GⅠ有馬記念
序文:Fool's Gold(愚者の黄金)
黄鉄鉱、英名パイロライトは硫化鉱物(金属元素が硫黄と結合している鉱物)の一種である。鉄と硫黄からなり、化学組成はFeS2で表される。馴染みのない名称かも知れないが、黄鉄鉱は比較的採取しやすく、昔から安価で取引されてきた。
黄鉄鉱は多量の硫黄を含むため、製鉄のための原料としては向いていない。しかしその半導体の性質から、昭和初期頃には鉱石ラジオの検波器などに用いられていた。当然のことながら近年ではそのような需要はない。
近頃では黄鉄鉱を用いた太陽電池が発表されており、黄鉄鉱は未だに私たちにとって身近な鉱物と言えるかもしれない。
英名である「パイライト」は、ギリシャ語の「火」を意味する「pyr」に由来する。これは、黄鉄鉱をハンマーなどで叩くと火花を散らすことから名付けられた。そんなパイロライトの別名は「愚者の黄金」。誰が最初に見つけたのか、そう呼んだのか…。金色に輝き、天然の造形美を備えていることから、掘り出した人が金と間違えたことに由来する。純金のような真価はなくとも、その輝きは本物の黄金と何ら変わることはなく、永遠の輝きを放ち続ける…。
さて現代日本競馬、その名前に「黄金」の二文字を有し輝きを放った一頭の馬がいた。
馬の名はステイゴールド
彼はその長い競走生活の中で結果を残すことが出来ずもがき続けていた。それでも懸命に走り続けるその姿に人々は胸を打たれ、声援を送り続けた。
己の引退を懸けたラストラン。ついに彼は周囲の期待に応え、異国の地にてその名に相応しい、本物の輝きを放った。
その後現役を退いた彼は、自らの血を次の世代へと残す役割を担うことになった。やがて、その血統から一頭の牡馬が誕生した。彼もまた父と同様に小柄で、多くの者が期待を込めてはいなかった。
そして彼は一人のパートナーと出会う。その邂逅は、くすんでいた彼の光を本物の輝きへと変えていった。
ドリームジャーニーと池添謙一は有馬記念を制覇
宝塚記念と合わせた春秋GP連覇の快挙を達成した
その資質を疑われた「愚者の黄金」は如何にして本物の輝きを放つまでに至ったのか。果て無き二人の旅路を辿る。
ドリームジャーニーは2004年2月、北海道は社台コーポレーション白老ファームで生まれた。父・ステイゴールドは5年間の現役生活において50戦7勝の戦績を残してきた。決して優秀な成績とは言えないが、シルバーコレクターと呼ばれたステイゴールドは、偽りなく「誰からも愛された」馬だった。GⅡ3勝の実績を誇る反面、重賞での2・3着は数えること14回。最後に異国の地・香港ヴァーズで達成したGⅠ勝利を以って種牡馬入りを決めたが、その最後の大勝利はステイゴールドの種牡馬としての価値を最大限に高めるものではなかった。
ステイゴールドの種付けは初年度から人気を博したが、その多くは現役時代の実績に沿ったものではなく、リーズナブルな費用が主たる理由となっていた。
ステイゴールドの初年度種付け料は150~200万。同年に種牡馬入りしたテイエムオペラオー、アグネスタキオンらの半額である。産駒の数に反してその実生まれてきた馬に対する前評判はイマイチ、というのが初期のステイゴールド産駒への一般的な評価だった。
ところがステイゴールドは時の経過と共に、次々と有力馬を輩出し、この時期の種牡馬としては最も評価されることになる。
ドリームジャーニーはそんなステイゴールド産駒初期の代表馬となった。
母の名前はオリエンタルアート。JRAで3勝を挙げたのみの実績だが、この名前は現在の競馬ファンには特別な、きっと忘れることの出来ない一頭に違いない。ドリームジャーニーの全弟は後の三冠馬となったからだ。
とはいえこの頃の繁殖牝馬としての知名度は皆無に等しい。オリエンタルアートの母はエレクトロアートという馬で、桜花賞に出走した履歴はあるものの、重賞では歯が立っていなかった。また父メジロマックイーンも現役時代の実績は誰もが知るところだったが、種牡馬としては大成しておらず、オリエンタルアートは血統的な魅力を欠く馬だといえた。
初出の仔は総じて小さく生まれやすい、と言われているが、ドリームジャーニーも多分に漏れず小柄な馬だった。
同い年の幼駒たちと比べても小さかったジャーニーは、離乳の時期を迎えても暫らくの間、様子をみて見送られる程だった。それでも馬体は成長せず「これ以上母馬と一緒においても大きくはならないだろう」と見切りをつけられ、厩舎に送られれることとなった。
ジャーニーを預かったのは栗東の池江泰寿厩舎で、池江泰寿は同じく調教師を務めている池江泰郎厩舎から独立し、自厩舎を開業したばかりの時だった。泰寿は父の厩舎に所属していた頃、ジャーニーの父ステイゴールドの調教に携わっていた。いうなればドリームジャーニーは社台から池江泰寿への開業祝のようなものだったのかもしれない。
本格的な調教がはじまってからもドリームージャニーは発育が進まず、相変わらず小柄なままだった。ただ、たとえ馬体は小さくとも肝は据わっていて、どんな時も物怖じしない性格で、怪我や病気とも無縁のまま力をつけていった。
06年9月、まだ暑さの残る新潟新馬戦でデビュー。出走した牝馬の中では誰もが目を見張る小柄さだった。このレースでドリームジャーニーは圧倒的1人気に支持されていたデスコベルタとの叩き合いを制し快勝。続いて出世レースとして知られる芙蓉S(OP)も外から豪快に差し切り連勝を飾った。
3戦目、初の重賞挑戦となった東京スポーツ杯2歳Sでは、出遅れたうえに道中で折合いを欠き3着と、敗戦を喫してしまった。
ドリームジャーニーはその幼い体躯に似合わない、難しい気性の持ち主だった。日々育成されていく中、内に蓄えていった養分を身体つきではなく、禀質へと還元していってるようにも思えた。時の経過と共に、ジャーニーの気性は日に日に荒々しくなっていった。
この頃のジャーニーの主戦を務めていたのは蛯名正義、中央競馬を代表する名手だ。馬との折り合いに関しては、同期で常にトップを走り続ける武豊と何ら遜色のない実力者だった。
