GⅠ桜花賞
序文:葉桜の季節に君を想うということ
春4月、桜の季節である。
この記事を書きはじめたその前日、例年より少し遅い桜の開花宣言の報が届いた。
今年も花見の予定などは一切ないが、なんとなく心が軽やかになる。そんな季節である。
桜という花の名前の由来には諸説があり、「咲き群がる」という言葉が変化したなど、様々だ。
数ある説の一つに日本神話「木花之佐久夜毘売(コノハヤサクヤヒメ)」がルーツになっているものがある。
神話に登場する女神の中で最も美しいとされた「サクヤヒメ」が転じて「さくら」に変わった、という説である。
神話では主神であるアマテラスの命を受けて、地上へと降臨していたニニギノミコトが、絶世の美女サクヤヒメに一目惚れをする。サクヤの父、オオヤマツミはそれを喜び、姉のイワナガヒメと共に嫁がせようとしたが、ニニギノミコトは醜いイワナガヒメを送り返し、美しいサクヤヒメとだけ結婚した。
そのことに憤慨したオオヤマツミはこう言った。
「イワナガヒメを妻にすればニニギノミコトの命は岩のように永遠のものになるはずだったが、サクヤヒメのみ妻にしたため、木の花が咲き誇るように繁栄はするが、その命は儚いものに終わる」
これにより永遠の命を約束されていたはずのニニギノミコトとその血脈は、一代限りの栄華で終わってしまった。
その後サクヤヒメは3人の子を産んだ。その内のひとりホノオリノミコトの孫が、初代天皇の神武天皇である。…こうして私たち人間には寿命が与えられた。
「永遠のものなどない。生あるものはいつか死す」
生命の儚さと尊さを今に残す、神の代から伝わる寓話である。
さて、桜の季節の桜花賞。かつてこのクラシックを制し、桜のように咲き誇り短く散っていった美しき牝馬がいた。
アグネスフローラ
1990年桜花賞制覇。
JRA賞最優秀4歳牝馬を獲得した名牝である。
2000年代まで活躍の多かった”アグネス”という冠名は、実業家だった故・渡辺孝男オーナーの所有馬に名付けられていた。アグネスフローラは87年北海道の折手牧場にて、アグネスレディーの6番仔として生まれた。母、アグネスレディーは79年のオークスを制した名牝である。フローラの父は米国産馬のロイヤルスキー、米マイルGⅠを制した実績があり、種牡馬になってからも多くのマイラーを輩出していた。
アグネスフローラは、母が叶えることができなかった桜花賞制覇を託され、この世に生を受けたのだった。
89年フローラは栗東・長浜博之厩舎に入厩、母アグネスレディーを管理していた長浜彦三郎の嫡男の厩舎だった。担当厩務員は母と同じ大川鉄雄、そして主戦騎手にはやはり、母・レディーと同じ河内洋が指名された。
河内洋といえば03年の引退までにJRA通算2140勝を挙げた名手であるが、その現役時代は、アグネス母子だけでなく史上初の3冠牝馬メジロラモーヌや、後年のニシノフワラー、ダイイチルビーなど数々の牝馬で重賞を制し、「牝馬の河内」の通り名で知られていた。
そんな河内と陣営は89年12月の新馬戦、この上ない自信をもってフローラを送り出してきた。河内は周囲の者へ「9馬身差引き離して勝つ」と公言していたほどであった。期待に応えたフローラは、後続を10馬身以上引き離す圧勝でデビューを飾った。
明け4歳、1月の若菜賞で始動するとあっさり逃げ切り勝ち、3戦目エルフィンSは不良馬場の中行われたが3番手追走から差し切り、4戦目は前哨戦のチューリップ賞(当時はOP)、ここも逃げたケリーバックをゴール前で捉えると楽に差し切り、無傷の4連勝を挙げた。
