【2024年度】野沢温泉村遭難対策協議会救助案件総括ー隊員河野祥伍による報告ー

 2024年シーズンにおいて、野沢温泉スキー場では2件の遭難と2件の怪我による救助要請が発生した。遭難は“スキー場管理区域外エリア”で発生し、怪我による救助要請は“滑走禁止エリア”で発生した。

 本記事は2024年シーズンに発生した遭難と怪我による救助要請の発生要因を明確にし、今後の事故発生防止の一助となる事を目的とする。

スキー場の設定するエリアについて

 大前提として、野沢温泉スキー場では以下のようにエリアが設定されている。

野沢温泉スキー場WEBサイトより(2024/03/29)

1.スキー場管理区域(白色部)
 =スキー場コースなどを指す。怪我などの救助はスキー場所属のパトロールである。

2.自己責任滑走エリア(山頂方面緑色部)
 =やまびこリフト線下のパウダーゾーン。滑走は自由であるが救助は実費請求となる。主にパトロールの救助となる場合が多い。

3.滑走禁止エリア(紫色部)
 =滑走発見時リフト券の没収、ブラックリスト入り等ペナルティがある区域。ここでの救助は為遭対協への要請がだされる。

4.スキー場管理区域外(青色部)
 =スキー場の管理していない、隣りの山や真裏の沢などを指す。青木山方面及び柄沢ボール方面にはスキー場境界がゲートによって設定されている。登山届提出などBC登山に必要な手順を整えれば滑走が可能である。この区域での救助も遭難対策協議会へ要請が出される。

 以上のように4エリアに分かれており、“滑走禁止エリア”及び“スキー場管理区域外”での怪我、道迷い等が発生し、救助の要請があれば遭難対策協議会の隊員が救助へ向かう。また救助にかかる費用は救助者に請求が及ぶ。

本年度の遭難について

 本年度は2件の遭難が発生した。一件は単独によるものであり、もう一件は3組のパーティが遭難後合流離散をする多重遭難であった。

 本年度の遭難の発生要因は性質的には同一であり、毛無山-青木山稜線の見落としによる赤滝沢ないし馬曲沢(北入沢)への進入である。遭難者はやまびこAコースゲートより“スキー場管理区域外”へ入山。毛無山-青木山ボウルを滑走し野沢-志賀高原林道へ至り、林道を北上してやまびこAコースへ戻るつもりが、稜線を見落とし南斜面へ足を踏み入れた。

遭難者が本来想定していたルート
遭難が発生しやすい箇所

 赤滝沢は名前の通り、その沢は赤滝と呼ばれる落差12mの滝へつながっている。上部からは視認が難しい滝であり、過去には滑落による死亡事故も起きている。滝の迂回は困難であり、滝を迂回しても沢が行手を阻む為ルートを知っていても下山には非常に時間がかかる。また馬曲沢(北入沢)は雪の少ない時期であると薮が濃く、滑走下山が不可能であり登り上げるしかないが、急登であり雪が深い場合はそれもまた困難を極める。

 稜線の見誤りによって南斜面を滑走してしまい、上記のような危険な沢に迷い込んでしまうのが野沢温泉でよく起こる遭難のパターンである。

 本年度発生した遭難は要請者に怪我がなかった上、この沢を下部まで滑走しておらず、途中で本来滑走予定だった場所との差に気付き登り返したり、中腹で留まっていた為下山が可能であった。この沢の中部以下で行動不能となった救助者がいた場合救助は非常に困難なものとなる。

本年度の怪我による救助要請

 本年度は2件の怪我による救助要請が発生した。どちらも大腿骨の骨折を疑われる大怪我であり、要救助者(以下要救)は自力では一歩も動くことは不可能であった。

 本年度初旬の救助要請は、山全体のコンディションは前日夜の降雪により数十センチのパウダースノー。しかし事故発生ポイントはまだ積雪の少ない山中腹の40度に迫る急斜面で、雪面クラックなどが多々見ることができる南斜面であった。