4戦目、蛯名を背にジャーニーは初のGⅠレースである朝日杯に臨んでいった。ここではベテラン騎手の手腕が光った。前走同様出遅れ気味にゲートを出たジャーニーを、蛯名は丁寧にエスコートしていた。並の騎手であれば遅れを取り戻そうと馬に気合をつけて好位を奪いに行くところだが、蛯名は折り合い一点のみに集中し、馬を気持ちよく走らせることに専心した。
直線、ドリームジャーニーは最後方から他馬をごぼう抜き、先頭に躍り出ていたローレルゲレイロを残り50mで捉え勝利した。
4戦連続で上がり最速をマーク。またこの時の馬体重は416㌔で、同レース史上最軽量での戴冠という快挙でもあった。
勝利騎手インタビューで蛯名は笑顔で応えた。
「軽く飛びましたね」と。
デビュー年はJRA賞・最優秀2歳牡馬に選出され、その名前が示すように、ドリームジャーニーの船出は順風満帆かのように思われたが、クラシック年代に入ってから思わぬ苦戦を強いられるようになる。小柄な馬体はそのままに、かかり癖のある気性ばかりが目立っていき、次第にコントロールが効かなくなっていったのだ。
クラシック初戦の皐月賞、3人気に支持され自信を持って臨んだが、ヴィクトリーの8着に敗れる大惨敗だった。
続くダービーは直線で鋭い末脚を見せたもののウオッカに敗れ5着に沈んだ。
春の惨敗を受け、秋の始動戦には鞍上武豊を迎え神戸新聞杯からスタート。一年前を彷彿とさせる爆発力で差し切って勝利を飾り、復活を印象付けた。
しかし迎えた三冠最終戦・菊花賞では折合いの悪さを露呈すると、直線では末脚が沈黙し、アサクサキングスらを捉えることが出来ず5着に敗れてしまった。
年内最終戦となった12月の鳴尾記念、GⅢならば手堅いかと思われたがここでも気性難を見せ惨敗。この頃にはファンの間でもその気性の難しさは有名になっていて、脚は使えるが折り合いがつかないと、すっかり問題児の烙印を押されてしまっていた。
翌08年春、ここでドリームジャーニーに転機が訪れる。マイル戦に路線を絞り挑んだマイラーズカップでは14着に大敗してしまったが、次戦の安田記念でジャーニーは生涯の伴侶ともいえる一人の男と出会う。
池添謙一である。
安田記念でも武豊の継続騎乗を予定していたが、武はスズカフェニックスに騎乗する先約があったため、急遽白羽の矢が立てられたのがこの若き勝負師だった。
池添謙一は98年に騎手デビュー、02年には桜花賞のアローキャリーで初のGⅠ勝利を挙げていた。ファンの記憶に鮮烈に残っているのが翌03年デュランダルによるスプリンターズS・マイルCSのGⅠ連勝と、稀代のクセ馬・スイープトウショウによる活躍である。とりわけ「わがまま女王」と呼ばれた牝馬による宝塚記念制覇は、歴史的な快挙としてファンの間では語り草になっていた。
勝利に貪欲な池添はえり好みなく騎乗依頼を受け、問題児と言われている馬にもじっくりと時間をかけて向き合うような男だった。
出会ってきた馬たちとは自分なりに、真摯に向き合い、そして心を通わせてきたつもりだ。いや、一頭だけ分かり合えなかった牝馬がいたか…。
とにかく専ら気性難として有名で、自分が尊敬する豊さんの手を焼かせるような馬に乗るのだ。逆にちょっと、ワクワクしてしまう。
こうしてドリーム―ジャーの新たな旅路が帆を上げた。
池添との新コンビで臨んだ安田記念だったが、敢え無く10着惨敗となった。気性難な点もそうだが小さな馬体をピッチ走法で駆ける、ジャーニーの独特なリズムを池添は掴むことが出来なかった。
一方でそのポテンシャル、特に2歳王座を射止めたその末脚の鋭さには目を見張るものがあった。間違いなく強い、ただその素質を活かすことが出来なかった。悔いは残るが致し方ない、次走から鞍上は先輩の武豊に戻ってしまうだろう。
次走、ドリームジャーニーは夏の小倉の重賞・小倉記念へと駒を進めた。一方の池添はその夏北海道を主戦に活躍しており、二人の線と線は再び交わることのないように思われた。ところが運命のいたずらか、競馬の神様はもう一度二人を引き合わせることにしたのだ。
小倉記念の一週間前、武豊が騎乗停止になったことによりその鞍上がぽっかりと空いてしまった。慌てて代役を立てなければならない調教師・池江のもとに直談判する者があった。他ならぬ池添謙一だった。
「僕を乗せてもらえませんか?」
池江と陣営にとっては願ってもいない、まさに渡りに船だったが、北海道に拠点を置く池添のことが逆に不安になってしまった。聞けば、先約を断ってでもジャーニーに乗ると池添が言うからだ。
1日だけの、1鞍だけのために池添は小倉へと飛んだ。どうしてもジャーニーに乗りたい、一聴すれば美談の様にも聞こえるが、他馬との先約を断ってまで己の意思を貫いたのだ、ここで結果を残さなければ批判は免れないだろう。ドリームジャーニーはGⅠ勝利馬で乗る価値は確かにある、とはいえ気性難で知られ安田記念では10着に敗れている。はたから見れば普通の神経ではない、それでも池添はジャーニーのその背に確かな可能性を感じていた。
夏の小倉は暑い。じりじりとターフから湧き上がる照り返しに、池添はめまいを起こしそうになった。昨日までは避暑地で競馬をしていたのだ、それも当たり前か。自らが志願して騎乗させてもらったこの馬、必ず結果を出さなければならない池添は、パドックから返し馬までの短い時間、ドリームジャーニーの背にその全神経を集中させた。
ゲートが開くと、池添は慌てず後方からの競馬を選択した。道中じっと脚を溜め、3コーナー付近から進出を開始。先を行くダイシングロウを射程圏内に捉えた。
直線では並ぶ間もなく先頭に立つと後続をあっという間に置き去りにした。終わってみれば3馬身差の圧勝。若駒の頃のキレを取り戻したドリームジャーニーは、新たなパートナーのその手腕に導かれ、復活を果たしたのだった。
勢いに乗るジャーニーと池添は秋初戦のGⅢチャレンジカップも、トーホウアランを抑えて重賞連勝を飾った。乗り難きクセ馬を完全に手中に収め、自信を持ってGⅠ戦線へと挑んでいった。
4番人気に推され臨んだ天皇賞秋だったが、ここではもたれ気味になってしまう、左回りでの悪い癖が出て10着に終わった。乗りこなせたかと思うと新たな課題が生まれる。クセ馬にはありがちなことだが、ジャーニーも例に漏れず池添を悩ませ続けた。