4月、桜花賞では断トツの1番人気短枠指定、レースは先行争いが激化し、重馬場ながら800m通過が45秒9というハイペースに。河内とフローラは中団8番手前後に控える形となった。最終コーナーの手前に差し掛かると先行勢が失速、すると前の馬に乗り上げたスイートミトゥーナと、レガシーワイス2頭の騎手が落馬、フローラを含む数頭が煽りを受けて馬場の外側へ振られた。この好機を逃さずケリーバッグが直線で先頭に立ったが、態勢を立て直して大外から追い込んだフローラが残り200m付近でこれを捕らえる。結果、1馬身差以上つけての完勝。母の雪辱を果たすと共に、史上5組目の親子によるクラシック制覇を果たした。
この勝利によって、渡辺孝男はアグネステスコのエリザベス女王杯、アグネスレディーのオークスと合わせ、馬主として「牝馬三冠」を達成。また、鞍上河内は桜花賞3勝目で、これは当時の最多勝を記録した。
余談だが、5戦5勝による桜花賞制覇はこの先も長らく現れることはなく、数々の名牝も最初は土をつけられた。ようやく2020年、デアリングタクトの無敗3冠達成によってはじめてその歴史が塗り替えられた。
フローラは母仔制覇を目指しオークスへ向かった。父の血統から2400mの距離に対する不安視があったが、当日は1番人気。レースはトーワルビーが大逃げを見せ、桜花賞に続くハイペースとなった。ここでもフローラは中団に控え、最終コーナーから直線にかけて先団に進出、最後の直線では桜花賞と同じくケリーバッグを捕らえて先頭に立った。しかし、後方待機策を採っていたエイシンサニーに残り100mの地点で交わされ2着に敗れた…。
母の悲願を果たすべく、マイラーとして生まれ育てられてきた彼女にとって、皮肉なことにオークスの2400mが枷となってしまったのである。また激走の代償としてレース後に骨折が発覚、ここから長期休養へ入ることになった。
次走エリザベス女王杯を目指すべく調整されていたが、更なる不運に見舞われる。屈腱炎を発症してしまったのだ。
結局復帰は叶わず、競走生活に引退を告げることに。名牝の血を受け継ぎ、新たな時代を切り開くことを約束されていた牝馬は、惜しまれつつターフを去っていった…。
彼女の物語はまだ終わらなかった。
悲劇の引退後、フローラは繁殖入りし8頭の産駒を残した。
その4番目の仔は、競馬会に新たな新風を運んできた。
アグネスフライトは2000年日本ダービーを制覇。母仔3代にわたるクラシック制覇という快挙を達成した。
鞍上河内洋は、27年目にして初のダービー制覇。エアシャカールに騎乗していた弟弟子・武豊との壮絶な叩き合いは、今や伝説として昇華されている。
そしてもう一頭、第5仔は兄フライト以上の衝撃を競馬界に与えた。
”超光速の粒子”・アグネスタキオン
デビューから4戦4勝。
圧倒的な走りでクラシック1冠、皐月賞を制した。
調教師長浜はデビュー前に河内へ伝えていた。
「今度の弟は、兄貴よりも凄いぞ。」
デビュー戦の下馬評こそ3番人気と過小評価されていたが、クロフネ、ジャングルポケット、マンハッタンカフェ、後のGⅠ馬たちを次々と撃破。
兄弟による初のダービー制覇も、もはや現実のものと思われていた。
だがここで、母の血統を苦しめたあの悪夢がタキオンにも訪れてしまう。
ダービー直前で屈腱炎を発症。復帰できないまま、現役を断念することなってしまった。ダービー馬ジャングルポケット、菊花賞馬マンハッタンカフェ、両馬共に一度は下した相手であることから、タキオンは「幻の3冠馬」といわれたが、彼の活躍もまた繁殖入りしてから続いた。
数々の産駒を輩出し、なかでもディープスカイとダイワスカーレットは、牡牝それぞれでクラシックを勝利、4世代にわたるクラシックGⅠ制覇という偉業を成し遂げたのだ。
アグネスフローラは05年に両前脚の蹄葉炎のため18歳で死去、後年の08年にアグネスタキオンが内国産種牡馬として史上3頭目のリーディングサイアーを獲得、そのタキオンも翌09年に急性心不全に見舞われ、11歳にて没した。
