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序文:優駿よ菊花紋と共に踊れ

「 菊 」
菊は日本を象徴する花として、古来より重用されてきた。
元々は外来種であり、薬草や観賞用植物として平安時代に中国から伝来したとされている。日本に現存する最古の和歌集『万葉集』には157の植物が登場するが、菊を詠んだ歌は一首もなく、これは当時の日本に菊が存在していなかったことを暗に示している。平安時代の歌集『古今和歌集』になると、菊を詠む歌が散見されはじめる。
菊は物品への意匠として用いられることも多く、鎌倉時代に後鳥羽上皇が身の回りのものに施したことにより、天皇および皇室の紋となったといわれている。南北朝時代以降、天皇より下賜されることになると、公家や武家の間で盛んに家紋として使用されるようになった。いわゆる「菊花紋章」である。
菊花紋には様々なデザインがあるが「十六八重表菊」は、皇室の紋章として知られる。転じて日本の事実上の国章としても使われており、大日本帝国憲法や日本国憲法の原本を納めた箱の蓋にも刻まれている。また1926年以来、日本の旅券に刻まれているのは十六一重表菊である。
「信頼」「高貴」「高潔」「高尚」
これらは皆菊の持つ花言葉であるが、我々日本人の精神の中には春の桜と共に、気高く咲く秋の菊花が常に介在しているのかもしれない…。

また菊をモチーフとした逸話や故事には枚挙にいとまがない。
その中の一つ、中国の故事成語に「春蘭秋菊倶に廃すべからず」という言葉がある。これは『旧唐書』の裴子余伝に典を発し、「春蘭も秋菊もともに趣があって美しく見捨てがたい」つまり、"どちらも優れていて甲乙がつけにくいこと"の例えとして用いられている。


さて我々競馬ファンにとって、菊と言えば10月のクラシック競争『菊花賞』に他ならないだろう。
かつてこのレースにおいて、春蘭と秋菊が咲き乱れるが如き死闘を制した一頭の馬がいた。

ダンスインザダーク
若き「天才」武豊をその背に96年菊花賞を制した。

ダンスインザダークは1993年6月、北海道千歳市の社台ファームにて生を享けた。父はサンデーサイレンス、後に13年連続でリーディングサイアーとなる、大種牡馬である。ダンスインザダークはこの2年目の産駒として期待を背負っていた。兄にエアダブリン、姉ダンスパートナーという超良血に間違いないが、ダンスインザダークが生まれた時点ではその将来を約束されている、というほどの期待感はなかった。
というのもエアダブリンは2歳、全姉ダンスパートナーに至っては1歳年上だったので、2頭ともダンスインザダークが生まれた時点では、まだ実戦で走り出していなかった。
ダンスインザダークは幼駒時代、図らずも自らの価値をどんどんと上げていった。94年ダンスが生まれて1年が過ぎようとしていた時、兄エアダブリンはクラシック戦線で活躍していた。ダービー2着、菊花賞3着と勝ちきれなかったが、この年クラシックを席巻していたのは「シャドーロールの怪物」ナリタブライアンだった。
翌95年、ダンスインザダークは育成期間を終え厩舎に入厩する準備を進めていた。この時にオークスを勝ったのが全姉、ダンスパートナーである。その他にも、父サンデーサイレンスの産駒として第1世代がクラシックに挑んだ95年は、ジェニュイン、タヤスツヨシ、そして「幻の三冠馬」フジキセキらが、サンデーサイレンス旋風を巻き起こしていたのである。
ダンスインザダークはサンデーサイレンスの産駒としては珍しく、悠然とした大型の馬体を有しており、入厩を決める頃には、走る前からクラシック候補に挙がるのではないかと囁かれ始めていた。
そして3歳(現2歳)秋、栗東は橋口弘次郎厩舎に入厩が決まる。調教師の橋口はこの時、毎年のようにリーディング上位を競う腕利きとして注目を集めていたが、クラシックGⅠ勝利の経験はなかった。
この馬ならクラシックを、ダービー制覇を狙えるかもしれない。それにふさわしい使い方をしなければならない。橋口はじっくりとこの馬と向き合い、鍛え抜いていくことを決心した。

同年夏、一人の騎手が社台ファームを訪れた。
デビュー9年目を迎えていた武豊である。
現在でも最前線を駆ける競馬界の"レジェンド"は、この当時すでに騎手としての地位を確固たるものとしていた。
87年のデビュー年に69勝を挙げ、JRA賞最多勝利新人騎手を獲得。翌88年にはスーパークリークで菊花賞を制し初GⅠ制覇。
90年には競馬ブームの主役となっていたオグリキャップとコンビを組み、安田記念、有馬記念を制した。特に「燃え尽きた怪物」と言われていたオグリキャップを、引退レースで復活勝利に導いた有馬記念は「奇跡のラストラン」として語り継がれる、伝説のレースとして称賛された。
空前の競馬ブームを生んだ武豊は、押しも押されもせぬ日本競馬界の主役に他ならなかった。
武はこの年の6月に待望の結婚。タレントの佐野量子と挙式を行った武は、お礼と挨拶を兼ねて社台ファームにやって来ていたのだ。
この時出迎えた社台ファーム代表の吉田照哉は、武にこんな話を持ち掛けた。
「ダンスパートナーの弟がいるんだ、乗ってみるかい?」
ダンスパートナーの弟聞いて武は身を乗り出した。ダンスパートナーに騎乗し春のオークスを制したのは、他でもない武豊自身だったからだ。
「美浦にも一頭凄いのが行くことになっているんだが、こっちは関西の大将格になれると思う。今のうちに唾をつけておいた方がいいんじゃないかな?」
これが武とダンスインザダークとの出会いだった。
ちなみにこの時吉田が発言した「美浦に行く凄い馬」とは、翌年ダンスインザダーク、ロイヤルタッチ、イシノサンデーとともに「サンデー四天王」として総称されるバブルガムフェローである。