迎えた有馬記念では、圧倒的な逃げ足を誇るダイワスカーレットの前になす術がなかったが、たとえ気性難であっても着実に力をつけてきたドリームジャーは、一歩及ばずも僅差の4着につる大健闘で暮れの大一番を終えた。
09年、5歳を迎えたドリームジャーニーは1月AJCCから始動。圧倒的1人気に支持された。がそんな時に限って期待を裏切るのもまたクセ馬の宿命か、8着に敗れ大いにファンの失望を買った。
人気を落とすと急に走るようになる。次走3月の中山記念では復調すると2着に入線、翌月の産経大阪杯へ好調を維持したまま臨むと、圧倒的1人気を誇ったディープスカイをクビ差で退け、重賞5勝目を挙げた。
さらに力をつけ自信を増した池添は、自ら進言し予定していた金鯱賞ではなくGⅠ天皇賞春へ出走することを希望した。
この長距離GⅠでは折合いに苦心したが、池添はジャーニーに我慢の競馬を叩きこんだ。直線では後方から脚を伸ばし、あわやという場面を作ったが、伏兵・マイネルキッツの一撃に負かされ3着に終わった。
それでも先を見据えたコンビの経験則は、さっそく次走へと活かされることになる。
6月、ジャーニーにとって春の大目標に定めていた宝塚記念へと出走。2番人気に支持された、満を持しての一戦。1人気に推されたライバルは大阪杯で一度破ったディープスカイ。力関係の位置付けは済んでるかと思いきや、ファンは前年のダービー馬に期待をかけており、単勝オッズ1.6倍と圧倒的人気を誇っていた。
レースはコスモバルクがハナを奪い、中距離GⅠらしい淀みのないペースを刻んでいった。前走で我慢の競馬を強いられたジャーニーは反省を生かしたのか、かかることなくスムーズに折合って後方を進んでいた。
レースが後半に差し掛かる頃には、鞍上池添の胸の内には勝利への確信にも似た、ジャーニーへの熱い気持ちがふつふつと湧き上がって来ていた。
直線に入るとドリームジャーには一気に加速した。
主役を張るはずだったディープスカイを早々に競り落とし、さらにはサクラメガワンダーも置き去りに、1馬身差以上の着差をもって、朝日杯以来となる2年半ぶりのGⅠ勝利を達成した。
2歳王者による宝塚記念制覇は99年グラスワンダー以来となる、10年ぶりの快挙だった。
ドリームジャーの快進撃は夏の放牧を跨ぎ、秋になっても続いていった。
始動戦になったオールカマーではマツリダゴッホの2着に敗退。不得手とする府中・天皇賞秋でも10着に敗れてしまったが、左周りでの凡走は織り込み済み。陣営と鞍上池添は虎視眈々と、年の瀬のグランプリ戴冠に狙いを定めていた。
そして12月27日。暮れの大一番、有馬記念に駒を進める。
本番に向けて日を追う毎に調子を上げていくドリームジャーニーに対し、周囲の期待も次第に高まっていった。当日は2番人気、天皇賞の大敗後にここまで支持されていたのは、ファンもこの気性難の気分屋がどこで走るのか、なんとなく分かって来ていたからかもしれない。ライバルに推されていたのは後の名牝・ブエナビスタ。この年の桜花賞と優秀牝馬を制し、3歳牝馬でありながら1人気の期待を背負っていた。
池添にとってのここまでの2年間、10戦以上をジャーニーと苦楽を共にしてきた。振り返れば長い道のりだった。この馬とはいい思い出もたくさん作ったが、その走りの多くが敗走だった。何かを掴みかけては敗れ、時折もの凄い脚を見せて勝ったかと思えば、また敗けて。それでも不思議と辛くはなかった。もちろん勝てないことへの自責の念と悔しさだけは忘れることはないが、それでもドリームジャーニーと過ごした日々はいつも楽しく、驚きに満ちていた。
長くこの世界に身を置き続けていると色々な人間関係が生まれる。嫌いな人、好きな人、苦手だと思う人。何年付き合っても分かり合うことが出来ない人もいれば、あったその日に十年来の親友のように語らうことのできる人もいる。得てして人の出会いとはそういうものだと思うが、池添にとっては馬との出会いもまた「一期一会」そのものだと言えた。
この仔に出会ったその時に、激しく惹かれるものがあったのだ。池添謙一は理屈抜きにこの気性難の暴れ馬に恋をしていた。好きになってしまったものは仕方ない、最後まで愛し抜くだけだ。
もちろん彼は何も答えてくれない、他の馬もだ。人の言葉を解さない馬という生き物が、池添の愛情を真に受け止めてくれているのか、その真偽はきっと最後まで分からないだろう。
でもだからこそ、競馬は面白いんだ。
ゲートが開かれた。
出遅れ気味のスタートになったドリームジャーニーは最後方2番手、いつもの「定位置」からレースを窺った。
ハナを切ったのは武豊騎乗のリーチザクラウンで、先手を主張すると緩みないペースを作り出していた。
前半1000m通過タイムは58.6秒。例年にないハイペースとなった有馬記念に、観客席からはどよめきの声が上がった。
後方からレースを俯瞰していた池添は、このペースが自分たちの競馬に追い風になることを敏感に察知していた。
2周目、3コーナー付近から仕掛け始める。昨年と同じような展開になってきたが、以前とは違う。俺もこいつもだいぶ成長した、それをこの大舞台で日本中の競馬ファンに見せつけてやるんだ。
2009年の競馬界、この年のリーディングジョッキーに輝いたのは大井競馬出身の内田博幸で、年間146勝を挙げていた。次点は140勝の武豊。
それに対して池添謙一の年間成績は49勝と中位に沈んでいた。
決して超一流の戦績を残していたわけではない。それでも後に「平成のグランプリ男」と呼ばれるこの男は、ここぞの大舞台に強かった。
直線で好位から早めに抜け出したドリームジャーニーはブエナビスタを捕まえに行った。
残り200m、レースは2頭の叩き合いへと変わる。必死に抵抗するブエナビスタを残り50mで非情にも引き剥がしていく。
大歓声に包まれドリームジャーニーはライバルに半馬身差の先着。
鞍上は観客席を指さした後、大きくガッツポーズ。
史上9頭目となる、春秋グランプリ制覇の快挙をここに成し遂げたのだった。