馬の生涯は短い。こと競走馬においては特にそうだ。それはまるで桜の花のよう、といってみてもいいだろう。雌伏の星霜を乗り越え、咲き誇った次の瞬間には散り始める。力強く駆け行くその姿には、雄々しさと共に常に儚さが介在しているような、競走馬とはそんな存在である。
冒頭の神話、コノハナサクヤヒメは桜の花のように美しい短命の女神だったが、その名前にはこんな意味もある。
『此花の栄えるように、生まれる子供たちも栄えるように』
たとえ花が散ったとしても、全てが終わるわけではない。
やがて葉桜の季節を迎え、緑に生い茂った木々からは新たな種子が生まれる。種は新たな命を芽吹き、幹となりいずれまた満開の季節を迎えるだろう。
今年もクラシックが始まる。花開く季節を迎えた若駒たちの走る姿は、きっと私たちの胸に新たな感動を与えてくれるはずだ。だがその勝敗だけでなく、彼らのその行く末まで温かく見守っていきたいと思う。
いつかその葉桜から生まれた希望が、新たな命を芽吹かせるその日まで。
これは限りある命を作った心憎い創造主に対する
私たちからの挑戦状である。
「第84回桜花賞、まもなく出走です。」
はじめに~桜花賞展望~
お疲れ様です。春のGⅠも3戦目に突入、高松宮記念的中、大阪杯惨敗となったので、今週は当てて勝ち越したいところです。
今回の冒頭文のタイトルは、私が大好きな推理小説、歌野晶午先生の『葉桜の季節に君を思うということ』から引用させてもらいました。引用というかまるパクリだな笑、まあタイトルだけだし問題ないでしょうw
そして今回もお読みいただいた方には感謝申し上げます。
ここからは桜花賞の本格予想として勝利への必須条件、好走データ、そして推奨馬をいつものように解説させていただきます。
ジュベナイルとチューリップ、二つの共通点
昨年の桜花賞は阪神JFの勝ち馬、リバティアイランドが勝利。勢いそのままに、史上7頭目の3冠牝馬に輝きました。JFからの好走例は、近年では3年前のソダシとサトノレイナスが連対を果たしていますが、過去10年で見ると思ったより好走例が少なく、14年に2着に入ったレッドリヴィエールがいたくらいです。
間隔の空くJF直行組は不利に思われていましたが、近年は外厩調整など調教技術の進歩により、素質馬は直行で勝ち負けできるレースになりました。
大手の厩舎・クラブの馬なら有利なのはなおさらで、関東馬であってもアスコリピチェーノ、ステレンボッシュは有力と考えてよさそうです。そもそも昨年のJFで先着した上位3頭は、全て美浦所属の関東馬でした。これはレース史上初の出来事だったと思いますが、先週の大阪杯で連対したローシャムパークしかり、しっかりと外厩調整を重ねてきた馬であれば、所属先はさほど気にしなくてもいいのかもしれません。
またトライアル組の中で好走例の最も多い、チューリップ賞組にも注目したいです。過去10年、馬券内に入った30頭の内17頭が前走チューリップ賞、このうち勝ったのは1頭のみですが複勝候補としてはぴったりのローテでしょう。注意点としてはチューリップ勝ち馬よりも、2着以下に負けていた馬の方が好走が多いという点。今回は武豊騎乗のスウィープフィートがある程度人気を集めると思いますが、むしろ2着セキトバイースト、3着ハワイアンティアレが、穴狙いの方にとっては面白いかもしれません。4着に敗れたタガノエルピーダも出走すれば狙ってみたい一頭です。
ただ今年のチューリップ賞組は若干メンバー落ちしていた感があったので、やはりJFをはじめとした昨年末からの直行組を有力視したいと思います。
とかく阪神1600mを経験した馬は、有利に立ち回れると思いますので、
このことだけを覚えておいても損はないと思います。
名牝への第一関門、その突破条件とは?
