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GⅠチャンピオンズカップ


序文 砂塵の覇道をゆけ

世代別に語られることの多い競走馬の世界。それぞれの時代に、激しく競い合ってきたライバル馬たちの相関が常にあった。
とりわけ多くのファンから「最強」とよばれているのが「98年世代」である。日本総大将スペシャルウィークを筆頭に、グラスワンダー、エルコンドルパサー、セイウンスカイ、キングヘイロー。
マイル王エアジハードや、海外で活躍のアグネスワールドなどの名も挙がるだろう。

そんな98年世代の中にあってダート路線の一線級として活躍したのが"ウイングアロー"である。

ウイングアローは98年1月にデビュー。3戦目で初勝利を挙げると、南井克巳とのコンビで名古屋優駿からスーパーダートダービーまで重賞4連勝、同年のJRA最優秀ダートホースに輝いた。
2000年にGⅠフェブラリーSを制すと、引退していたかつての鞍上・南井厩舎に移籍、秋のジャパンカップダート(現チャンピオンズC)を制覇し、2度目となる最優秀ダートホースに選出された。
翌年の同レースでは新鋭・クロフネの台頭により惜敗、そこからピークが過ぎ引退へと至ったが、全盛期の強さはやはり別格だったと思う。

ここでJRAにおけるダートGⅠ「フェブラリーS」と「チャンピオンズC」の両方、いわゆる「春秋制覇」を達成した馬を振り返ってみよう。

  🏇ウイングアロー
  🏇カネヒキリ
  🏇ヴァーミリアン
  🏇エスポワールシチー
  🏇トランセンド
  🏇ゴールドドリーム

この内、同一年に春秋制覇を達成した馬はウイングアローの他、トランセンド、ゴールドドリームの3頭だけである。この実績だけみても、ウイングアローがダート史に残る優駿だったことに、異論を唱える者は少ないだろう。

競馬史の名シーンを振り返れば、いつだって芝のGⅠレースが想起されるはずだ。それは仕方のないことで、JRAは芝の重賞に重きを置き、対岸で人気を博す地方競馬のほとんどがダートで行われているからだ。
中央競馬がダートを重視すれば地方は衰退していき、地方が衰退すれば中央の受け皿となるダート競馬の存続が危ぶまれてしまう。そんな中央と地方のいわば「共生関係」から現行の交流重賞は生み出された。
今年のミックファイアに象徴されるよう、そこにもまたドラマは生まれるが、2023年の競馬を振り返ったとき、ファンの脳裏を真っ先によぎるのは、中央のターフを駆け抜けたイクイノックスやリバティアイランドの姿だろう。

98年に話を戻そう。後にアニメになってまで語られるほど、スペシャルウィークらの活躍は目覚ましいものがあったが、同じ時を生きたウイングアローの活躍もそれらに比肩する価値があったことは間違いない。
ターフの上を走ったヒーローたちよりも目立たなかったかもしれない。しかし「茨の道」ならぬ「砂塵の覇道」を歩んできたダート主戦の英雄たちにもまた、同等の賛辞が送られて然るべきだろう、と思うのだ。

奇しくも来年より地方競馬・中央競馬が一体となり、ダート路線におけるレース体系の刷新が図られる。お馴染みの重賞も名前や時期を変えリニューアルされる予定だ。ミックファイアやレモンポップが更なる飛躍を遂げるのか、はたまた新たな新星が生まれるのか、今から楽しみは尽きない。
そしてこれを機に、芝のGⅠだけでなく、砂のGⅠやダートホースたちにも、今以上の脚光が浴びせられることを、一人のダートファンとして心から願うのである。

砂の王国革命前夜、栄冠を手にするのは果たして…。

「GⅠチャンピオンズカップ、まもなく出走です」

ウイングアロー 通算成績30戦11勝
末脚勝負になれば比類なき強さを見せた

決戦!!戦国中京ダート1800! 

ダート最強王決定戦、チャンピオンズカップです。JRA主催のダートGⅠ、2つのうち1つであり、ここを目標にしてくる馬も当然ながら多いです。今回はミックファイア、プロミストウォリアが回避の模様ですが、以外は軒並み強豪が揃い、白熱したレースになりそうです。
想定1番人気のレモンポップは2月のフェブラリーステークスを制覇。同一年度の春秋制覇をかけて出走します。

コース攻略

特殊なコース形態。
外枠は分が悪く、内に入った有力馬を注視。

ホームストレッチ後方からスタート。向こう正面から4コーナーまでが下りで各馬加速していきます。最終直線は登りが待ち構えますが、前に行った馬が息を入れて、そのまま粘り込むケースが多いです。馬場が渋った際はその傾向は特に顕著に現れます。先行争いが激しくならないと追込みは決まりづらいため、先行力のある馬を重視したいです。道中2~3番手につける形が理想ですが、近年は流れが速くタフな展開になり、追込みが決まる傾向もあります。昨年勝ったジュンライトボルトがまさにそのパターンでした。


危険性あり?上位人気馬解説

有力馬が抱えるそれぞれの不安要素とは?