この時のジャーニーの馬体重は426㌔。有馬記念史上、最軽量での勝利である。誰よりも熱い闘志を、その小さな馬体に秘めた会心の勝利は、長い競馬史においていまだ破られることのない偉業である。
翌2010年もドリームジャーニーは現役を続行、春秋グランプリ連覇というさらなる高みを目指し春から始動したが、結果として前年の有馬記念が最後の勝利となった。
2月の京都記念では有馬で破ったブエナビスタに意趣返しを食らい、春の目標だった宝塚記念では同じステイゴールド産駒のナカヤマフェスタの後塵を拝した。6歳を迎えたグランプリホースは、次世代を担う若駒たちの目標となり、次第に後れを取るようになっていったのである。
秋のオールカマーでは2着と奮戦したものの、連覇を狙った有馬記念では勝ったヴィクトワールピサから遅れをとること13着。
翌11年の宝塚記念の10着をもって、5年にわたる競争生活に幕を下ろした。
通算31戦9勝。黄金の名を有した父の血を継ぎ、その資質を疑われながらも少しずつ成長を遂げてきた。やがてかけがえのないパートナーを得て、歩み続けた旅路の果て、鈍色だった偽りの黄金は、誰もが認める本物の輝きへと知らず知らずのうちに変わっていった。
ターフを去り、その走る姿を見なくなった現在においても、その輝きは永久(とこしえ)に語り継がれていくだろう。
2010年夏、池添謙一は新たな旅立ちの時を迎えていた。共に戦うドリームジャーニーの弟がデビューを決めたのだ。父・ステイゴールド、母・オリエンタルアート。ジャーニーの全弟にあたるその牡馬はデビュー前から大きな話題をさらっていた。
管理は父、兄と同じ池江泰寿厩舎が預かることになっていた。池添はあの時と同じように、自ら談判し騎乗させてもらうことになっていた。
兄よりも一回り大きい栗毛の馬体。見た目の印象は大きく異なるが、背に跨った瞬間シンパシーを感じた。
ジャーニーに乗った時の感覚に似ている。この馬は走ると池添の直感がそう告げていた。
この仔もだいぶ気性が荒そうだ。でも、アニキほどじゃないかな…。
8月、曇天の新潟競馬場は前日の降った雨の影響で重馬場だった。
ゲートインした直後、蒸し暑い空気を一掃するかのように一陣の風が吹き抜けていった。
栗毛の馬体がその首を伸ばし、大きくいなないた。
どこかまだか細い、幼さの残る声だった。
それでも「自分はここにいる」と何かに訴えかけるような、力強さを確かに感じた。
また一頭、新たな出会いが増えていく。出会いと別れを繰り返しながら自分の日々は続いていくのだ。今度はどんな旅路になるのだろうか。
「よろしくな。オルフェーヴル」
ゲートが開いたその瞬間、金色の馬体がターフの上に飛び出した…。
出会いと別れを繰り返し 果て無き旅路は続く
願わくば全ての人馬に 幸多からんことを…。
「第67回有馬記念、まもなく出走です」
~はじめに~「有馬記念のお時間です。」
皆さまお疲れ様でございます。ここまでお読みいただきましてありがとうございました。今回は有馬記念ということで「平成のグランプリ男」池添謙一騎手とドリームジャーニーの物語を書いてみました。いかがでしたでしょうか?
さてそんなわけで、今年も早いものでもう有馬記念のお時間がやって来てしまいました。本当に一年あっという間でしたね、去年の有馬noteを書いていたのがつい最近のように感じられます…。いやマジで。
今年一年を森タイツ式は駆け抜けてまいりました。Xのフォロワー数とかあまり気にしないんですけど、最近気が付いたら4600名オーバー?!
になっていました。本当に感謝です。びっくりです。
ていうか、一年前の有馬だとたぶん200人くらいしかいなかったんじゃないかな…。
いつも絡んでくださる方、当noteを読んでくださる方、この場を借りて改めて御礼申し上げます。
ということでここから渾身の有馬記念予想を始めたいと思います。
先週の朝日杯当ててるからね、自信回復したし、ここもバチコリ当ててみせたいなと思います。何卒最後までお付き合いくださいませ。
「俺たちの中山芝2500m」
ファン投票によるドリームレース・有馬記念は、なによりもどこよりもタフさを問われる中山芝2500mが舞台。人馬の底力が試されます。
スタートは3コーナー手前から。そこから内回りを1周半こなす、非常にトリッキーなコースです。6つのコーナーが存在するためペースが上がりづらく、基本前に行く馬が優勢。2500mという長距離からスタミナを有する馬が有利であると、そう思われがちですが、実際はコーナーの多さ、道幅の狭さなどから、スプリント能力に長けた馬が台頭しやすいのが最大の特徴であると言えます。また直線が短いため、差し追込み系の馬が台頭するには早めに上がっていかなければならず、3コーナー付近から動き出せる機動力、騎手においては捲りに行ける力量と展開を読むことの出来る勝負勘が求められます。人馬共に高いレベルを要求される、まさに年末の総決算に相応しいコースといえるでしょう。
昨年のレースを振り返る
前走ジャパンC4着から出走のドウデュースが、怪我から復帰した武豊騎手を背にGP戴冠。
出遅れ気味のスタートで後方2番手から追走となったドウデュースですが、最終コーナー付近から勝負所で捲りを決めて直線差し切りました。前半5F60秒3とやはりペースは上がらず。ドウデュースはメンバー最速の上がり3F4秒3で駆け抜けました。2着はスターズオンアース、大外枠という不利な状況でしたが発馬を決めると、2番手の好位を奪いそのまま粘り込み。ルメール騎手の「神騎乗」が光りました。3着はタイトルホルダー。横山和生騎手とのコンビでハナを切って逃げるも、上記2頭に差されてしまいました。復活を掲げたラストランを3着で終え、有終の美を飾りましたね。
差し切りで別格の競馬を披露したドウデュースは別として、2・3着は前残りでした。この傾向は今回も見られるでしょうか?大本命ドウデュースの相手探しからはじめたいところですね。
今週は有馬だからTOPICも特別だお
ここからは予想のポイントとなるトピックを5点、いや今回は特別に7点ご紹介させてもらいます。有馬記念だからね。
過去10年のデータをもとに収集してます。ご参考ください。