ここからは、データに基づく勝利への必須5箇条を例のごとく挙げていきたいと思います。
🌸ノーザンF生産馬か社台F生産馬である
過去10年で7頭が該当、なんといってもクラシックはこの2強です。人気馬だけに限らず、17年レーヌミノル8人気、22年スターズオンアース7人気と、人気薄も勝たせています。ポテンシャルの高い馬を多く生産している訳です。
森タイツ式では毎回必ず生産牧場をチェックしていますが、そこには確かな傾向とトレンドが存在しているからです。
🌸1馬身差以上つけての勝利経験
過去10年全頭に該当、1馬身差=0.2~0.3秒差といわれますが、桜花賞は皆経験が浅く、そのポテンシャルで勝敗を決するレースです。指標として圧勝したレースがあったかどうか、素質馬の選定基準となります。
🌸上がり最速での勝利経験、
もしくは前走上がり3Fが34秒以内
過去10年全頭に該当、直線の長い阪神外回りでは早い上がりを使えることが必須。今回の勝利条件としてはかなり重要だと思っています。基準となるのは1600m戦、重賞での上りタイムです。
🌸馬体重が460㌔以上である
過去10年で全頭に該当、3歳春の牝馬は馬体が出来上がっていない馬が多いです。そんな中元々馬格に恵まれた馬は有利といえるでしょう。傾向としては460~490㌔の馬が9勝を挙げており、大きければいいという訳ではない、という点には注意しましょう。当日の馬体重増減にも要注意です。
🌸鞍上が継続騎乗である
過去10年7頭に該当、これは主にトップ騎手に言えることですが、依頼の多い騎手は新馬戦の頃から多くの素質馬に乗ります。その中で選んだ、ということはその素質を高く買っている証明になります。また過去10年で9人栗東所属の関西騎手が勝っており、ソダシで勝った美浦の吉田隼人騎手も当時は栗東で修行中の身でした。アスコリピチェーノ騎乗、北村宏司騎手はジンクスを覆せるでしょうか…?
毎回恒例過去10年好走データ集
ここからは、好走データをより一層深く掘り下げて検証していきたいと思います。さっそくレッツゴー。
1番人気の実績
【2-3-1-4】で5連対を記録。過去10年で連対した20頭の内、15頭が5番人気以内でした。残る5頭は6~8番人気、また3番人気内で連対決着したことが5回ありました。基本堅めのレースですが、荒れる時は荒れます。
チューリップ賞勝ち馬
チューリップ賞勝ち馬は【1-2-1-7】で3連対でしたが、全て当日2人気以内でした。今年はスウィープフィートですが想定4、5番人気。危険性は高いと言わざるを得ないでしょう。
前走3着以内が前提
連対馬18頭が前走3着以内でした。前走重賞で好走した馬が中心になるのは当然といえば当然。ちなみに前走4着以下から連対した2頭はともにチューリップ賞組でした。今回、賞金ボーダーで出走条件を満たすが馬が一頭、ショウナンマヌエラです。鞍上は岩田康誠騎手を予定。抽選対象の様ですが、もし出てきた場合穴党の方は狙ってみても…?超大穴です笑
穴馬は4・5枠から生まれる…?
6番人気以下から連対した5頭の内4頭が、中枠の4・5枠でした。脚質は先行か追込み。枠順発表後に該当馬がいた場合は、馬券内に組み込んでもいいかもしれませんね。
特注は馬体重と前走人気から
前項でも触れましたが馬体重460㌔以上の馬には要注目です。それでいて前走1番人気だった馬は【8-3-2-11】で安定感抜群です。現在3年連続で該当馬が勝っている、まさに特注データといえるでしょう。
桜の女王の栄誉は誰に…?
