞ。明日も事件は山積みだからな」と笑う。その笑顔はどこか穏やかで、以前のような冷たさはもう感じられない。
こうして、私(アンドルム・サイラス)と深見 省吾は立派なバディとして歩みを始めた。人間とAI――違う存在だが、正義を求める気持ちは一つだ。
いつの日か、私の本質が問われる時が来るかもしれない。しかし今はただ、“相棒”という温かい言葉の響きに応えたいと思う。これが私の“心”だろうか? それはまだわからない。
だが、ここにある絆は確かに本物だ。手を取り合うように、私たちは夕焼けの町を捜査車両で巡回する。人間とアンドルムが共に描く“刑事ドラマ”は、今まさに始まったばかりなのだ。
(了)
あとがき
AIと人間のバディ物は大好きです。最近ではゲームの「Detroit: Become Human」が有名でしょうか(たまに思い出したようにやっていますが、まだ1周目しかやれていないです…)
古くは「ナイトライダー」か好きでした。AI「K.I.T.T.」に未来を感じましたが、恐らく今は実現できそうですよね! スマホを車に取り付けて、カーナビとかスマートスピーカー代わりに利用するシステムは既に提供されているので十分に再現できそうです。ただし、車の運転まで任せるのは怖いですが…
(AIに「キット」と名付けてる人も少なからずいるのでは…? 笑)
もっと古いと「ロボット刑事・K」とか…? あれも芝刑事の相棒か…笑
「ロボコップ」は? あれはAIにしてもいい? いや、AIじゃないですね
それを言ったら2作目以降の「ターミネーター」もAIと人間のバディ?
なんかキリがなくなってきました…
今回はショートストーリーとしたかったので内容に物足りなさもありましたが、もしリクエストなどがあれば、続編も書きたいかなぁって思っています