📝ジャパンカップ連対馬の危険性
前走ジャパンカップを勝利した馬の有馬での成績は【0-1-1-3】で1連対のみ。22年勝利馬ヴェラアズールは10着に沈み、昨年の「最強馬」イクイノックスは早々と引退を表明と…。一戦ごとの負荷が増した近代競馬において、秋古馬三冠ルートを歩むのは正直現実的とは言えません。従ってドウデュースの有終の美もデータ上は危険極まりないということになります。
とはいえ松島オーナー曰く「神様がくれた特別な馬」ですから、前走までの内容と出来落ち無しの調教を見る限りでは最大の有力候補であることに異論の余地はないでしょう。
予想を企てる人にとって、この馬の取捨から今年の有馬記念が始まりそうな気がします。
📝上位人気の成績は
1人気は【5-1-0-3】で6連対。時折波乱も起こる有馬の舞台、そこまで信頼性は高くないかも。とはいえここ10年では勝った馬の内9頭が4人気以内。穴馬による勝利は15年8人気で勝利したゴールドアクターのみです。この年は2着に5人気のサウンズオブアースが入り波乱となりましたが、穴人気同士の決着はこの時以来ないです。上位人気から軸を一頭選び、相手に人気薄を指名する馬券戦略が良いかもしれません。
📝穴狙いなら抑えておきたい条件
6人気以下から連対した6頭のうち4頭にGⅠでの連対経験、残る2頭にはGⅡでの勝利経験がありました。人気薄から選ぶ際もGⅠ・GⅡでの実績は重要です。また有馬記念は牝馬の連対・複勝圏が多いことで知られていますから、牝馬にも注目したいです。過去5年では毎年馬券に絡んでいます。
スターズオンアース、レガレイラ、個人時には気になるところです。
📝馬体重は重要、大型馬に注目!
開催最終週ということだからでしょうか、荒れた馬場を突き抜ける馬格・パワーのある馬の活躍が目立ちます。過去十のうち8年で馬体重500㌔以上の馬が連対しています。今年も大型馬の台頭に注目したいです。
前残り出来る先行力があって馬格がある馬、下位人気からだとディープボンドが気になりますね。ファンの多い馬で一定の人気を集めそうですが、馬券的にもある程度期待できそうです。
📝気になる決まり手は「差し・追込み」で
逃げ馬の戦績は【1-0-2-7】で1勝のみ。17年GⅠ7勝目を挙げて引退したキタサンブラックが最後ですね。
昨年はスターズオンアース、タイトルホルダーの前残り案件でしたが、基本差し・追い込み勢が優勢です。また今年は(現時点で出走馬未確定)さしたる逃げ馬が見当たらないため、各馬脚を溜めての瞬発力勝負になるかもしれません。ドウデュースが最有力なのは変わりませんが、その他の馬も上りタイムを今一度チェック、決め手のある馬を重視したチョイスをしたいところです。
📝非根幹距離での実績を忘れるなかれ
根幹距離と非根幹距離、昔から種々の議論が交わされてますが、自分は重視する派の人間です。数多くある重賞の中でも非根幹距離はその適性が如実に表れやすいです。宝塚記念と菊花賞の勝利馬から有馬記念の好走馬が良く出ているという事実が裏付けになると思います。
特に特殊なコースである中山芝2500mは最たるもので、同コース&レースで好走した経験のある馬はもちろん重視したいです。1人気のドウデュースは言うまでもなく、昨年2着のスターズオンアースもそうですね。
19年勝利馬のリスグラシューは国内GⅠ3勝していますが、全て非根幹距離のレースを勝っていましたね、
📝枠順は内枠【1~5枠】でおなしゃす
有馬記念といえば中継される木曜の公開枠順抽選会も風物詩。昨年大外枠を引いた騎手二人の表情はいまだに忘れることが出来ませんw笑
勝ち馬に限っては7~8枠からは出ていません。内であればあるほど基本有利。
最後に解説しましたが、有馬記念の予想で根幹をなす最も重要なファクターと言えます。
ただし、2・3着に関していえば7・8枠からもちょくちょく出ていますから。馬券内に来る馬の予想ということであれば、バッサリと斬り捨てるまではしなくていいと思いますね。
森タイツ式推奨” 穴馬 ”の解説
ここまでお読みいただきありがとうございます。
ここから先は恒例の推奨馬の解説を…なんですが、普通にやっていても面白くないので、今回は師走のドリームレースということで少々趣を変えまして「来たら面白いな」「買ってみようかな」と思わせる穴馬の解説から入りたいと思います。大本命の「あの馬」のことは一旦置いておいて、その他の有力候補も後にして、まずは下位人気の馬から入ってみようと思います。
🐴復活の2歳女王
前走エリザベス女王杯5着。昨年ホープフルS覇者のレガレイラに注目です。
昨年デビュー3戦目のGⅠで戴冠を果たすと牝馬でありながら皐月賞に挑戦。1人気に支持されながらも6着に沈んでしまいました。以降秋の重賞戦線に挑み3戦連続5着と、1年前の勢いは薄れてきた感があります。この師走の大一番でどこまで盛り返せるでしょうか。
レガレイラはスワーヴリチャード産駒。この種牡馬については当noteで4兆回ほど(多い)解説してきました。
2024年産駒がデビューし始めた昨年は新種牡馬リーディング1位の座に輝き、全体でも45位とまずまずの実績を残しました。2024年現在の種牡馬リーディングでは22位で今年になっても結果を残しています。
右・左回りどちらの条件も不問で東京・中山の芝コースは等しく得意としていますので、血統的なコース適正は不問と言えるでしょう。
レガレイラは同レースに出走するアーバンシックと同様に、サンデーサイレンス3×4・18.75%配合の「奇跡の血量」を有する器。GⅠ戴冠に相応しい逸材だと思います。
今回有馬記念に出走するにあたっていくつかのネガティブな側面も散見されています。すなわち連続敗退中であるということがまさにそれなのですが、出遅れが多くいい形でレースに参加することが出来ていません。スタートがカギを握る有馬記念では、枠順にも左右されますが、大きなデメリットであると言えます。気性が難しく操作性が悪い点もマイナスでしょう。しかしながらプラスに捉えれる点もあり、最大の魅力はその切れ味。これまで7戦したうち6回上がり最速を計測しており、上がり3位だった前走も、直線で不利があったことを鑑みれば強かったと思います。今回ルメール騎手が早々にアーバンシックへと騎乗を決めたため誰が乗るのか注目していましたが、ここに来て戸崎騎手を確保することが出来ました。全国リーディング現在3位。中山巧者の騎手が乗ってくれるのであれば申し分なしでしょう