それから間もなくして、中京競馬場で橋口と武が会することがあった。
開口一番、武は橋口に告げた。
「牧場に行ったときに乗ってきました」
最初は何のことを言っているのかわからなかった。
「ダンスパートナーの弟に乗ってきたんです」
楽しそうに話す武を見て、橋口は思わずにやけてしまった。
ダンスインザダークに相応しい鞍上を見つけなければ、と思っていた矢先の出来事だったからだ。
「いい馬やろ?頼んだからね」
橋口にとっては悲願の、武にとっては8度目となる、日本ダービー挑戦の幕が上がろうとしていた。

ダンスインザダークのデビューは95年12月、暮れの阪神開催。橋口はこの初戦の段階から、日本ダービーを意識したローテーションを企図していた。
ダンスは11頭立ての1人気だった。直前の追切ではさほど早い時計は出ておらず、仕上がりは未だ途上といったところだったが、サンデーの血を引く良血と鞍上武豊の存在が人気を後押ししていた。
ダンスインザダークは人気に応えて新馬戦を勝利で飾った。2人気から2着に入ったマチカネヒガノボルを、後方から差し切って3/4馬身差の勝利。タイムもなかなか優秀ではあったが、内容的には決して手放しで喜べるものではなかった。スタートは出遅れ、徐々に押し上げ直線で武がゴーサインを出しても、内にササって思うように追えなかった。それでも勝ったのだから、流石の大器だという見方もできるかもしれないが、ダービーへの道筋は前途多難に思えた。
橋口は早々に岐路に立たされた。この馬の道筋、クラシックディスタンスと言われる日本ダービーの舞台は東京芝2400m。多くの若駒にとっては未知の距離である。一般的なローテーションでは馬に負荷がかからないように、距離を伸ばしながら自己条件を戦っていくことが常道とされていた。かつてのトウカイテイオーはこれに似た道を進み、一度も重賞を使わず無敗のまま皐月賞を制した。
もう一つは自己条件ではなく、重賞を使い強い相手と戦わせるローテーション。諸々のリスクを背負うこととなり茨の道といえたが、橋口はこの道を歩ませる選択を取った。

次戦、ダンスインザダークはラジオたんぱ杯3歳ステークスに向かった。このレースは同じサンデー産駒のロイヤルタッチ、イシノサンデーら素質馬が揃った一戦となった。ロイヤルタッチの新馬戦も武豊が騎乗し勝利していたが、武はここでダンスインザダークに騎乗することを選んでいた。
ロイヤルタッチもまた耳目を集める一頭だった。父サンデーサイレンス、母パワフルレディ、ダービー馬ウイニングチケットの弟として、将来を期待されていた。
そのロイヤルタッチが期待に応えレースを制した。アタマ差で2着に入ったイシノサンデーに続きダンスインザダークは3着に敗戦。2戦目にして初の重賞で敗れてしまったダンスに、陣営は落胆のため息をついたかというと、実際はそうでもなかった。
レース中は不利もあったし、体のつくりもやや太かった。にもかかわらず直線では新馬戦のようにササることもなく、しっかりとした伸びをみせた。この馬はこれからまだまだ仕上がっていくだろうと、橋口も鞍上の武もむしろ視界が開けたように気持ちになっていた。

年が明け96年、牡馬クラシック戦線はサンデーサイレンス一色に染められようとしていた。たんぱ杯を戦った3頭、ダンスインザダーク、イシノサンデー、ロイヤルタッチに加え、美浦は藤沢厩舎のバブルガムフェローが主なクラシック候補とされていたが、みなサンデーサイレンスの血を引く申し子たちだった。
とりわけバブルガムフェローの存在感はすさまじく、デビュー戦こそ藤沢厩舎と岡部幸雄のコンビらしく、3着というほどほどな結果だったが、続くGⅠ朝日杯を制し、クラシック戴冠へ向け準備万端といった体だった。前年活躍した幻の三冠馬、フジキセキを思わせるような惚れ惚れするような馬体を有していた。
このバブルガムフェローと関西のサンデー産駒3頭。皐月かダービーか、どこでどのような形で決着が付けられるのか、競馬ファンのボルテージは日増しに大きくなっていった。
ダンスインザダークはこの年の始動戦に2月のきさらぎ賞を選ぶ。ここにも同期でライバルの一頭、ロイヤルタッチが参戦してきた。人気を分け合った2頭のマッチレースになったきさらぎ賞は、またしてもロイヤルタッチに軍配が上がった。ダンスは直線で切れ負けしてしまった。しかし、前走では3着敗れたのがここではクビ差負け。勝てはしなかったものの、確かな成長を感じることが出来た。この先逆転は可能だ。本番であるダービーまで、まだ余裕があった。