まずは、今回人気を集めそうな馬を3頭解説させていただきます。
想定1番人気のレモンポップですが、デビューから国内では連対を外したことがなく、圧倒的な安定感を誇ります。今年2月のフェブラリーSを制した後、海外遠征のドバイゴールデンでは10着と大敗を喫しましたが、帰国直後の交流重賞南部杯で2着に2秒差をつけての圧勝。立て直しに成功し、中京に乗り込んできます。終いの切れ味鋭く、スピード能力では出走馬中最上位も、元々1400mが適正距離とされてきました。フェブラリーSの勝利でマイル適性の高さを示しましたが、さらに2F延長でどうか?コーナー4つの競馬も未経験。正直、外枠を引いたらバッサリ切るのもアリだと思っています。

続いてセラフィックコール。今年2月にデビュー。新馬戦から4連勝し、先月のGⅢみやこSで無敗のままの重賞初制覇という快挙を成し遂げました。その勢いのままにGⅠ戦線へ殴り込み、一気に相手関係が強化されますがその素質は本物です。とはいえ中京コースにどこまで適性があるかは疑問が多く、先述した通り内枠先行が有利のコースにおいて、後方一気の競馬を得意とするセラフィックコールにとって厳しい戦いになるかもしれません。馬群に入った経験も薄く、展開次第では埋もれてしまうかも…。若駒の勢いをどこまで評価するかが鍵を握るでしょう。

アイコンテーラー。20年にデビューし、ターフ路線でOP入りまで勝ち上がってきましたが、その後足踏み状態に。転機は今年8月、ダートへ転向すると初陣のOP特別を快勝。次戦シリウスSで2着に入ると、11月のJBCレディスでとうとう初のGⅠ制覇。勢いそのままにGⅠ2勝目を狙います。鞍上はJモレイラ騎手。現在無双状態のトップ騎手に乗り替わることで更なる期待がかかります。しかし、ダートの経験の浅いこの馬にとって中京は未開の地。今年砂の入れ替えを行い砂厚になった大井で勝った馬が、比較的スピード馬場の中京ダートでどこまでやれるか、不安はあります。
芝からダートへの路線変更といえば昨年のウシュバテソーロが記憶に新しいですが、今年はこの馬なのでしょうか…?5歳牝馬のシンデレラストーリーがどこまで続くのか、見届けてみても面白いかもしれません。

ここまでが上位人気馬の評価です。どれも素質馬なのは間違いありませんが、中京1800mという癖のあるコース形態への適正には疑問が残ります。

戦国ダート下克上!

今回も長丁場のnoteになってしまいました。読んでいただいてる方ありがとうございます。
ここからはチャンピオンズCを制するための必須条件とともに推奨の穴馬を3頭ピックアップしていきたいと思います。

勝利への条件5か条

 📒 関西馬である
過去10年で、サウンドトゥルーとルヴァンスレーヴ以外全馬に該当。これは輸送の問題ではなく、最直に急坂がある中京ダートでは、栗東の坂路で鍛えられた関西馬のパワーが求められるからです。

📒 左回りダートでの勝利経験がある
中京に移ってからは9年連続で当該条件に。左回り不得意とされていたテイエムジンソクは、圧倒的人気も2着に敗れました。

📒 重賞で古馬との対戦経験がある
「ダートは格」という格言がありますが、要は経験値です。特にダートGⅠでは古馬との対戦経験が勝敗を大きく分けます。

📒 上がり3F最速で勝利したことがある
過去10年全馬に該当。前年のジュンライトボルトは芝レース時代に上り33秒を記録したことがありました。ダート王者決定戦、直線勝負が勝敗の分かれ目になります。