同じ3歳馬のアーバンシックだけでなく、多士済々の古馬たちとここで一戦交えるわけですが、レガレイラもその短い競技生活の中で古馬顔負けの経験を積んできました。デビュー時からその素質を評価されてきた、ポテンシャルを秘めるその末脚に期待してみましょう。
🐴輝ける「地上の星」へ
昨年2着馬のスターズオンアース。現時点で想定5人気、オッズ10倍以上であれば全力で買いたいと思わせる一頭です。
昨年出走時は不遇の8枠を引きましたが、ルメール騎手が上手く発馬を決めると道中2番手の好位を確保。直線ではドウデュースに差されたものの2着入線「神騎乗」により連対を果たしました。
スターズオンアースはドゥラメンテ産駒。昨年同レースで引退したタイトルホルダーから今年のスプリンターズSを勝ったルガルまで、芝であれば単距離~長距離問わず幅広い産駒を残しています。中山コースへの適性は全般に高く、この馬の昨年の好走を見ても血統的な問題はないと考えてよいでしょう。
また母方の血統を遡ると、欧州GⅠ6勝の名牝スタセリタの名前があります。スタセリタの産駒には日本のGⅠ2勝を挙げたソウルスターリングなどがいますね。改めてスターズオンアースは超優良血統馬であると思います。
今年のドバイ・シーマCで8着に敗れた後、両前脚に浮腫の症状が出たため秋まで休養。その復帰初戦のジャパンCでは目立った走りなく7着敗退と、低迷期に入っているかのような気もしますが、逆に考えればこの大一番に向けて昨年と同じ臨戦過程で使われた上積みはそれなりにプラスであると言えます。
もともと国内のレースでは馬券内を外したことがなく、その安定感は牝馬でありながら現役屈指だったはず。本調子に戻ったのであれば強く推せます。問題は鞍上の川田将雅騎手について、その手腕と実績は疑う余地のないトップジョッキーではありますが、長距離戦の成績に関してはイマイチです。
しかしながら現在リーディング2位、ルメール騎手とは僅差で後れを取っていますが、日本人騎手では最上位。今年で21年目を迎え円熟味も増してきました。ここで苦手距離を克服、というとそう安直な話ではないかもしれませんが、誰よりも勝利を渇望するトップ騎手の更なる進化に期待してもいいのではないかと思います。
🐴その牡馬、大器晩成につき
前走BCターフ2着、海外のビッグレースであわやの場面を作ったローシャムパーク、待望のGⅠ制覇に期待を掛けます。
ローシャムパークは22年クラシック世代において、その素質を高く評されながらいまだGⅠへ届いていません。前々走毎日王冠では戸崎騎手を背に2人気に推されていましたが、直線で伸びを欠き10着に凡走。不振に陥ったかのように思いましたが、渡米して臨んだGⅠ・BCターフの大舞台で、英国のGⅠ馬レベルスロマンスを追い詰める2着に激走し、あっと驚かせました。
この馬は幼駒時代からその素質を高く評価されてきましたが、陣営は慎重に育成に時間を割いてきました。同期がクラシックで戦っている中、3歳秋のセントライト記念で重賞初挑戦。3着に収まるとその後は条件戦を走り、昨年夏の函館記念、秋初戦のオールカマーを連勝し、一線級に名乗りを挙げてきました。セントライトからOP入りまで8か月、重賞勝ちまでは10か月要しており、順調ながら、かなり時間をかけてきたなというのがこの馬に対する所感です。
ローシャムパークはハービンジャー産駒。今年の種牡馬リーディングでは現在8位につけており、相変わらず安定した成績を残しています。重賞ではチェルヴィニアがオークスを、アルマヴェローチェが阪神JFを制しました。また同産駒における母父キングカメハメハ産駒との配合は、有馬記念を制したブラストワンピース、エリザベス女王杯を制したモズカッチャンなど、非根幹距離のGⅠレースに勝利しており、今回出走する馬の中では最も血統評価の高い一頭と言えます。
ローシャムパークは基本使い込みが効かないタイプなので、春の大阪杯でいきなり好走したように、間隔を空けて出走する方が望ましいと思っていました。しかしながら毎日王冠⇒BCターフと1か月間でかなりの良化を見せていたので、秋3戦目となる今回ですが、そこまで心配しなくてもいいのかなと少し見解を改めました。中間から調教も悪くなさそうです。2500mという初距離に対して疑問の声もありますが、BCターフの2400mで好走したように距離延長はむしろ歓迎で、非根幹距離に向いていることは先に述べた通りです。中山とも好相性ですね。5歳最終戦をを迎え、そろそろ待望のGⅠ奪取を叶えたいところ。ドウデュース筆頭に相手は揃いましたが、海外のGⅠではそれ以上の相手と互角を演じたローシャムパークです。思い切った印を打ちたいと思います。
🐴豪州発、中山行き快速
前走豪GⅠコックスプレートで2着、6歳にし初のGⅠ戴冠を狙うプログノーシスが出走です。
その素質を期待されながら、3歳3月までデビューが遅れ、新馬戦を勝利も中1週で挑んだ毎日杯では後のダービー馬シャフリヤールに惜敗。その後は地道に条件戦から勝ち鞍を挙げながら、重賞戦線へと名乗り出てきました。
昨年春の金鯱賞、夏の札幌記念を制すると、迎えた秋天ではイクイノックスの3着に健闘も、香港GⅠを3戦して未勝利と、GⅡまでは圧倒的な力量をみせながら、GⅠの壁を超えることはできていません。
今年はGⅡ金鯱賞で始動し圧倒的な走りを見せつける一方、海外のGⅠ2戦ではあと一歩及ばず。強豪をが顔を揃えた師走のグランプリ、悲願達成となるか非常に気になるところです。
プログノーシスはディープインパクト産駒、数々の大物を世に送り出してきた大種牡馬で、今さら説明不要でしょう。父はラストランで有馬記念を制しており、その産駒も中山芝コースでは好相性。ジェンティルドンナ、サトノダイヤモンドが同舞台を制しています。近年では20年にサラキアが2着に入っています。プログノーシスは今回が初の中山ですが大きな心配は不要と思います。