翌月、ダンスインザダークは東上し弥生賞に駒を進めた。このレースでダンスは、走りの質がもう一段階上がったかのような、強い競馬を見せて重賞初制覇を飾る。1人気のライバル・イシノサンデー、有力関東馬のツクバシンフォニーをまとめて追い抜き、その切れ味に磨きをかけたかのように見えた。
弥生賞は戦前からイシノサンデーとダンスインザダークの一騎打ちと騒がれていたが、鞍上武豊はライバルたちのことは敢えて考えないようにしていた。この馬の走りを突き詰めていけば、勝利は自然ともたらされるはずだ。仮に勝てなくとも、最終目標は日本ダービー。憧れのダービーさえ勝つことが出来れば…。
若き天才は常に先を見据え、ダンスの走りに磨きをかけていった。

クラシック一冠目、皐月賞を直前にしてダンスインザダークにトラブルが起きる。出走6日前に発熱を感冒。急遽出走を断念する破目になってしまった。同じくして美浦のバブルガムフェローも骨折を発症。4強のうち2強を欠いた状態ではじまった皐月賞は、イシノサンデー、ロイヤルタッチ、サンデー産駒2頭のワンツーフィニッシュで幕を閉じた。
デビュー以来、少しずつだが順調に歩みを進めてきたダンスインザダーク。ようやく本物と言える走りができる域に達したところで、思い掛けない挫折を味わうこととなってしまった。
ただ幸いなことに発熱は軽度の症状で済んだ。そしてクラシックレースにはまだ日本ダービーが残されている。この馬にとっての最大の目標である。
いつまでもここで足踏みをしている場合ではなかった。橋口はここで大きな選択を強いられた。幸いダンスは回復してくれたが、ダービーへ直行するのか、ステップレースを一度使うのかどうか。残された時間を考えれば、直行した方が万全のコンディションへと馬を持っていけるだろう。しかし未だ実戦の乏しいダンスにはレースでの経験が必要だった。
悩んだ挙句に橋口はOP特別であるプリンシパルSを走らせることに決めた。上積みを重ね弥生賞で覚醒したように、叩いた方が上向きになる公算が大きかった。
同じトライアルの青葉賞に比べ距離も2000mと短く、メンバーも手薄だったが回復明けのダンスには「丁度いい」一戦となった。いかにも仕上り途上のパドックだったが、レースは完勝。レース後に橋口は自身のコメントを残した。
「これでダービーへ100%の状態で持っていける」

日本ダービーの一週間前、牝馬クラシック2戦目、オークスもまた大きな盛り上がりをみせていた。ダンス同様、急な発熱で桜花賞を回避せざるを得なかったエアグルーブが圧勝。鞍上は武豊だった。
ダンス陣営はこの勝利に勇気づけられたが、馬上の人、武豊もまた自分の騎乗に自信を深めていくことができた。
この年でデビュー10年目を迎えた武にとって、ダービー制覇はどうしても超えられない大きな壁として立ちはだかっていた。
デビュー時からその才能を開花させ、一躍スター騎手として脚光を浴びた。急速に拡大していく競馬人気の中心には、常に武豊がいた。
武自身、自分が競馬界の顔なのだと自覚を持ち、業界のイメージアップに貢献してきた。
もちろんメディアの顔としてだけなはない、一流の騎手として常にトップの成績を残し続けた。数え切れない馬の背に跨り、数多くの重賞を制してきた。この10年、自分ほど濃密な騎手人生を歩んできた者は他にいないだろう。誰よりも自信があった。
そんな武豊であっても、日本ダービーだけは容易に制することが出来なかった。「武豊はダービーを勝つことが出来ない」そんな噂が耳に流れてきた。風聞を気にするほどやわではないが、ダービーに勝ちたいという思いは日を追う毎に強くなっていった。
そして昨年出会った一頭、ダンスインザダーク。乗った瞬間に直感が湧いた。同じサンデー産駒のライバルたちに囲まれたが、この馬とならダービーを制することが出来る、そんな予感があったのだ。
ダンスインザダークは周囲の期待に応え、着実に成長を重ねていった。
「武豊を日本ダービーに勝たせるための馬」周囲も、そして武本人もいつしかそう思うようになっていた。

ダービー終了直後、武豊も陣営も落胆の色を隠すことが出来なかった。
確かに勝ったはずだった。
レースはサクラスピードオーの逃げで幕を上げた。ダンスインザダークと武豊は内枠3番の利を生かし、道中2、3番手の好位を確保した。流石若き天才、文句のつけようがない騎乗ぶりにファンは歓声を上げた。直線に入るとサクラスピードオーのスタミナが切れ始めた。ロイヤルタッチもイシノサンデーもまだ後方。武豊は心の内で勝利を確信した。
「日本ダービー、もらった!」
遂に武豊がダービーを制する瞬間がやってきた。
ダンスインザダークに追いすがる者は誰もいない、はずだった。
__残り200mを切ったところで、大外から一頭の鹿毛が追込んできた。
たった2戦のキャリアでダービーに挑んできた、フサイチコンコルドだった。鞍上は若手の藤田伸二、当日7番人気の伏兵によって武が、橋口が思い描いてきたダービー制覇のシナリオは、脆くも崩れ去ってしまった。

何が間違っていたのだろう?レースを終え、暫くたってからも武は何度もダービーのことを思い返していた。デビュー10年目を迎え、今年こその思いで準備を重ねてきた。サンデーサイレンス産駒の素質馬、同じ志を持った調教師と仲間たち、直前での発熱というトラブルも乗り越え、万全を期して臨んだ大舞台。相手が強かったといえばそれまでだが、完璧な仕上がりと騎乗を以てしても乗り越えることが出来なかったのだ。
ダンスインザダークの物語は、このまま幕を閉じてしまうのだろうか。
答えは明白だった。終わっている訳がない、ダンスインザダークの物語にはまだ続きがある。舞台は秋、菊の舞台でこの借りを返す。
武も陣営も、フサイチコンコルドへの雪辱へ燃えた。

