ある人物の回顧録 4

相変わらず例の集団理論は検証中だ. だから例の理論を書くことは今日も保留する. R氏の構築するセル社会について, この回顧録に載せてよいか聞いたところ快諾を得たので, 早速基本プラントの概略だけでも書いてみることにする. もちろんいつも通り思ったことも直ぐ書くからその点だけは留意だ.
まず, 人の生活に於いて必須となるものは, 水と食糧だ. だからセルは川の隅に点在している. 食糧に関しては, 小規模な畑が数枚あるくらいで, あとはセルの分業システムに頼っている形だ. この食糧に種類はあまり重んじられない. せいぜい塩が使える程度だ. 味なんかもともとの作物の違いだけで十分だ. 次は水についてだ. このあたりは, 他の機械類とも絡んでくるため, その種類だけ列挙する. それが, 排泄物処理, 発電, 水生成, 兵器の準備と多岐に渡る. 概略を追えば, コンポストなどで排泄物やゴミを分解, そのときに発生したCH4の燃焼でタービンを回し発電, さらにその蒸気を再冷却して水の生成, といった流れだ. 兵器としては, CH4からCCl4などを生成することによってガス兵器として使えるように生成系統が整えられている. また, 火薬などの様々な材料を手に入れることは小規模のセルでは不可能であるため, 基本的に粉塵爆発を火器に用いる, または第二次世界大戦時のドイツのように食糧からエタノールを生産して火炎放射器や火炎瓶なとどいった兵器も使用可能にするための設備は整えられている. 勿論普段から兵器が作ってあるわけではなく, 燃料の保存形態を変えることができるため, それらの系統はエタノールを主にして普段は生産しているようだ. 各セルに最低限の機能をまとめることによって, 一定期間外部との関わりがなくても生命維持に必要なことが可能になる. それは備蓄によるものと比べ物にならない. しかし, 察することができるように損傷時の影響はかなり大きいから, セルの住人にはそれを理解して自身で修復できるほどの知識と能力, 知性が要求される. その前提をもとにして, 始めてセル社会が成立する. ほとんどのことを機械化していても, まだ完全にセル系統と人間の接点を断ち切ることは不可能であるようだ. そちらの方が, 人が劣化しなくて済むだろう. 長期的に見ればセルの系統も劣化/損傷してくるだろうが, これはセルどうしの接点で解決する. 先に述べたときには分業といっていたことだ.
各セルには, 必要最低限の系統とともに, 分業系統が存在する. セル社会がセル社会となる所以は, この存在にある. 先の必要最低限の系統で生成した電力や燃料等のエネルギー源は, 例えば採掘に使用されたり, あるいは耕作に使用されたりする. もちろん人は普段はほとんどかかわらない. だがやはり分業系統でも機械類の修理や交換など, メタ的に物質が絡むものには人間を適用せざるを得ない. しかしこれも一つのテストのようなものだ. 先に述べたとおり, 自身で修復できるようになれば, あとのすることはすべて自由だ. 文字通り, 肉体の制限を, 物質的な方法でほとんど取り除いた. この社会とPITが混ざれば, もはや人は人である意味もなくなるだろう. そんな意味は初めから存在しないのだが.
---つづく

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