 またもう一件の救助要請は、同じく山全体のコンディションはパウダースノーで整っていたが、新雪下部には数日前に雨からの冷え込みで非常に凍結が強い弱層があるという条件下で発生した。

この2件は“滑走禁止エリア”の本沢ボール内で発生し、要因は不安定な雪に足を取られての立木衝突であった。
※本沢は過去に雪崩、滑落、ツリーホール落下、スノーホールから川への落下など限りなく多くの怪我人や死者出している場所である。

 本年度発生した怪我の救助要請における要救は、どちらもエキスパートレベルの外国籍のスノーボーダーであり、アバランチ装備も携行していた。状況から判断するに、パウダースノー、それもファーストトラック(自分が初めて滑るパウダー斜面)狙いで何度も本沢ボウルを滑走しており、あらかたスイートポイントを滑り尽くした後、日当たりの強い斜面へ進入し、不安定な雪質と遭遇したと思われる。

 本沢ボール内は滑走禁止であるにもかかわらず、パウダースノーを求めるあまり進入し、行動不能となる怪我を負い救助要請を出すパターンが多い。

救助要請が出される時間帯について

 本年度の救助要請は4件中3件が15時過ぎに第一報が入り、出動が17時を過ぎて夜間救助になった。野沢温泉では救助状況が良好の場合にのみ夜間の救助が行われるが、夜間の救助はリスクが高い為行われていない地域も多い。

 第一報から捜索本部立ち上げ、情報整理、救助隊員統率、救助方法決定、出動、そして現場到着に至るまでは位置情報が正確であればおおよそ2時間程度、位置情報不正確や捜索困難地域に要救がいる場合はそれ以上の時間がかかる。怪我は急速に体温を奪う。2時間という時間がいかに低体温症を発症し、その後の救助と下山までにそれが悪化するかを考えるといかにこの時間が恐ろしいかわかるだろう。

 要救当事者の事を考えると自身の状況について正常性バイアスが働き、救助要請まで時間がかかってしまう事は妥当であると思われる。しかし自身が要救となった場合上記のようなタイムラインで救助が行われる事を知るのは重要である。またこのタイムラインも天候不良や二次遭難リスク等を考えるとどこまでも伸長することを考慮する必要がある。

 このように雪山において状況が自身の能力を超え、下山がこんなになった場合は早急な救助要請が必要である。

遭難を起こさない為に

 怪我による救助はこのスポーツをしている上で、気をつけることは出来ても完全に可能性を潰す事はできない。万が一自身や仲間に怪我が発生し、自分たちの処理能力を超えてしまっている場合には即座に救助要請を出す事が重要である。

 また雪崩については少々別項目となるのでまたの機会に譲るとして、最低限遭難を起こさない様気をつける事について考えよう。

 まず野沢温泉には典型的な遭難発生のポイントがある事を知り、毛無山-青木山稜線の地形へ近づかない事。万が一いつもと状況が違う事に気付いた場合滑走を直ちに止める事。そして地図アプリなどで自身のいる場所を確認し、状況を整理する事である。そして自身の状況ではどうにもならない場合、スマートフォンの充電、体力がしっかりとある内に救助の要請を出すことが重要である。

最後に

 本記事は野沢温泉村遭難対策協議会の救助隊員としてワンシーズン過ごした私が出動した4件を元に作成している。本年度は降雪時期や積雪増加などが例年とは多少異なっており、この4件が平均的な救助要請であるとは言い切れない部分もある。

 また野沢温泉はGW終了まで営業が続くため、今後発生した救助要請に関してはまた私のSNSなどを通じて情報を整理した上で注意点などを広められればと思っている。

 また遭難や怪我に際して持っていると良いギアなどについても近日記事を作成できればと思っているのあわせ読むとより山でスキーをする上でリスクを減らす事ができると思われる。

 ぜひ皆様もセーフティースキーでシーズンを締めくくっていただきたい。

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