秋初戦、何としても手に入れたい菊花賞戴冠へ向け、京都新聞杯から始動した。デビュー時には強敵だったロイヤルタッチを抑え、さらには難敵カシマドリームを下しダンスはこのレースを制した。
「宿敵」フサイチコンコルドがこのレースを回避していたことが、2頭の関係をより際立たせた。再戦は菊花賞に持ち越し、このドラマチックな展開に競馬ファンは色めき立った。
またこの勝利でダンスインザダークはクラシック・トライアルレースの3冠制覇という記録を達成した。もちろん武も橋口も、そんな名誉に甘んじていることなどなかった。
狙うは最後の一冠のみ、決戦へのムードは加速度的に燃え上がっていった。

いよいよやってきた菊花賞。待ちに待ったリベンジの舞台、フサイチコンコルドも出走してきた。前走カシオペアSで敗れていたこともあり、相手は単勝オッズ5.0倍の2番人気、トライアルGⅡを勝ち上がって臨んだダンスインザダークは単勝オッズ2.6倍の1人気に支持されていた。
各馬一斉にスタートを決めた、大外17番ということもありやや出負けした感はあったが上手く中団に位置を取った。宿敵フサイチコンコルド、好敵手ロイヤルタッチを前に見る形で道中を進んだ。
1週目のスタンド前大きな歓声が馬群を包み込んだ。ダービーにも負けない、菊花賞特有の盛り上がりだ。かつてスーパークリークで勝った時も、この声に背中を押された。
勝負どころの3コーナー、徐々に進出を開始するコンコルドを追って武とダンスも動き始める。ここからスピードに乗って直線で勝負を仕掛けたい。
ところがここで進路を塞がれてしまった。スタミナ切れでバテたダイワセキトが後ろに垂れてきたのだ。外に舵を切ろうにも、馬群が残り持ち出すことが出来ない。スローペースの展開によって馬がばらけていなかった。
対するフサイチコンコルドは好位で4コーナーを回り、あとは鞭を入れるだけといった態勢。劣勢は誰の目にも見て明らかだった。
4コーナーで10番手前後という絶望的な位置取り、京都競馬場を包んでいた大きな歓声に、次第に悲鳴と諦観の溜め息が混じり始めていた。
先頭集団が直線に入る、ハナに立っていたローゼンカバリーに代わりサクラケイザンオーが早々と先頭に立った。
ここに内からフサイチコンコルドが並びかけていく、残り200mコンコルドがケイザンオーを競り落とすと外からロイヤルタッチが上がってきた。
残り100m、レースはこの2頭の叩き合いに変わった。

4コーナーを迎えた時、ダンスインザダークの位置取りは、誰がどう見ても厳しい状況だと言わざるを得なかった。予測できなかった展開、並の騎手ならパニックに陥ったことだろう。
だがこの馬の鞍上は、並大抵の騎手ではなかった。
菊花賞を迎えるにあたり、武は悔しくも敗れたダービーのことを何度も思い出していた。ダンスインザダークは「武豊をダービーに勝たせるための馬」そのために生まれてきたと言われていた。武自身もこの馬に対する思い入れは相当に強く、この仔となら念願のダービージョッキーの称号を戴冠できるはずと意気込んでいた。そして、それがあの結果だった。
俺は思い上がっていたのかもしれない。武豊は競馬界の顔だと、武豊なら日本ダービーを勝てるはずだと、称賛され脚光を浴び続ける日々の中、いつしか憧れへの執念が必要以上に燃え上がっていた。
勝利への飽くなき欲求は、騎手にとって必須のメンタリティ、だがそれだけでは駄目だった。
俺は「武豊」なんだぞ、自分自身のためだけに走ってどうする。日々支えてくれる者達のために、声援を送ってくれるファンのために、そして己が騎乗する一頭一頭のため、勝利を義務付けられているのだ。
ダンスインザダークにはダービーだろうとクラシックだろうと、そんなものは関係がない。この仔のために、今目の前にある勝利を掴みに行かなければならない。それが自分に課せられた使命であり、それはこれからも決して変わることはないだろう。

「いつの間にかそこにいた」という表現が正しいだろうか。4コーナーで最内を突き、その後絶妙なコントロールで上手く外に持ち出したダンスは、残り200mから追撃態勢を整えていた。武の思いに馬が応える。誰もが自分の目を疑ってしまうような、もの凄いスピードだった。菊花賞は京都芝3000mが舞台、この時のダンスは一頭だけ違う距離を走って来たかのような、そんな切れ味を残していた。
その名に冠した名前の通り、まるで踊っているかのように残り50mで2頭を交わした。
完遂された復讐劇にして、鮮烈過ぎる逆転劇。
上がり3ハロン33秒8、ダンスインザダークは最後の一冠へと到達したのだった。