推奨馬の解説
それでは今回のノートも終盤戦、ここからは推奨馬5頭の解説とさせていただきます。今回は人気馬4頭と、それだけでは面白くないので超大穴馬を1頭紹介して終わらせていただきます。
ダイワメジャー産駒の2歳女王
ここまで3戦全勝、実績一番で桜花賞に挑む2歳女王アスコリピチェーノが、満を持して出走です。
昨年阪神JFは1分32秒6のレコードタイムで優勝、歴代タイム上位5頭を並べると19年レシステンシアが1分32秒7で続き、22年リバティアイランド、20年ソダシ、06年ウオッカが1分33秒1で並んでいます。
このラインナップを見てもいかに豪華な面々か伝わると思いますが、上記4頭は全て桜花賞で連対、またレシステンシア以外の馬は、以降のGⅠで勝利及び複数回の連対を果たしています。
アスコリピチェーノの父、ダイワメジャー産駒の特徴ですが、芝1200~1600mを得意としており、ことマイル戦においては高い連対率を誇ります。産駒の中でGⅠ馬になったのは9頭おり、その内マイルGⅠ勝った馬は6頭、アスコリピチェーノとレシステンシアが桜花賞と同じ舞台である阪神JFを制しています。母の母リッスンは英マイルGⅠを制しており、いかにもマイル特化型の血統といえます。GⅠを勝った産駒は皆父に似て、先行から押し切るような競馬を得意としており、本馬も桜花賞では前目の競馬をした方がよさそうです。今後の距離延長やレースの選択はポイントなってくると思いますが、まずは得意のマイルGⅠをものにしたいはず。
以前に比べ間隔の空いた直行ローテで勝てるレースになったことは、レース展望の項目で述べましたが、この馬の前々走は昨年8月のGⅢ新潟2歳S、やはり間隔を空けていました。今回も前哨戦は使わず、4か月ぶりのレースで1発を狙ってきています。
鞍上の北村宏司騎手の実力に疑いはありませんが、関東の騎手が桜花賞を久しく勝てていないのは先に述べた通り。データ上の懸念は残りますが、昔から若駒の育成には定評のあるベテラン騎手。人馬一体となった、新たなシンデレラストーリーの幕開けに期待しましょう。
逆襲の牙をむき女王の座奪取へ
アスコリピチェーノに惜しくも敗れた阪神JFから、早くも再戦の機会が巡ってきました。ステレンボッシュです。
前走JFでは中団後方に構え、直線に入ってから一旦外に出されそうになるも、内へと舵を切り直し。3着コラソンビートに競り勝ちましたが、勝ち馬だったアスコリピチェーノには届かず、クビ差の2着に終わりました。直線の進路取りの際は各馬ゴチャついていたので、その点を考慮すれば今回の逆転は十分可能でしょう。
ステレンボッシュはエピファネイア産駒、以前ほどの勢いはありませんが、リーディング上位の種牡馬として相変わらず優良産駒を輩出しています。牝馬では三冠馬となったデアリングタクトがいまだ記憶に新しいです。阪神芝マイルは重賞に限らず、新馬戦や下級条件でも好走例が多く、安心して買えるコースだと思います。この産駒は早熟として知られていますので、古馬になってからの展望はわかりませんが、クラシックに関しては当然問題ないでしょう。曾祖母にウインドインハーヘアの名前がありますが、あのディープインパクトの母、牝系の血統も中長距離に関しては間違いないはずです。
阪神JFではアスコリピチェーノがレースレコードを叩き出しましたが、上がり3F最速を記録したのはこの馬でした。総合力では劣っていても、切れ味勝負であれば一日の長があるはず。そして鞍上は「雷神」Jモレイラ騎手。騎乗したの持ち味を最大限発揮できる騎手だけに期待も大きいです。2着に終わった雪辱をはらす絶好の機会。新女王誕生なるか、注目です。
完成に近づく女王の歩み
2月、府中のクイーンカップを勝利。この時点での馬体重500㌔超、サンデーレーシングからもう一頭、期待の大型牝馬クイーンズウォークの解説です。
デビューは昨年11月京都の新馬戦と遅咲きでしたが、2戦目の未勝利戦を完勝すると、クラシックを目指し年内始動戦をGⅢクイーンCに選んできました。レースでは、テンがあまり早くなく後方からのスタートになりましたが、直線では外からしっかりと脚を使い、上がり最速33・4秒、勝ち時計1分33秒1と優秀なタイムで勝ちを収めました。
大型馬らしく、歩幅の大きい悠然とした走りが特徴のクイーンズウォークはキズナ産駒。同じ母を持つ朝日杯を勝ったGⅠ馬、グレナディアガーズの妹にあたります。キズナ産駒は牝馬が良く走るともいわれていますが、GⅠ勝ち馬は2頭、アカイイトとソングラインがいます。2頭とも古馬になってからの活躍が目立ちますが、クイーンズウォークは2歳時から完成度の高い馬体を評価されており、クラシックを走り抜ける資質は十二分に備わっていると思われます。また今年に入ってから、キズナ産駒が重賞を5勝している点にも大いに注目したいです。今年はキズナイヤー?
