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障がいと共に生きるアーティスト達とそこにある世界を発信するフリーペーパーHugs 2023年春号 vol.4

「Hug」という言葉には、“愛情をもって抱きしめる” “こだわりを守り続ける” “自分自身を幸運だと思う” などの意味があります。フリーペーパーHugsは、障がいと共に生きながら創作や表現活動をしている方々や施設を取材し、その活動の様子や日々の思い、そこから広がる豊かな世界を伝えていくことを目的にしています。

岸本拓也〈獅子〉2022年©十人十色 *
Hugs 2023年春号 vol.4 メインビジュアル使用作品

生きることそのものがアート

特定非営利活動法人十人十色(以下、十人十色)では、2005年の開所以来、利用者本人の「やりたい」という思いを大事に活動してきました。人を引き付ける魅力にあふれた理事長・岸本美鈴さんと、長年モンゴルで障がい者乗馬を実施してきた経験を持つアート部門担当・長友久美子さん。チャーミング且つパワフルなおふたりに、施設の成り立ちや大切にしていることなどを伺いました。

左:長友久美子さん 右:岸本美鈴さん

-開所のきっかけはアート活動に参加している濱田聡さんと伺いました。

岸本:そう、聡くんから十人十色が始まった。その前に私は寄宿塾をやってたんです。聡くんはフィリピーナのお姉ちゃんに手紙を書きたいと言って転がり込んできた。そんな不純な動機は素晴らしい、やろうやろう! みたいになって(笑)
そこから仲間うちで考えたのが法人の立ち上げとか、働く場所を作ることとか。それからグループホームを作った方がいいって、応援してくれる人達の意見で始まったわけです。

大好きな車をたくさん描いた作品を持ち、満面の笑みを浮かべる濱田聡さん。令和4年度あいサポート・アートとっとり展では、針金やアルミを用いて造形した作品〈光る木見たくて、やってきた〉で、最優秀賞を受賞した
最近取り組んだというトートバッグに直接描いた濱田さんの作品

-長友さんはその頃から一緒に活動されていたのですか?

岸本:いや、その時は長友さんは東京での飲み友達。私もともと福祉畑じゃないから、塾やってたときは仲間と勉強して、全国の事例を見に行ったりしてね。そういう中で障がい者乗馬を知って出会ったのが長友さん。

長友:私の娘が元々障がいがあって、馬がすごく好きだったんです。馬に乗りにモンゴルに行く夢があったけど叶わずに亡くなった。代わりに私が行ってみたらみごとに馬にはまっちゃって。モンゴルの草原で馬に乗りたい人たちを受け入れる活動をするようになったんです。

岸本:そんな話を勉強会で聞いて、すげえって。それで何年か後に、長友さんが来てくれた。乗馬や園芸やアートが感性を育むっていう考え方を私たちは学んでいたんでね。ふたりともアートは素人ですよ。でも好きっていう思いで、試行錯誤しながらやってきました。

-岸本さんがどうして塾を始めたのかっていうのもすごく気になります。

岸本:大学卒業して、そのまま東京にいるつもりだったのに親に連れ戻されて、ふてくされて飲んだくれてたんです。そしたら隣の家の子が勉強を見てほしいと。翌日はプラス10人。みんな来だしたらせんとしょうがないわな。発達障がいがまだ何も分からん頃に「こっちに来て」とか「あっちに行って」とかみんないろんなこと言ってきて。鳥取大学の先生が勉強会を開いてたから私もお母さん達と一緒に通ってね。そしたら先生が「学校が話にならんだったら美鈴さんの塾に」なんて次々紹介してくださった。だから、どんな考えで始めたもへったくれもなく、ただの縁です。あの子たちが私を選んでくれたから、私は奔走する。