夏の札幌記念の際は、香港帰り3カ月半ぶりの出走でまさかの敗北を喫してしまいました。この際の敗因は陣営もよく掴めていなかったようですが、間隔を空けていたことが一要因に数えられるようです。今回は豪州から帰国し2か月のインターバルで挑むわけですが、陣営は万全をアピールしています。この豪コックスプレートからの参戦というローテは19年勝ち馬リスグラシューと同じで、勝利した前例がある点は好ましいです。
プログノーシスはデビューからここまで16戦して、掲示板を外したことがないその安定感が大きな魅力です。さらに付け加えると、国内では常に上がり2位以内のタイムを計測しており、末脚の破壊力は今回のメンバーにあっても最上位に位置しています。
仮にですがドウデュースが捲りを決めて秋古馬三冠達成となるのであれば、相手も追い込み勢から台頭してきそうな気がします。
というのも(昨年は異なりましたが)有馬記念で追込み馬が勝利した際は、2・3着馬も追込み脚質である、というケースが非常に多いからです。
鞍上は主戦の川田騎手がスターズオンアースの騎乗にまわったため、三浦皇成騎手が指定されました。GⅠ勝利経験は未だありませんが、中山コースでの実績と経験は豊富です。自信と多くのファンが待望するGⅠ勝利をここで叶えるかもしれません。プログノーシスの末脚に注目です。
大本命とその他の有力馬について
ここまでが、中位~下位人気の馬のなかで印を打ちたい推奨馬を解説させてもらいました。で、ここで「あの馬」に対する短評とその他の有力馬について解説した後、今回のnoteを了とさせていただきます。
🐴万感の思い込めラストラン
天皇賞秋・ジャパンカップとで圧巻の末脚を披露し秋古馬二冠を達成「絶対王者」ドウデュースが秋古馬三冠目をかけ、ラストランです。
有力馬につき何度も解説してきましたが、ドウデュースはハーツクライ産駒。07年に種牡馬入りしてから数々の産駒を世に送り出してきました。昨年にこの世を去ったため、23年度のデビュー馬がハーツクライのラストクロップとなりました。ハーツクライの産駒からはスワーヴリチャードなどが種牡馬入りし結果を残しているので、その血統はこれからも続いていくでしょう。母のダストアンドダイヤモンズは米GⅡ勝ちの実績があります。牝系の近親馬には凱旋門賞勝ちのダンシングブレーヴがおり、大一番での底力、脚を溜めてからの爆発力には大きな魅力を感じさせます。
ドウデュースは現在GⅠ5勝、現役では実力・実績共に最強の№1ホースといえるでしょう。少し難しい、扱いづらいところはあり、荒天の重馬場、海外での実戦、武豊騎手の不在というアクシデント発生時においては簡単に馬券外に飛んでいますが、条件が揃ったその際には並ぶ者なき走りを見せています。驚異的な末脚だけでなく、昨年の同舞台で見せた、3コーナーからポジションを押し上げることの出来るコーナリング性能の高さも最大限評価できます。
一戦ごとのレベルが高くなり、激しく消耗するようになった現代競馬における「秋古馬三冠」のローテーションは、現実的でなくなったというのが一般的な見解だと思います。ただしこの馬にとっては例外のようで、ジャパンカップのパドックでは他のGⅠ馬が見劣りしてしまうくらいの出来栄えで、レース後も大きな疲労を見せることなく、最終追切まで万全の様子で臨めているようです。
一点だけ、原則として良馬場が好走の第一条件になる馬ですので、重馬場以上の道悪になるようでしたら、素直に割り引いた方が良いでしょう。開催終盤で馬場に荒れている点にも注意は必要です。基本後方からの競馬をしてきますので、枠順に左右される心配はあまりなさそうです。
鞍上はもちろんレジェンド・武豊騎手が継続します。その名を歴史に刻む伝説の一戦となるかどうか、令和の秋古馬三冠達成へ、王者の走りを信じましょう。
🐴アーバンシック
🏇鞍上:クリストフルメール
前々走セントライト記念で重賞初制覇、返す刀で前走菊花賞を奪取、勢いに乗る3歳馬アーバンシックです。春競馬までは不振が続いていましたが、秋以降ルメール騎手を背に完全に覚醒しています。アーバンシックはスワーヴリチャード産駒なので、前述のローシャムパークと同じで解説は省きますが(手抜き)、血統面では強く推せそうです。
鞍上は現在リーディング1位のルメール騎手。菊花賞以降のGⅠレースでは人気馬を馬券外に飛ばし続けており、少々批判の目にさらされているようですが、その卓越した手腕はやはり信頼がおけると思います。「馬と折り合いをつける」能力に関しては現役屈指です。レースにおける勝負勘というよりも、自分の思惑通りに馬をコントロールする騎乗技術に関しては、間違いなく現役最高だと思います。デビュー当時から掛かり気味になるなど、気性に問題を抱えていたアーバンシックにようなタイプとは相性抜群ですね。
懸念材料として心配されるのがゲートで、アーバンシックは7戦して5回、約71%の確率で出遅れています。現在枠順の発表前にこの記事を書いていますが、枠順と同じくらいスタートが重要な有馬記念ですから、発馬には十分注意が必要だと思います。
🐴ジャスティンパレス
🏇鞍上:坂井瑠星
昨年4着馬。惜しくも馬券内を逃しましたが、振り返れば古馬になってから掲示板を外したのは道悪になった宝塚記念のみですので、安定感ある走りは魅力的に映ります。相手なりに走る馬の最たる例と言えるでしょうか、鞍上の坂井瑠星騎手とも手は合っていそうです。昨年の有馬は出負けした感がありました。今回もドウデュース筆頭に追込みに賭ける馬が多そうなので、思い切って好位先行を奪う積極的な騎乗を期待したいところです。坂井騎手ならやってくれそうな気がします。
父はあのディープインパクトで、ラストランで有馬記念を制しました。また半兄のアイアンバローズはステイヤーズSに勝利するなど、本馬のGⅠ実績も含め長距離への適性は高いと思います。
🐴シャフリヤール
🏇鞍上:Cデムーロ
