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闘病記(25)歩行器デビュー。
理学療法士Tさんに見守られながら、自分の足で立つことができるようになって以来、「歩いている人」に対する憧れは日に日に強くなった。リハビリで歩く練習をしている人を見ては「いいなぁ。自分もあぁなれるかなぁ。」と思い、病院のスタッフが忙しそうにしているのを見るにつけ、「あんな速さで仕事をこなしてすごいよなぁ。」と感心し、しまいにはマイケルジャクソンの動画を見て「ああ、こんな風に踊ることができたらどんなに気持ちが良いだろうか?」と思ったり。そんな自分の気持ちを知ってか知らずか、ある日Tさんから「今日は、歩行器を使って歩いてみましょう。」と言う提案があった。自分も「歩く人」の仲間入りをすることができると思うと嬉しかった。
貸し出されたのは、U字型になっている本体に、4つのキャスター車輪がついた歩行器。(馬の蹄の形に似ていることから、馬蹄型とも呼ぶそうだ。)
身長に合わせて高さを調節し、バルーン(尿を貯めておく袋)が歩行器と一緒に移動できるよう、部品の1部にぶら下げた。持ち手となる枠をしっかりと握ることができない自分の右手は、左手の下に置いて強くホールドした。準備完了だ。
「それじゃあ、ゆっくり進んでみましょう。ゆっくりで良いですよ。」
Tさんの言葉を合図に、ゆっくりと前を向いて進み始める、、はずだった。
しかしこの歩行器と言う代物、実にスムーズに動くのである。いや、スムーズすぎると言ってもよかった。自分が「すぅーっ」くらいのイメージで押すと、「すタタタ…。」みたいな感じで素早く進んで遠ざかったしまうのだ。これ『歩行器』と言うよりもう『走行器』やろ!と心の中で悪態をつきながら、文字通り右往左往するのであった。
「予想をはるかに上回るズッコケぶりですね。いやー、驚きました(笑)。」
と見るに見かねたTさんが、何種類かの重さの重りを用意し、歩行器の前にぶら下げてくれた。
「赤松さん、特にスタートの時に歩行器の重さを実感できるようにしてみましょう。何回か試してみてくださいね。」
工夫を重ねてくれたおかげで、どうにかこうにか、イメージに近いスピードでまっすぐ前に進むことができるようになった。「機」ではなく、「器」をその名前に持つ「歩行器」。「器」の文字が示す通り、最小限の部品しかついていなかった。まっすぐ進むには、歩く姿勢、スピード、意識の持ち方が問われる。自分の状態が露骨に反映されてしまうものだなと思った。
そんなわけで、「勝ち」か「負け」かと問われたら「完敗」と、言わざるを得ない歩行器デビュー戦だったが、後のリハビリを左右するような課題も見つかった。例えば、麻痺している側の足に体重がかかっていることを実感しながら歩くことや、歩くときに力みすぎないことなどが挙げられる。
出来の悪い生徒を持ったからか、療法士Tさんの情熱?と工夫は加速した。(自分自身の上達度合いは全く加速しなかったのだが、、)Tさんのおかげでこの後、歩く練習はさらに楽しいものへとなっていった。