劇的な勝利から一転、歓喜の渦はすぐさま暗転してしまう。
激走の代償は大きく、レース翌日ダンスインザダークの脚に異常が発覚し、その4日後には屈腱炎と診断された。競走馬としてはあまりにも致命的すぎる重症で、その日のうちにダンスインザダークの引退が表明された。
フサイチコンコルド、バブルガムフェローらと共に、これからの重賞戦線を担っていくだろうと期待されていたその脚に、無慈悲にも突き付けられた悲劇的な運命。もし競走生活を続けられたら、と思わずにはいられない。
だがダービーに敗れ、雪辱を誓い挑んだ菊花賞。あの菊の舞台で見せた「奇跡の末脚」はどれだけ時を隔てようと、忘れられることはない。
数々の名勝負を彩ってきたクラシック最終戦、あれほどまでに劇的な勝利を目撃できることなど、そうはないだろう。

ダンスインザダークは引退後、種牡馬としても活躍した。2004年の種牡馬リーディングでは2位の座に輝いた。産駒からはGⅠも輩出された。ツルマルボーイ、ザッツザプレンティ、デルタブルース。残した産駒数は1600にも上る。
ザッツザプレンティとデルタブルースは父と同じ菊の舞台を制し、その血統が本物であることを証明した。
そしてダンスインザダークは2017年種牡馬を引退、20年に老衰によってこの世を去った。

管理調教師の橋口はその後もコンスタントに重賞制覇を遂げていき、Cルメールの初GⅠ勝利となったハーツクライの有馬記念、ローズキングダムによるジャパンカップ制覇、そして2013年にワンアンドオンリーで悲願の日本ダービー制覇を成し遂げた。
2016年に定年により調教師を引退、重賞勝利数96勝内GⅠ勝利10勝を挙げた。

ダンスインザダークの鞍上・武豊は2024年現在も、日本競馬界の第一人者として最前線で活躍を続けている。通算勝利数4500勝を数えてもなお、次の1勝を目指し、今日も馬の背に跨る…。


97年春、栗東トレセン。武豊は一人の男に呼び出されていた。
「見てもらいたい馬がいる」との知らせを受けていた。
厩舎を訪れると男はいつもながらの大きな声で武を出迎えた。
「おお、よく来てくれた。こっちだ」
男の名は白井寿昭、栗東所属の調教師である。
武と白井は以前に、ダンスパートナーでオークスを制した旧知の仲だった。
「忙しいとこ悪いな」
「この仔ですか?」
白井の横に一頭の黒鹿毛が佇んでいた。
「ああ、この仔はサンデーサイレンスの産駒でね。面白そうな馬だと思ってるんだ」
白井が「面白そうな馬」といった仔は、大抵の場合成功するケースが多かった。武の期待は高まった。
早速騎乗してみる。サンデーの仔にしては大人しいな、というのが第一印象だった。
「この仔、なんていう名前なんですか?」
「こいつの名前か?こいつは…」
途端に馬が走り出した。少し慌てたが問題ない、手綱を握る。後ろで白井が何か言っていたが聞き取れなかった。
ぐんとスピードが上がった。サンデーサイレンスの産駒か、ふと去年まで乗っていたあの馬のことを思い出した。
自分の騎乗は次の一勝のため、あのレース以来その思いは変わっていない。
馬が駆けていく。元気な仔やな。白井の言う通り確かに「面白い馬」だ。この馬に乗っていると不思議と何か楽しいことが起きそうな、そんな気持ちが湧いてくる。

「お前、名前なんて言うんだっけ?」

春の栗東の空気を切り裂いて、馬は走っていく。

思い切り息を吸い込んだ。

男の胸の中に、何かが始まりそうな

そんな予感が到来していた…。


「GⅠ菊花賞、まもなく出走です」


8戦5勝。栄光への道筋は菊花賞で立たれてしまったが。
ダンスインザダークの末脚、それは間違いなく本物だった。
20年社台スタリオンステーションにて老衰のため死去。R.I.P

~はじめに~菊花賞展望

皆様お疲れ様でございます。毎週言っていますが、本当に一週間早いものです。もうnoteを投稿せねばならないとは…。
なかなかなハードスケジュールに少し疲れ気味のタイツです。

とはいえ最近とみに多くの読者様がフォロー&イイネをくださるので、それを励みに頑張れてしまうのもまた事実。本当にありがたく思っています。

今回は自分のようなアマチュアのライターには荷が重すぎる(?)武豊騎手と菊花賞馬ダンサーインザダークのお話を描いてみました。
いかがでしたでしょうか?今なお最前線を駆け抜けるレジェンド武豊騎手。
数多くの名馬たちとコンビを組んできましたが、菊花賞を制したダンスインザダークとのコンビもまた美しき関係だったと思います。
これからも活躍を願ってやまない、日本競馬界の「顔」と呼べる存在です。長文ご一読いただきました方、誠にありがとうございました。

さてさてという訳で、ここからは本格的な2024年度版菊花賞の予想をお届け、最後まで何卒お付き合いの程お願いします。


「最も強い馬が勝つ」京都芝3000

いわゆる「淀の坂」を2回こなさなければならない
難攻不落の京都3000mだ

菊の舞台京都芝3000mは、3コーナー手前からスタートしトラックを約1周半します。スタート直後にコーナーが待ち構えるため、基本ロスの少ない内枠が優勢となります。この坂とコーナーを2回こなさないとならないため、十二分なスタミナを要求される、非常にタフなコースです。3歳馬の長距離戦ということで、スローペースになることが多く、最後の直線でキレを残す馬が台頭するケースが多いです。