鞍上はデビューからトップジョッキーの川田将雅騎手が務めています。これは本noteで繰り返し述べてきたことですが、中内田厩舎の管理馬に川田騎手が騎乗することは鉄板中の鉄板。まさに水を得た魚。
23年はこのタッグで26勝、勝率34.7%、リバティアイランドでの牝馬3冠をはじめ、先日の金鯱賞でのプログノーシスなど、目覚ましい躍進を続けています。
直前の会見では「オークス向き」と自ら発言し、樫の冠奪取を既に宣言した格好になりましたが、今回の阪神マイルGⅠの舞台でも当然能力は最上位、主役になれるだけの素質は十分です。新たな牝馬3冠伝説を目指し始まった、女王の歩みに注目しましょう。
桜花賞レジェンド、6度目戴冠へ
前走GⅡチューリップ賞を勝利、生産・ 聖心台牧場、所有・YGGホースクラブ、と現行のトレンドからは反主流ともいえる異端の一頭、スウィープフィートです。鞍上は前走よりレジェンド・武豊騎手が務めています。
デビューは昨年8月の小倉、永島まなみ騎手鞍上で芝1200m出走、3着に終わると、以降は芝のマイル路線に切り替え。4戦目の阪神JFで7着に入線すると、次走の出世レースで知られるエルフィンSを3着でフィニッシュ。前走GⅡチューリップ賞では武豊騎手に乗り替り、終始緩みのないペースで進む展開を、出遅れ気味のスタートになりながらも後方でじっくり脚を溜め、最終直線で外から一気に追込み。切れ味抜群の末脚を見せつけました。
スウィープフィートはスワーヴリチャード産駒、種牡馬として昨年に産駒がデビューすると、23年度の新種牡馬リーディングに輝きました。2歳戦開幕の3か月で11勝、勝率25.0%、複勝率56.8%と一大旋風を巻き起こしました。11月にコラソンビートが京王杯2歳Sを制して重賞初制覇、年末には牝馬のレガレイラがホープフルSを勝ってGⅠ馬が誕生と、まさに非の打ち所がない活躍でした。
またスウィープフィートの牝系を遡ると、曽祖父が冒頭コラムに登場したアグネスタキオン、祖母がGⅠ3勝の名牝スウィープトウショウと名馬の血を引いています。牝馬でありながら力強い脚捌きで、前走のようなハイペースやタフなレース展開になった際に底力を発揮しそうな、そんな雰囲気を感じます。
データ編で解説したとおり、チューリップ賞の勝ち馬は過去10年桜花賞では1勝しかしておらず、勝った馬よりも2着以下から出走した馬の方が好走率が高いです。しかしながら鞍上武豊騎手はレース歴代最多の5勝を挙げているまさにレジェンド、22年ウォーターナビレラ、20年レシステンシアでも2着に入っています。
相手関係はここで一気に強化されますが、20年ぶりの桜花賞制覇へ向けた大ベテランの一発に期待するのも良いかもしれません。
仁川を駆け抜けるポリネシアの風
個人的に今年の桜花賞は、最初に紹介した3頭を最有力と考えており、人気順で行くとチェルヴィニアを除いた上位3頭になるでしょうか、人気どころの決着を想定しているのが正直なところです。
そんな中、特大の穴馬候補として一頭取り上げたいのが、前走チューリップ賞で15人気から3着に飛び込んできたハワイアンティアレです。
レースでは出遅れて後方グループからスタート、セキトバイーストが逃げて緩みのない展開のなか、直線で一気に追い上げ、勝馬のスウィープフィートの上がりタイム34.3秒に次ぐ34.7秒の上がり2位の末脚で、見事3着に入選しました。
