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人間失格 太宰治と3人の女たち【映画感想】

「人間失格 太宰治と三人の女たち」という映画を見ました。

1.概要

太宰治の遺作にして代表作である「人間失格」が完成するまでの間に、恋多き太宰の作品に特に大きく影響を及ぼした三人の女達との関わりに着目した作品。
1人目は妻、津島美知子。2人目は愛人、太田静子。三人目も愛人、山崎富栄。三人の女達はそれぞれの愛し方で太宰と接していく。ベストセラーを連発する一方で、妻子のいる身で愛人との関係を続けていく彼の日々と想いが描かれている。

2.ストーリーと感想

私は太宰治の事をまるで知りません。だから今回の映画でどんな人物像なのかを初めて知りました。

ストーリー開始、と同時に海の中。まさかの入水自殺スタート!
クライマックスから過去へ戻る方式かと思いきや、自殺未遂はプロローグだったのです。相手の女の人は別の男の名前を叫びながら沈みゆき、太宰はなーんだと思いながら普通に岸へ上がってくる。どういう状況なんでしょう……しかも周囲からするとまーた心中未遂したのかというような反応。

どうにもこの太宰治という人物は、酒と恋と自殺願望で出来ている人物のようにしか見えません。それらを極限まで極めた結果に小説を書いて、また愛人とのふしだらな生活に戻る……という事を繰り返しているようでした。それでいて奥さんのことは愛しているし子供は可愛いらしい。
どこに対しても振り切れない人なのかなあという印象でした。

作中に出てくる主な女性は3人。それぞれの第一印象はこうです。
まず妻の美知子は、献身をそのまま描いたような女性でした。ふらふらと遊び歩く太宰の傍らで家庭や子供達を守り、帰宅した際には甲斐甲斐しく世話をしてやる。浮気にはとうに気づいているけど何も言わない。

愛人の静子は作中で最も記憶に残るであろう言葉を日記に記した人物。
「人間は恋と革命のために生まれてきたのだ。」その日記を読んで、太宰は「斜陽」を書いたそうです。燃えるような恋のために生きている刹那的な人。

2人目の愛人は富栄。太宰行きつけのバーで出会い、太宰のためならば全てを投げ打っても構わない。いつか一緒に死ぬ、その時を夢見て激情のまま生きる人。

3人はそれぞれ全く違う形で太宰を愛していましたが、太宰が愛人2人を本当に愛していたのかは疑問が残りました。激しく愛し合う描写は多々あれど、どうにも次に書く作品の原動力のために付き合っているように見えます。
それが顕著だったのが静子との関係性です。彼女の日記を読み、燃えるような恋をする代わりに、彼女は太宰の子供を欲しがりました。
確かに子供は授かったのですが、蜜月が終わった後は彼女に会おうとしなくなりました。要はもう終わらせた恋なのではないかと思います。

しかし静子の行動には少し疑問を覚えました。そもそも彼女は作中の言動から交換条件を飲めば後腐れがない関係性として精算しようとしていたように感じたので、妊娠後わざわざ太宰に会いに行きつけの店に来たのは不思議な感覚でした。

富栄もまた、作家としての太宰に最も惚れているといいつつも不可解な行動がありました。それは妻美知子不在の時に家に上がり、家事をして妻に対しマウントを取るような行動していた事です。作中で最も愛を、そして太宰治という作家より津島修治(本名)を欲しがっている人物に見えてしまう。言動と行動がギクシャクしていて伴っていない気がするんです。

この辺りで3人の女たちが第一印象と実は違う人物なんだと気づきました。
静子はその実強かです。子供という動かぬ恋の証を手に入れた彼女は斜陽日記の出版によって同時に小説家になる夢も果たしましたし、恐らく作中最も自分の理想通り事が運んだ人物では無いでしょうか。

一方富栄はかなり刹那的な生き方をしていました。突然大金を払って高い食材を買ってみたり、一緒に死にたいと言いながら子供が欲しいと迫ったりと、かなり情緒不安定で余裕が無い。

しかし最も印象が変わったのは妻美知子でした。体を壊し、心も壊しかけながら家庭に戻るべきか悩む太宰を見て、やるならとことんやれ、家庭なんて壊してしまえと発破をかける。
彼の心中に関し、真の理解者はやはり妻だったのでしょう。
そしてとことんやった結果、冒頭のシーンが、今度は成功に終わるのです。富栄は彼の最期を手に入れた。しかし太宰の遺書には妻美知子を誰よりも愛していたと書かれています。これは嘘では無いと思うんです。恋多き太宰でしたが、毎回恋破れては家庭に戻り、妻に甘えていました。
作中では同意の元富栄と心中した事になっていましたが、やっぱり止めないかなどと説得しているシーンもあり、本当に死ぬつもりはなかったのかもしれませんね。
太宰亡き後、妻美知子はすぐに立ち直り普段通りの生活を始めました。愛人と一緒に自殺した太宰に、それでも愛していると書いてきた彼に思う所は沢山あったでしょう。それでも自分らしい日常を再開できるのは、強さ以外の何物でもないなと感じました。

太宰は今の世ならかなり炎上しそうな恋多き作家ですよね。あらゆる業界から干されそうです。でも名を馳せた芸術家って皆どこか頭のネジが吹っ飛んでいる人が多い気がして、夫として、恋人としてあるべき姿ではない事には大して驚きませんでした。
世の浮気性の方は浮気がバレる心配こそしていても、基本的には楽しくて浮気しているのだろうと思います。しかし太宰の場合、楽しむ一方で体も心も壊すくらい悩んでもいた。それは、本人にはどうしようもない性質と心が寄り添ってなかったからなのではないかなとも思いました。

取り留めなのない感想をつらつらと書いてしまいましたが、考えさせられることの多い作品でした。
実の所人間失格も斜陽も読んでいないので、これを機に読破してみたいと思っています。
お読み頂きありがとうございました!

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