昨年のレースを振り返る

夏の上り馬ドゥレッツァが見事勝利
ルメール騎手の辣腕光る好騎乗

昨年の3冠目の戴冠を果たしたのはドゥレッツァ。未勝利戦から3勝クラスまで4連勝をした上り馬でした。ハナを奪った後に3番手に控え、直線で抜け出し3馬身半差の圧勝。鞍上ルメール騎手の手腕が光った神騎乗だったと思います。
前半5Fが60.4秒、勝ったドゥレッツァは上りメンバー最速の34.6秒のタイムを叩き出し、重賞初挑戦でクラシックGⅠ勝利となりました。
2着は2番人気タスティエーラ、機転を利かした立ち回り、中団から伸びをみせましたが惜しくも届かず。3着は皐月賞馬ソールオリエンス。最後方からの追込みで駆け上がりましたが、展開が向きませんでしたね。

菊にまつわるTopic5

ここからは恒例の過去10年データ"過去十"に基づいた気になるトピックを5点挙げていきます。勝利への布石となること間違いなし。

📝基本は上位人気が勝つけど?

過去十の勝ち馬10頭のうち9頭が5番人気以内、21年のフィエールマンのみ7人気からの勝利でした。11番人気以下になると戦績は【0-0-1-78】と全く奮いません。
一方で1番人気の成績は【3-0-3-4】で3連対、過去3年連対していません。過去十の連対馬15頭が5番人気以内で、残る5頭はそれぞれ7、7、8、9、10番人気でした。上位人気の馬が勝つと思いますが、1-2人気で決まったことはありません。人気馬を軸に、小穴・中穴を交えた幅広い馬券戦略が効果的だと思います。

📝前走重賞で敗けた馬に注目

7番人気以下から連対した上記5頭のうち4頭に、重賞3着以内に入った実績がありました。またこの5頭のうち4頭が前走重賞で2、3着に敗れていました。一昨年のボルドクフーシュのように、距離替わりで急遽好走を見せるケースが散見されます。中穴人気を選ぶ場合は、この2点を重視すれば回収率アップに繋がるはずです(多分)。

📝決めて重視の菊花賞、差し追い込みに注目

逃げ馬の戦績は過去十【2-0-0-8】で2連対のみ。昨年のドゥレッツァと21年タイトルホルダーですね。一度もハナを譲らなかった馬はタイトルホルダーのみ、本当に強かったと思います。差し・追込みから連対した馬は16頭いて、その内上り2位以内を記録した馬は14頭。長い距離を走ってなお、末脚の切れ味を要求されるレースです。近走で早い上がりを連発している馬を軸に据えましょう。

📝神戸新聞杯の着順に注目

神戸新聞杯を勝った馬の成績は【2-0-3-3】でまずまずの安定感。同レース2着馬は【1-3-1-5】で3着馬は【2-1-0-6】で、意外と好走しています。距離の短い神戸新聞杯ではステイヤーは勝利できません。距離延長で真価を発揮そうな長距離タイプの馬を見つけ出すことが勝利への近道だと思います。今回神戸新聞杯組で上位だった馬は1着・メイショウタバル、3着・ショウナンラプンタが出走します。馬券妙味を考えると長距離適性のより高い、ショウナンラプンタは面白そうな一頭であると言えます。

📝馬体重別成績

過去10年459㌔以下で勝利した馬は3冠達成のコントレイルのみ。
ホットゾーンは460~499㌔に集中しますが、より細分化させると460㌔~470㌔で連対した7頭のうち6頭が2~4人気内でした。480~490㌔の馬は3番人気以内で4勝。注意点は500㌔以上の馬は過去十で2連対のみ、長距離戦では馬格が必ずしも有利に働く訳ではありません。今回は人気馬に大型馬が多いようですが、過度な信頼は危険を招くと思います。

時間のない方へまとめ画像


森タイツ式推奨馬のご案内

今回も推奨馬の紹介をば…。時間の関係もありますのでいつもより少しあっさり目になりますが、要点は抑えたつもりです。
ぜひぜひご参考くださいませ。

勢いを武器にGⅠ初制覇へ

前走セントライト記念で重賞初制覇、今最も勢いに乗る3歳馬、アーバンシックです。皐月賞4着、日本ダービーは11着大敗と不振が続いていましたが、鞍上ルメール騎手を背に前走で覚醒した感ありです。1、2人気を分けるダノンデサイル同様に美浦所属の関東馬ですが、関東馬が菊の舞台でも活躍できることは先述した通り。そこは心配しなくても問題なしです。前走で初騎乗したルメール騎手とはかなり手が合っているようなので、今回継続騎乗ということで非常に楽しみです。鞍上の京都で開催した8年の菊花賞での戦績は【3-1-1-2】で、昨年もドゥレッツァの神騎乗で勝利しており、否が応でも期待は高まります。JRAでトップを走り続けるルメールですが、彼の最も他者より秀でている部分が「馬と折り合いをつける」能力です。レースにおける勝負勘というよりも、自分の思惑通りに馬をコントロールする騎乗技術、これは間違いなく現役最高だと思います。デビュー当時から掛かり気味になるなど、気性に問題を抱えていたアーバンシックにようなタイプとは相性抜群でしょう。