📒 前走4角で5番手以内だった
過去10年8頭に該当。決め手も大事ですがポジション取りももちろん大事。後方一気も決まるとはいえ、基本は前目。先行力重視です。

以上が必須条件です。これプラス「1~6枠」・「斤量57キロ以上での戦績」を加味して欲しいです。
続いて、逆転候補を中〜下位人気から3頭選出してみました。

「ダートは格」ベテラン組から選ぶ逆転候補


ハギノアレグリアス

6歳牡馬・キズナ産駒 栗東・四位厩舎 鞍上・岩田望来

6歳を迎えたここまで15戦して7勝。うち重賞(GⅢ)が2つ。他のGⅠ実績馬と比べるとややインパクトに欠けるますが、常に好走をみせるいわゆる「善戦マン」であることが本馬の長所でもあります。振り返れば4年前のデビュー戦は出遅れから6着に敗れましたが、このレースの勝馬はあのコントレイルでした。以降僅差で敗れたレースの勝馬はどれも実力馬ばかり。9月のシリウスSで破った相手はアイコンテーラー、今回の人気馬です。
ハギノアレグリアスが馬券外になったのは京都、東京、大井のみ。急坂を擁する阪神・中京ではいまだ大崩れなく、他馬と異なり坂路で真価を発揮できる強みがあります。また、本馬の管理は開業4年目の四位洋文調教師。かつての名ジョッキーですが、今年は中央で21勝上げています。その内訳をみるとダート中距離で9勝を上げており、開業からのダート重賞は6回出走し連対率は 66.7%と、ダートを得意分野としています。 
名ジョッキーから名トレーナーへ、GⅠ初制覇の野望を乗せてハギノアレグリアスが出陣します。

メイショウハリオ

6歳牡馬・パイロ産駒 栗東・岡田厩舎 鞍上・浜中俊

11月29日現在で7人気。この序列には驚きを越して、いささか憤りさえ感じます(笑)。2年前のチャンピオンズカップは10番人気で出走、大外枠を引いたこともあり7着に沈みましたが、今はもう過去の出来事。22年以降は10戦して一度も掲示板を外していなく、ベテラン勢にあってもその安定感は群を抜いています。今年はかしわ記念、帝王賞とJPNⅠを2連勝、とりわけ帝王賞は史上初の2連覇達成。フリオーソ、オメガパフュームですら成しえなかった偉業です。ウシュバテソーロを除けばいまだ国内トップのダート馬であることに疑いの余地はありません。先月のJBCで4着に負けたとはいえ、まだまだ若馬に遅れを取るとは思えず、苦手の左回りも克服した感があります。前走で一叩きを済ませた今こそが買い。堂々としたベテランの走りに期待します。


テーオーケインズ

6歳牡馬・シニスターミニスター産駒 栗東・高柳厩舎
鞍上・松山弘平

今から2年前のチャンピオンズCで絶対王者のチュウワウィザードを6馬身差で破った時、ダートファンは新たな帝王の誕生に沸きました。
ケインズ一強になると目された22年は平安SとJBCクラシックを勝ったものの、同レースでは5着。年間「2-0-0-3」といまいちな成績で終わりました。今年に入ってからは川崎記念2着、ドバイWC4着とまずまずの好走を見せるも勝ちきれず。6月の大一番・帝王賞も3着でした。
ここで注目したいのが帝王賞の内容で、当日は最内枠から出遅れ気味のスタートに。先行集団を後方から見ながらの競馬になってしまいました。直線もうまく進路確保できず、残り200でようやく追込み。クラウンには追いつけず、ハリオには差され、タイム差なしの3着。と、若干運に見放された感はありましたが、上位2頭と五分の内容だったと思います。
先月のJBCは4着に終わりましたが、もともと連続好走の少ない馬。叩いてここを目標と考えれば、かなりの馬券妙味があるような気がします。
晩節を自らの勝利で飾れるか?かつての帝王の逆襲に期待しましょう。

最後に森タイツ◎印を添えて

以上、今回も序文から長々と綴ってきましたが、今回もかなりのボリュームになってしまいました。相変わらず簡潔にまとめるのが苦手で…。
最後まで読んで下さった方、心より感謝申し上げます。

今回は危険な人気馬3頭、逆転候補のベテラン3頭を挙げましたが、最後に森タイツ本人が密かに期待している本命馬・クラウンプライドを紹介して今回の記事を締めたいと思います。

4歳牡馬・リーチザクラウン産駒 栗東・吉田厩舎
鞍上・川田将雅

新馬勝ちの時から期待をされてきた大器ですが、4歳を迎えた今も国内での重賞勝ちはありません。9月の韓国コリアC(GⅢ)で待望の重賞初制覇。10馬身差の圧勝でした。韓国勢の格下感もありましたが、2着は今回出走のグロリアンムンディ。それを考えればこの馬のポテンシャルは計り知れないと思います。
そしてなんといっても鞍上、川田将雅騎手の存在。今年の地方交流重賞では無双を続けていますが、過去5年のデータでもダート重賞においては連帯率37.8%と驚異的な実績を残しています。芝重賞はルメールですが、ダートでは川田騎手の剛腕が光ります。
また父牡馬のリーチザクラウンは現役時代に不良馬場のダービーで2着につけた屈指のスタミナの持ち主でした。母父キングカメハメハの血統と合わせチャンピオンズCという最高の舞台が用意されました。

本レースはリピーター好走の多いレース。昨年3歳で2着の馬が本格化して帰ってきたとなれば…。自信をもって印を打ちたいと思います。

読了ありがとうございました!ではまた。


 


 










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