2024年7月の読了本感想
◆7月読了本
・須永朝彦作/山尾悠子編『須永朝彦小説選』(ちくま文庫)
この人の本は初めて読むが、山尾悠子が編者ならハズレはあるまい、ということで購入。結果大当たり!
前半はとにかく美しい。耽美の極み。Xで読了ツイートを上げた時に「泉鏡花と稲垣足穂を足して2で割らない」という表現をしたのだがまさしくそういう感じ。ハーフ&ハーフじゃなくて両方丼に大盛りというか。
特に第1短編集『就眠儀式』は全篇吸血鬼がテーマという吸血鬼好きには必読の本。この選集にはそのうち7篇が収録されているのだが、本当にトランシルヴァニアへ連れて行かれそうだった。
後半は和風テイストも入ってくるのだがそれも良き。
話は前後するのだが、後で出てくる久生十蘭とも共通したものを感じる。とにかく衒学的というか、異様に詳しい表現が似ている。
巻末には泉鏡花・佐藤春夫・江戸川乱歩(他1名)による架空対談というのも収録されていてそれも面白かった。幻想小説好きな人にはお勧め!
・サキ作/中村能三訳『サキ短編集』(新潮文庫)
自分が主催している「異色作家シリーズ」という読書会2回目の課題本。
サキの作品は(和訳されているものは)大体読んだことあるのだが、この新潮文庫版は未読だったので入手して読了。
うん、やっぱり面白かった。どの作もストーリーは頭に入っているのだがそれでも面白く読める。
サキはO.ヘンリーと比較されて語られることが多いのだけど、「愛」を描いたほのぼの系のO.ヘンリーに比べると、シニカルでブラックユーモアに満ちた作風は対照的だ。
ここから先は個人的意見になるのだけれど、サキは確かに皮肉屋なんだが、その内側には深い人間への愛というか、哀れみのようなものを感じる。それがあるからこそ、再読・再々読にも耐えうるのではないか?と。
・ポール・オースター作/柴田元幸訳『ガラスの街』(新潮文庫)
これも読書会関係。作家・翻訳家縛り読書会の「追悼ポール・オースター回」にあわせて読んだ。ポール・オースター初読。
難しい、とまでは言わないけど、かなりシュールレアリスティックというか、ぶっとんだ展開には驚いた。1〜10までは(2はちょっと読みにくかったけど)、まあ楽しめるんだけど、11から先のいきなりどういうことなんだこれは、なノリにはつまずきそうになった。勢いで最後まで読んだが。
ラストも、バッドエンディングというのではないが、読者を放り投げたように終わっている。
「ニューヨーク三部作」の1作目ということで、ニューヨークの街がリアルに(行ったことないけど)描かれている。ある意味、主役はニューヨークの街そのものと言ってもいいかもしれない。
続きは「ニューヨーク三部作」の残り2作を読もうと思っていたのだが、みんなの発表を聴いていると『ブルックリン・フォーリーズ』とかもっと読みやすいものもあるようなんで、そっちを先に読もうかな。犬が語り手という『ティンブクトゥ』も気になる。
・芥川龍之介『或日の大石内蔵助』(青空文庫)
某所で「忠臣蔵雑談会」が開催されるのを知って、そういえばこんなのもあったな、ということで触発されて青空文庫で読了。討ち入り後、身分預かりになっていた大石内蔵助のある一日を描いたもの。「深い満足の情」を感じていた内蔵助が、まわりの人間の言動によって徐々にその情を失っていく、といういかにも芥川らしい作。派手ではないが、真鍮のような輝きを放つ佳作。
・久生十蘭作/川端賢子編『久生十蘭短編選』(岩波文庫)
これも読書会の課題作3篇が収録された短編集。始めに課題作の3篇を読んでからいったんポール・オースターを先に終わらせて戻ってきて丸ごと読了。
これも面白かった!久生十蘭はちょこっとだけ読んだことあるが、そのときには変格探偵小説系の人という認識しかなかったのだが、この短編集は1篇を除き戦後の作ばかりで、あまりそういう感じはしなく新鮮に読めた。
とにかく美しくも儚く、儚くも美しい作ばかり。泣ける話も多い。課題作「黄泉から」には能にからんだ仕掛けがあること、読書会で指摘されて初めて気づいた。深い...。
読書会では何故か「〇〇に似ている」という意見が多かった。十蘭味?なんか、読んでいてそういうことを思わせる作家なのか。
課題作の3篇も良かったけど、それ以外では個人的に「ユモレスク」「復活祭」「春雪」あたりが好み。
岩波文庫からはもう1冊久生十蘭短編集が出ているので、そちらも読んでみたい。
・パオロ・バチガルピ作/中原尚哉・金子浩訳『第六ポンプ』(ハヤカワ文庫)
8月に予定している、自分主催の「SF&ファンタジーについて語る会」のネタ本として読んだが、これも当たり。
全10篇収録。大半の作は、何らかの理由で大きく変わってしまった未来社会を描いているのだが、1作ごとにまるきり変わった社会になっていて面白い。
いちおうディストピア小説になるのかもしれないが、単純なディストピアものでないのは、変わってしまった社会に不思議な魅力を感じるところ。このうちの1作の設定に準ずる形で処女長編『ねじまき少女』が描かれているようなので
大ヒット作となったそちらも読んでみたい。
◆輪読会関係
・三島由紀夫『金閣寺』(新潮文庫) (輪読中)
・北杜夫『夜と霧の隅で』(新潮文庫) (輪読終了)
北杜夫の作品中でも(全部読んでるわけじゃないけど)好きな本の1つ。もう何回となく読んでいるのだけど、それでも読み返すの20年ぶりくらいだったので、懐かしく読んだ。
全5篇。「霊媒のいる町」がハードボイルドな雰囲気があって良いなあ。表題作はなんだか重くて暗い話。輪読会でもどよーんとした雰囲気になりがちだった。う〜ん、昔読んだときには、重いけどそれなりに楽しめた記憶があるのだが、久しぶりに読み返すと暗い印象ばかりが残った。
・泉鏡花『婦系図』(新潮文庫) (輪読中)
◆総括して
ちなみに7月読了の6冊のうち、4冊が読書会絡み。こうなると本読むから読書会するのか、読書会のために本読んでるのか判らなくなる。まあ、でもポール・オースターとか久生十蘭とか、読書会なかったら読んでない(かずっと先になるか)だろうから、これはこれでありがたい。
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