ある人物の回顧録 1

こんばんは, pyt-314です. 最近, 先見の明がありすぎる小説や漫画を思い出してきたのでちょっとその界隈にも首を突っ込んでみたいと思いました. ということで, SFかな, 書いてみようと思います. 拙い文章ですが生暖かい目で見守って下さい. 大切な私の黒歴史です. 作れるうちに作らないとね.
 
朝だ, 起きよう — そう言って, 目覚まし時計を触らなくなってからもう30年が経つ. 今思えば, 私が生きている時は時代と時代の境目だったようだ. いや, 振り返ってみれば人には時代の合間しか与えられなかったのかもしれない. いずれにせよ, あれは酷かった.
いつも通り, そんな考えてもどうしようもないことを考える. そんな私は, 学者を名乗っている. とはいえ, 一昔前の学者の仕事は何も残っていない. それでも昔からのやり方で生きている私が, 誰からも相手にされないことは容易に想像がつくだろう. 事実, この社会基盤の体制によって私は飢えずに済んでいる. 未来にこんなくだらない文章を読む変わり者がいれば, 彼らの貴重な一つの資料となるように, 珍しく紙に書くことにした.
 
私が子供のころ, もちろんここの住民は異常な状態だった. 危機感を感じるものが表に出ないのだ. だれもその異常性は表に出さなかった. そのせいで, 気が付くことができない人が続出していた. こうして人々は諸々の動乱の対応が遅れた. 私もその一人だ. 気が付くことができなかった. 諸々の動乱は, 人類を選別するのではなく, 分断をした. なんとも残酷な現実だ. もはや同じ人類とは思えない. そして, 思われていないだろう.
 
第四次産業革命のころ, 「情報」と訳された言葉は, 信じて疑われない存在だった. その存在自体も, 中身自体も, どちらに於いてもそうだった. 私個人的には, PIT(身体的情報技術, あるいは身体的相互作用技術)は次の人間の進歩を誘発するのに十分だったろう. しかし, 欠けていたのはどうやらPITの方ではなかった.
私の友人の話をしよう. 彼はいち早くこの技術と融合した. 彼もなかなか変わったやつだった. 彼の日記から引用する.
—私には人間の能力を大幅に拡大する, PITデバイスが実装された. 誰とは言わないが世界的富豪が前々から開発していたものだ. このデバイスに導入するシステムは, なかなかに悩ましい. どれも魅力的な存在だが, とりあえずもっともシンプルなものにした.
あれから数カ月が経った. 皆はもう少し複雑なシステムをPITデバイスに導入したようだ. 皆に見えているものが, どうやら私にだけ見えていない. まるで話が通じない. どうしたものか—
PITは, 外部デバイスが神経回路に電磁誘導により電位の変化を与え, またその逆の観測も行い, そのデバイスが通信を行って人の相互通信やその他解析, 知識源の提供などを行う. そのシステムに違いがあれば, 神経に与えられる情報ももちろん違ってくる. 昔で言えば統合失調症を全人類が患うような現象が起こった. 私は子供のうちから他人には観測のできない体験をしてきたのでそれには気が付くことができたが, 大多数が共通の統合失調症になればそれは現実であるようだ. — つける意味のない区別を, 子供の時は強いられたんだな. — PITの出現当時はそんなことを思った.
あれから彼は確かにそれを理解した. しかし, 周囲の人間はそうではなかったようだ. 周囲の人は, “機械知能を生かす科学者”になった.
彼はうまくやった. 私よりもはるかに博識な存在になった. しかし, 周囲の人はそうではないようだ. 主流派, というものは恐ろしい. 気が付かないのだ.
それでも彼も, 失うものは失った. 3カ月も起きてこなかったことには驚いたが, その間はずっとPITと”遊んでいた”ようだ.
第六次産業革命は来る機会を失った. 私には, もう当分訪れないように思える. 相対性は認識されなかった. 私のひ弱な情報と思考によれば, 人は技術で飽和しきっているはずだ. 次のbreakthroughは相互の認識の限界の認識だろう. PITデバイスの実装で思い通りのことが現実になるのは日常的な出来事になった. なぜなら, 皆が共通して同じ情報を見るからだ. 私の目, そして彼の目には見えていないのに. その存在は信じて疑えないのだ. また孤独になりかけた.
---つづく

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