2024年10月の読了本感想

◆10月読了本◆

・森山徹『ダンゴムシに心はあるのか 新しい心の科学』(PHPサイエンスワールド新書)
タイトルに惹かれて購入。
タイトル通り、「ダンゴムシに心はあるのか」というテーマで考察・実験・立証を行った本だが、まず「心って何なの?」ということで、第1章は「心とはなにか」というテーマで考察されている。
ここが結構難物で、かなり抽象的に書かれており、かつ1〜3ページくらいの節に分かれていて、節から節へスムーズに進んでいくのだが、あまりにスムーズ過ぎて読んでいるこちらは置いていかれそうになって慌てて少し前に戻って読み直すことしばしば。
全体の三分の一弱が割かれているのだが、ちょっとバランスが悪くなるかもだが、もう少し分量を割いて丁寧に解説してもらったほうが良かったと思う。
第2章は、ダンゴムシでの実際の実験について書かれているが、こちらの方は実験内容の説明から結果まで具体的に書かれていて判りやすかった。第1章でつまづいた人は先に第2章から読むのもありと思う。
第3章以降はまあ、おまけみたいなものでやはりメインは第2章か。
ちなみになぜダンゴムシなのかというと、奇をてらった訳ではなく、手に入りやすく、かつサイズが小さいので実験装置が作りやすいという現実的な理由だった模様。


・星一作/星新一要約・解説/星マリナ監修『三十年後』(新潮社 図書出版部)
9月にあった文学フリマ大阪で購入した本。
星新一の実父、星一が大正7年に出版した本で、タイトル通り30年後の大正37年の日本を描いている。未来世界を描いていてもいわゆるディストピアものではなくユートピアもの。ユートピアもののSFって意外にないので珍しいかも。
理想的な未来社会の描き方が、結構細かくて、当たっているところも多く面白い。意外な?ラストはまあ予想がつくけどそこは御愛嬌。
ちなみに星一は案を出しただけで実際の執筆は作家の江見水蔭が行ったようだが、案だけでも大したもの。
残念ながら本書は完全版ではなく、オリジナルの半分くらいの量の要約版。オリジナル版のほうはKindleで国立国会図書館デジタルコレクションがKindle Unlimitedなら無料、それ以外でも110円で購読可能だが、テキストではなく画像なのでちょっと読みづらい。ちなみにオリジナル版をちょこっと読んでみた感じでは、やはり説明が過剰というか、冗長なところが見受けられるので、星新一氏が要約した理由もそのへんにあるのかも知れない。


・大阪圭吉『死の快走船』(創元推理文庫)
戦前に活躍したミステリ作家、大阪圭吉の創元推理文庫からの3冊目。
大阪圭吉は、戦前には珍しく本格ミステリを書いた人で、創元推理文庫の1冊目、2冊目は本格ミステリのみ収録だったが、本書は本格ミステリといえるのは表題作の「死の快走船」くらいで、後はユーモアミステリ・エログロもの・少女小説・防諜小説・捕物帖とジャンルが手広い。しかし、どの作品もうまくまとまっていて、器用な人だったみたいだ。
一番多いユーモアミステリものは、なかなかおもしろい。ユーモアミステリと言いながら、トリック的なものもしっかりしている作品が多くて、読み応えがある。
残念ながら第二次世界大戦中、戦地にて早逝されている。生きていたら戦後どんな小説を書いたかと思うと、タラレバの話になるが惜しまれてならない。


・北杜夫『どくとるマンボウ航海記 増補新版』(中公文庫)
中学〜高校にかけて猿のように何度も読み返した本。11月はじめにある読書会のために再読しようと思ったら、中公文庫から「増補新版」というのが出ていたので、そっちを購入して読んでみた。
なんだかんだで、大きくなってからはあまり読んでいなかったので、読むのは少なくとも30年ぶりくらいか。思ったよりも新鮮に読めた。やっぱり面白いわ。笑える。
改めて読み直して気がついたのは、笑える箇所と笑える箇所の間にはさまれた風景描写の美しさ。もともと風景描写には優れた人だけに、その真価を発揮している。これは若い頃には気が付かなかった。新たな発見。
ちなみに「増補新版」の増補の部分であるが、巻頭のモノクロ写真4ページと、宮脇俊三による解説、北杜夫のエッセイ「傲慢と韜晦」が追加されている。「傲慢と韜晦」には、本書の執筆についての経緯なども書かれており興味深い。


・石井千湖『積ん読の本』(主婦と生活社)
X(旧Twitter)のTLに流れてきた投稿で出るのを知った本。これは買わねば!と思ったがいざ出る頃には忘れてしまっていた。「出た、読むべし」という投稿をまたXで見かけて思い出して購入したような次第。
中身の方は、石井千湖による「はじめに」・「おわりに」と「積ん読の悩み相談Q&A」、以外は12人の作家などへのインタビュー(これがメイン)。インタビューはどれも興味深くて思わず付箋を貼りまくりながら読んだ。教えられることが多かった。積ん読の世界は奥深いな...。


・山尾悠子『飛ぶ孔雀』(文春文庫)
11月にある予定の自分主催の読書会のネタ本として読んだ。
山尾悠子読むのは久しぶり、というか復帰後の本は2冊ばかり積んだまま読んでいなかったので改めて読んでみて、え、こんな作品書く人だったっけ?と思った。
もともと硬質で透明な感じのする文章を書く人だとは思っていたが、ここで見られる文章はもう一歩踏み込んだ感じで、現実世界のようでありながら異世界感が強く感じられるもの。どこかで読んだような文章だと思いながら、思い当たらなかったのだが、解説で泉鏡花との対比が語られていて、ああ、そうだ、泉鏡花だ!と腑に落ちた。
なんと説明したらいいのか、語彙不足というか、文章力が足りなくて伝えきれないのだが、常に前のめりな感じで焦らされる文章だ。「この後〇〇は〇〇することになる」というような伏線を貼る箇所が多くて、しかも話の筋が込み入っているので、本当に伏線回収されたかどうか、確かめる前にどこかへ置き去りにされてしまう。なかなかに難解なところもあって、しかしのめり込んで読んだ。面白かった!もう1冊(2冊?)積読している本も読まねば。

◆輪読会関係◆
・三島由紀夫『金閣寺』(新潮文庫) (輪読中)
・泉鏡花『婦系図』(新潮文庫) (輪読中)
・紫式部作/谷崎潤一郎訳『潤一郎訳 源氏物語 巻一』(中公文庫) (輪読中)
前月と変わりなし。『金閣寺』は11月中に終わりそうだが。

◆総括して◆
9月は読了本全て読書会絡み、という有り様だったが、10月はなんとか読書会絡みでない本(結果的に読書会で紹介したけど、読書会用に読んだわけではない)を2冊読めたので良しとしよう。11月はなんとかもう少し冊数を増やしたいところ。

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