21年ダービー馬。長く鋭い上がりをつけるのが本馬の魅力ですが、22年のドバイ遠征以降は勝ち鞍に見放されているのが現状です。3歳時にはレコード勝ちも記録しており早い時計には対応可能で、2年連続のBCターフ3着は大いに評価できると思います。一方海外帰りの初戦は振るわないという確かな傾向もあるので、その点は不安です。父はディープインパクトなので血統的にはOK、全兄のアルアインは国内中距離GⅠ2勝の実績もありますね。
🐴ダノンデサイル
🏇鞍上:横山典弘
本年のダービー馬。前走の菊花賞は6着に敗れましたが、その主たる敗因は展開によるもの。見直しは十分可能です。むしろハイレベルと言われている今年のクラシック世代で頂点に輝いた馬ですから、ここでも大きく期待できそうです。
エピファネイア産駒はエフフォーリアが3歳時に制覇した他、近年ではイズジョーノキセキが4着に入るなど、有馬記念とは好相性です。ダノンデサイルが他の産駒と異なるのは、サンデーサイレンスのクロスが入ることの多い血統において、母がトップデサイルという米国からの輸入馬という特殊な血筋。サンデーのクロスを持っていないという同産駒では異端児ともいえる存在で、面白いです。
菊花賞は馬群を捌くことが出来ず、3コーナー付近から後退していってしましました。内馬場で他馬に包まれたり、馬混みで揉まれるような展開になると、ここでも不安はあります。鞍上ノリさんの手腕にかかる部分は非常に大きいと思います。
とはいえ現3歳王者であり、その走力は折り紙付きですから、期待するのもありでしょう。
🐴スタニングローズ
🏇鞍上:Rムーア
GⅠエリザベス女王杯で重賞4勝目を飾り復活した印象です。
中山コースとも好相性でその点も強みになりそう。
とはいえ勝った重賞は全て牝馬限定戦で、牡馬相手では2歳時のサウジRC3着が最高位と結果を残せていません。
キングカメハメハ産駒は有馬記念にのべ28頭が出走していますが、レイデオロの2着が最高着順で、勝った馬はいまだにいません。今回Rムーア騎手騎乗である程度は人気するかもしれませんが、個人的には見送りたい一頭です。
🐴ベラジオオペラ
🏇鞍上:横山和生
先行力が大きな武器で、逃げ馬不在の今回はもしかすると逃げの手を打つかもしれません。そうでなくとも押し出される形でハナに立つ可能性もありそうです。
ベラジオオペラは安定感が魅力で、前走の秋天こそ6着に敗れたものの、大敗と呼べるのは昨年の皐月賞だけで、その他の出走したレースでは勝ち馬から0.4秒差以内と大負けしていません。超一線級がそろったここでも相手なりに走りそうなイメージです。
父は「龍王」ロードカナロア。現役時代はマイル戦までの実績しかないですが、産駒は距離関係なく芝の重賞で実績を残しているので大きな心配はないかも。サートゥルナーリアは有馬記念を勝てませんでしたが、リスグラシューの2着に好走しています。
先行粘り込みのパターンを期待したいので、後続勢が早めに仕掛けてくる展開になるとどうなるか一抹の不安はよぎります。とはいえ主戦の和生騎手はこの馬のことをよく理解していると思いますし、弱小世代と呼ばれた現4歳世代も今年になってから下馬評を覆す活躍を見せています。4歳馬ではただ一頭の出走となるため、世代を代表した好走に期待したいところです。
🐴ブローザホーン
🏇鞍上:菅原明良
ジャパンカップは12着と大敗を喫しましたが、状態面ではそこまで悪くなく、復調傾向にあるような気がしていました。中間から順調なようなので、流石に良化してきているだろうというのが個人的な見解です。ではどこまでやれそうなのかという点ですが、この馬も追込み馬なので展開に大きく左右されるのではないでしょうか。ドウデュースをマーク出来て、仕掛けどころで一緒に浮上してくるレースになれば面白そうです。
中山コースは久々ですが、小柄な馬なので機動力を生かしたコーナリングにも期待できそうです。
🐴ディープボンド
🏇鞍上:幸英明
今年躍進を続けるキズナ産駒。7歳の高齢を迎えましたが前走の京都大賞典では2着に奮闘。この馬も先行力が魅力で、スタミナを活かした立ち回りで粘り込みを図れれば、上位に残ることもあり得るかと思います。ファンの多い馬ですが個人的にも頑張って欲しいなと思います。
🐴シュトルーヴェ
🏇鞍上:鮫島克駿
2頭出しの堀厩舎から1頭。最下位人気になるでしょうか、鞍上も初の有馬なので、どこまでやれるかといったところですが、末脚は魅力です。3着固定という手もなくないと思います。この馬もディープインパクト産駒ですね、血統的には良さそうです。
🐴ダノンベルーガ
🏇鞍上:松山弘平
2頭出しの堀厩舎のもう1頭。近走大敗続きでかつての輝きを取り戻せるかどうかは難しいところですね。直近ではドバイターフ3着が最上位なので、継続騎乗の松山騎手の存在が上手く作用して変り身あれば、といったところでしょうか。期待はできない一頭です。
🐴ハヤヤッコ
🏇鞍上:吉田豊
最高齢8歳馬の出走。前走アルゼンチン共和国杯では直線大外からの強襲で重賞3勝目を奪取。その末脚は8歳になっても健在です。
鞍上は20年ぶりの有馬記念出場、ベテラン吉田豊騎手です。見ている古参ファンもそうですが、本人も胸に込み上げてくるものがありそうです。
記念出走と言われないような激走を期待したいところです。
馬自身は元気いっぱいのようなので、なんとなく楽しみな一頭ではあります。無事に帰って来てね。
おわりに
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。
ありがとうばかリ言っていますが、本当に感謝しています。ありがとうございます。ここまで読んでくれた方本当にいるのかな、とも思ってしまいますが…。2万文字を超えるボリュームとなってしまいました。
ただいま金曜の早朝、体力的には限界です。眠いです。
いろいろと語りたい見解もありますが、時間もないので、なにかあればXの方にネタっぽくポストします笑
兎にも角にも、年の瀬恒例のドリームレース、皆で楽しみたいですね。
来週はホープフルでなく東京大賞典の記事を書いてみたいと思います。
コラムのネタは…なににしようかな(o^―^o)?
それではまた。