と、ここで懸念材料を一つ。
アーバンシックはスワーヴリチャード産駒です。当note何度も解説しましたが、昨年新種牡馬リーディング1位の実績です。本馬は21年の皐月賞馬エフフォーリアと同じ、サンデーサイレンス3×4「奇跡の血量」の持ち主。クラシックを制する血統としての資質は、出走馬中、最上位であるといえます。
しかしながらスワーヴ産駒の戦績は、関東より北のエリアで勝ち鞍が集中しており、関西圏では奮わないというデータが浮上しています
何故かはわかりませんが、データ上は本当にそうです。
スワーヴリチャード産駒は昨年から延べ466戦して48勝を挙げていますが、京都より西の競馬場で勝ったのは7勝のみ。今年に入ってからは京都で2勝、ナムラフッカーとスウィープフィートだけで、その傾向は顕著です。
今回アーバンシックは初の関西圏への遠征となります。管理の武井厩舎も輸送について細心の注意を払うとは思いますが、データ上のマイナス要素であることだけは覚えておいて損はないと思います。おそらくこの傾向は今後も続くでしょう。

とはいえ、実力だけでいえばこの馬が上位に位置することは明々白々。特に末脚の切れ味は3歳馬でありながら一級品です。前走セントライト記念も、高速仕様になった馬場を味方につけて上がり3F最速34.0秒をマークしています。
前走同様心配なのがゲートで、6戦して5回、83%の確率で出遅れています。3コーナー前からスタートする菊花賞は序盤の位置取りが命運を分けることもしばしば、枠順も大切ですが同じくらいゲートも重要です。今回はしっかりと発馬を決めてもらいたいですね。
セントライト記念は盤石の競馬で勝利、ここも勝って最高の形でクラシック最終戦を終えれるかどうか?その走りに注目です。

狙うはクラシック2冠の栄光

2024年ダービー馬。今年のダービーでは枠・展開に利があったとはいえ、その実力にはやはり疑いの余地なしです。その前走皐月賞は直前で取り消しの憂き目に遭いましたが、同条件で行われたGⅢ京成杯も勝利していることは改めて明記しておきたいです。このレースでは今回人気を集めるアーバンシックに勝っています。夏を経て各馬もちろん成長していますし、力関係も変わってくるのが3歳馬の常ですが、この馬が優位を保っていることは間違いないと思います。特に距離適性の面におけるアドバンテージは大きいでしょう。
父エピファネイアは近年デアリングタクト、エフフォーリアを輩出し、クラシック向けの血統のなのは間違いありません。今年の春はエピファネイア産駒が本馬を含めGⅠを4勝しています。また同産駒の活躍馬の多くがサンデーサイレンスの4×3のクロスですが、ダノンデサイルはそのクロスを持たない異端の血統と言えます。

今年のクラシックは昨年よりもレベルが高いと思います。菊のトライアル2戦はダービーに出走した馬が上位に来ており、ダービーを制したダノンデサイルの能力が最上位であることは歴然と言えます。鞍上のベテラン横山典弘騎手も今年は重賞戦線で随所に勝負強さを発揮しており、デビュー当時から乗っているデサイルのことは完全に集中に収めていることでしょう。ノリさんで菊花賞、というとかつてのセイウンスカイを思い出しますね…。あの頃から変わりない、いや齢を重ね益々旺盛になっているベテランの一撃に期待です。

淀の坂を駆け下りろ

年明け頃までは1勝クラスを戦っていた馬ですが、3月の弥生賞に出走すると6人気から爽快な捲り走法で勝利を掻っ攫っていきました。その弥生賞ではシンエンペラーら難敵を抑え、レースレコードを記録しています。
日本ダービー6着を経て前走セントライト記念では1人気の支持されました。出遅れ気味のスタートから直線でも前を行くアーバンシックに届かず2着に敗れましたが、ポテンシャルの高さは改めて見せてくれたと思います。

コスモキュランダは2000mの中距離GⅠを2勝したアルアインの初年度産駒です。父によく似ていて、中山2000mで捲りを決めれるような、機動力に飛んだ中距離馬といった趣きがあります。母サザンスピードの牝系は豪重賞の芝2400m・GⅠを制したこともあり、中長距離への適正もそれなりにはあると思います。

弥生賞1着、ダービー6着、セントライト2着と、順当に考えればその能力は世代上位と言えるでしょう。特に持久力に関しては世代でも随一ではないかと思います。京都コースは初となりますが、中山で捲りを決めたように、淀の坂を下って加速してからの直線勝負となれば、本馬には相性がよさそうな気がします。懸念材料はやはりスタートの悪さ、菊花賞は初動のポジション取りが重要になる一戦。出遅れて後手に回るようだと、苦戦は必至です。鞍上Mデムーロ騎手も近年はGⅠ勝利から遠ざかっていますが、かつては菊の舞台を制したことのある敏腕。その腕は錆び付いてはいないはず。
人馬悲願のGⅠ制覇へ向けて期待しましょう。

おわりに~その他の菊候補を添えて~

ここまでお読みいただき誠にありがとうございました。今回は特に時間がなく、いつも以上にどうにかこうにかっといった感じでまとめました。
先週も言いましたけどね、一週間早すぎます。
という訳で、推奨馬の解説に関してはイラストも追いつかず3頭まで。といつもより小ボリュームになってしまいました。ここからはその他の推奨馬について、いつものように解説していますので、予想の"足し"にでもしていただけたらと思います。金曜は仕事で、土曜は久々に府中へ足を運ぶ予定にしています。もしかしたら指数表の方が追い付かないかもしれませんので、ここを読んだ方だけでも承知していただけたらなと思います。
まあ大して期待されているもんでもないし、問題ないでしょう(;^ω^)