ハワイアンティアレはロードカナロア産駒、この産駒の特徴は今までも何度か解説してきましたが、単距離から~1800mまでの芝中距離であれば幅広くこなせる傾向があります。数多くの重賞馬を世に送り出しており、牝馬では歴代最強ともいえるアーモンドアイの名前が。非常に面白いのが母の父がマンハッタンカフェ、母の母父があのメジロマックイーンという、歴代でも指折りのステイヤーの血を引いているという点。世界の単距離王の切れ味に母方のスタミナが加わった、長く脚の使える名牝に仕上がる可能性を秘めています。
(別に自慢するわけではないですが)前走の馬券購入時、私は3着候補として紐に入れていました。未勝利勝ちから飛び級での参戦でしたが、前2走では上がり最速を使っており、このメンバーであれば通用するはずと踏んだからです。今回はさらに格が上がってのGⅠレース、立ちはだかる壁は大きいですが、チューリップ賞では、小柄な馬体で馬群を割ってみせる勝負根性も見せました。今回、前走まで鞍上だった西村騎手がイフェイオンで出走するため、鞍上はプラダリアでオーナーサイドからの信頼厚い、池添謙一騎手。名馬の血を引き、小柄な芦毛の馬体、根性があり、鞍上は勝負師。とメイケイエールが退いた今、池添騎手の新しい相棒、新たなアイドルホースの候補として、期待を込めての応援馬券はいかがでしょうか。未来を占うクラシックレースですから、そんな楽しみ方も面白いと思います。
おわりに~空席になったチェルヴィニア~
以上が今回の桜花賞考察noteです。ここまでお読みいただいた方、誠にありがとうございました。少しずつですが読んでいただける方が増え、またお褒めのお言葉もいただき本当にありがたく思っています。嬉しくって泣けてきますよ。いや本当に。
最後になりますが、残りの有力馬たちについても少々…(まだ語るんかい)。
今回も文量の問題で紹介頭数5頭までにいたしましたが、気になる馬はまだいます(いるんかい)。
コラソンビートは阪神JF3着、昨年京王杯2歳Sを制し、今年はフィリーズレビューを2着、ポテンシャルは出走馬の中でも屈指の存在です。JFで先着した2頭には及ばないと思いますが、以降の成長過程を考えると侮れない一頭です。
ライトバックはエルフィンS勝ち、昨年アルテミスSでは4着に敗れていますが、以降着実に成長曲線を描いていそうで、鞍上坂井瑠星騎手とも好感触のよう。抑えておいた方が良い一頭といった感じ。
ボンドガールは素質でいえば最上位。サウジアラビアRCの後、怪我で退いていましたが、現在はニュージーランドTと両睨みの状況。もし出走してくるようであれば、混戦レースの使者となるかもしれません。
また人気の一角チェルヴィニアですが、先日のドバイWCデーにおいて騎乗予定のルメール騎手が負傷、4月3日時点で鞍上は空席になっています。誰が代役を務めるか気になるところではありますが、森タイツ個人としては今回のチェルヴィニアに印は回さないつもりです。
理由は、これ以上ごちゃごちゃ書くとまた止まらなくなるので簡潔にしますが、前走アルテミスSから実践なしのぶっつけ本番ではさすがに苦しいだろうという、至極当然の理由です。管理厩舎木村調教師は以前、イクイノックスの際も「東京スポーツ杯2歳Sからの皐月賞直行」という離れ業をやってのけた超一流ですが、チェルヴィニアがイクイノックス級の素質馬かというとどうか…?
有力馬の一頭なのは間違いないと思いますが、割引は必要だと思います。ルメールもいないし…。
というわけで、ここまで読了いただいた方、改めて御礼を。
まだまだ忙しいですが、来週は皐月賞でお会いしましょう。
ではまた…。
今回ご参考にさせていただいたサイトです。