-いつから寝泊まりも一緒にするようになったんですか。

岸本:すぐです。暴力的なお父さんから子どもが逃げてくる。お母さんに電話すると「殺されるけえ預かってください」ってお願いされてね。あとは部屋から出てこない子にドア越しに話して、松山千春が好きだっていうからコンサートに誘ってね。九州にも東京にもどこだって行きましたよ。子どもと一緒に親に怒られながら隠れて行ったり(笑)
面白いのはね、この子たちが好きなことは私が知らなかっただけで、素晴らしくて。TOKIOもすごかったし、吉川晃司も追っかけて、もう誰だってすごい。名前も知らないんですよ、私は(笑)でもやっぱりすごいのよ。

-そこまでとことん付き合うのはなかなかできることではないですよね。

岸本:ただただ目の前のことに一生懸命だったっていうか、一緒に楽しんだっていうか。面白いですよ、すごく。私はだから全てがアートだと思うんです、生きることそのものがね。

長友:いま4名がアート活動の中心なんですが、令和4年度のあいサポート・アートとっとり展で4人とも受賞してすごく喜びました。アートをしていると利用者さん本人の着る洋服も明るくなって、ずいぶん変わりました。

岸本:心が育つんですよ。今まで意思も意欲もなかなか表に出せなかった人たちが、困っている人に声を掛け、率先して雪かきするようになった。アートをしているとすべてが他人ごとでなくなるんだよね。
障がいのある人は1冊の教科書です。学ぶことが本当に多い。一緒に暮らしていろんなことをするようになると、他の人が彼らにどう接するかで、人間の本性があらわになるんです。まるでリトマス紙のようにね。私だけでは気づかずに騙されていたかもしれん(笑)

ギャラリーに飾られた岸本拓也さんの作品。定規を用いた描画法が特徴的で、本誌表紙の作品では、獅子の毛並みの立体感や力のある眼差しが見事に表現されている。令和4年度あいサポート・アートとっとり展の美術部門では、黒い紙に白い線で帆船や馬を描いた組作品〈ぼくにはこう見えるんだよ〉で、銀賞を受賞
上:池本伸治〈次から次への巻物シリーズ 日本の田舎から町まで〉2022年 *
下:池本伸治〈次から次への巻物シリーズ 絶滅危機動物〉2022年 *

全長10メートルのロール紙に細かな描写で生き生きと表現した絵画作品。令和4年度あいサポート・アートとっとり展 美術部門 金賞 受賞(横2m以内の状態で審査)
西尾玉子〈サイコロつみきセット あ㋐い㋑う㋒え㋓お㋔〉2022年 *
マンダラぬり絵から展開した作品で、きれいな色彩感覚をつみきセットに生かした。令和4年度あいサポート・アートとっとり展 美術部門 銅賞 受賞

ごっつ ええがなぁ アートギャラリー 外観(ご亭めし内)
ごっつ ええがなぁ アートギャラリー 内観(ご亭めし内)

特定非営利活動法人十人十色

アート活動を希望する利用者との出会いから開所スタート。主に4人が中心となり、廃材などさまざまな素材を用いて毎日アート活動に取り組む。地域全体でアートを楽しめるようになることが目標。2021年に「ごっつ ええがなぁ アートギャラリー」として鳥取県はーとふるアートギャラリー第4号認定を受けた。


アート作品を発表したい人のためのプチコラム 知ろう著作権!

04:作者に許可を得よう!

作品がどう扱われるかを決める権利は作者にあります。使用したい場合は必ず作者から許可をもらいましょう。

細かな打ち合わせが大切!

Hugs 2023年春号 vol.4
2023年3月1日発行


発行/あいサポート・アートセンター

   〒682-0821 鳥取県倉吉市魚町2563

   TEL : 0858-33-5151

   FAX : 0858-33-4114

   E-Mail : tottori.asac@gmail.com

   HP : https://art-infocenter.jimdofree.com/

企画・製作/一般社団法人アートスペースからふる
編集/水田美世
撮影/藤田和俊、Ys Photo Studio(*印のみ)
デザイン/森下真后
協力/鳥取県

「鳥取県はーとふるアートギャラリー」とは、障がいのある方の文化芸術作品の発表の機会·場所を確保する制度。障がいのある方の作品展示を積極的に行っているアートギャラリーを県の認定ギャラリーとしています。

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