来週も仕事がちょい忙しめなので、どこまで書き上げれるか心配ではありますが天皇賞秋のnoteをやりたいと思っています。どうぞお楽しみにお待ちください。
では、また…。

📝ヘデントール

🏇鞍上:戸崎圭太
東京新潟の条件戦を制して参戦。日本海Sからの臨戦は昨年のドゥレッツァと同じですね。5月のダービー前哨戦、青葉賞では8着に敗れましたが鞍上のオシェア騎手は日本競馬といまいち合っていなかった様子。それ以外で騎乗したルメール騎手とは未だ連対を外していません。
今回戸崎騎手に乗り替りで、鞍上強化とまではいきませんが申し分のない人選だとは思います。
ルーラーシップ産駒のヘデントールですが、父の産駒には菊花賞馬キセキがいます。母コルバートは重賞勝ちはなかったですが、同じ木村厩舎管理でJRA5勝の実績。エリザベス女王杯にも出走していました。
ヘデントールは敗けた青葉賞を含めた過去6戦全てで、上り3位以内の末脚を披露しています。また全て2000m以上のレースで使われており、菊の長距離戦へ向けた上積みも十分にあると思います。
先日の秋華賞では人気のステレンボッシュに乗って3着と、なかなか競馬ファンを納得させることの出来ない戸崎騎手ですが、翌日の府中牝馬では人気薄のシンティレーションを2着に持ってきました。
ヘデントールは想定5番人気前後、穴をあけるにはぴったりのシチュエーションだと思います。
期待をかけてみる価値は十分にありそうです。

📝メイショウタバル

🏇鞍上:浜中俊
春の毎日杯を圧勝。皐月賞では暴走気味の逃げで大敗、大きく期待を裏切りました。その後のダービーではトラブルにより直前で出走取消。強いのか弱いのかよくわからないまま迎えた秋競馬初戦、神戸新聞杯では後続にその影すら踏ませない走りで見事逃切り勝ちを決めました。ここまでで重賞2勝、特に時計のかかる馬場での一戦となれば世代屈指と言えます。
ゴールドシップ産駒ということで気難しそうなイメージはありますが、父は菊花賞含むGⅠ5勝の誰もが知る名馬。産駒でクラシックを勝った馬だとオークス勝ちのユーバーレーベンがいます。
4月の皐月賞を振り返ると、1000m通過57.5秒のハイペース逃げで自滅。良馬場だと抑えが効かず直線で失速してしまいます。現に勝った重賞2走は重・稍重の馬場でした。今週末の京都は雨降りの予報は出ていないので、この馬にとって真価を問われる一戦となりそうです。
鞍上は「逃げない」と発言していますが果たして…。
ただ単純なスピードだけで言えばメンバーの中でも最上位ですし、ゴールドシップ産駒として父子菊花賞制覇をかけた一戦となりますので、楽しみな一頭ではあります。

📝ショウナンラプンタ

🏇鞍上:鮫島克駿
前走京都新聞杯3着、いまだ重賞勝ちはないですが青葉賞2着と惜しいレースも演じてきています。ダービーは15着と大敗を喫しましたが、それ以外のレースでは毎回のように終いに良い脚を使い、追い込みをかけてきています。鞍上の鮫島騎手は乗り慣れており、馬のことをよく理解していると思いますので、上手いこと末脚勝負の展開に持ち込めれば浮上もあるかもしれません。菊花賞は内枠の方が有利ですが、飛びの大きな馬なので、インコースに拘らず、中~外を悠々走った方がこの馬の利する状況になりそうな気がします。父キズナの血統は見込みありです。何度も行ってきましたが今年はキズナ産駒の戦績が目覚ましく、ましてや京都ということであれば血統評価については全く問題ないでしょう。

📝アドマイヤテラ

🏇鞍上:武豊
中京の2勝クラス 茶臼山高原特別を勝ち上がっての参戦。鞍上はレジェンド武豊騎手に乗り替りです。全体的な走力も標準以上で、鋭い末脚も使えますが、出足が鈍いのが難点でしょう。今回外枠を引いてしまったので、スタートを上手く決めないことには上位進出は難しいと思います。
父レイデオロはダービーや秋天を制した名馬でしたが、昨年から出走し始めた産駒には未だ目立った活躍馬が現れていません。ここを勝てば産駒の重賞初勝利となります。

📝ピースワンデュック

🏇鞍上:柴田善臣
デビューから4戦。新馬戦を2着で終え、その後未勝利戦から3連勝で菊の舞台に挑みます。鞍上の柴田善臣騎手は約3年ぶりのGⅠ騎乗。ここを勝てば、JRA史上最年長記録を更新するのはもちろん、自身にとっては10年4か月ぶりのGⅠ勝利となるので頑張ってもらいたいところです。
ピースワンデュックはグレーターロンドン産駒です。直線の長いコースでは無類の強さを発揮します。今回京都は初コースとなりますが、適性はそれなりにあると思います。
ピースワンデュックは過去4戦全て2000m以上を走り、その内3度の上がり最速を記録しています。東京2400mのレースも上がり2位を記録しており、中長距離からの末脚勝負はGⅠの舞台でも通用しそうな気もします。また勝った3戦全てが後継ラップのレースということで、その点においても菊の舞台への適性を感じられます。恐らく単勝オッズ20倍台を切ることはないと思いますが、40年目のクラシックGⅠ初制覇へ向けた、激走に期待したいです。

今回参照させていただいたサイト


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