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【翻訳】TNO開発日誌23:オデュッセイア(前編Part2)

原文はこちら、2021年の春に公開されたものです(https://www.reddit.com/r/TNOmod/comments/nbmze5/development_diary_xxiii_the_odyssey_part_1/

この文章は前編をさらに二分したうちのPart2です(それでも7000文字ほどはあります)。
前編のPart1はこちら(https://note.com/fred409/n/n976c27af9e87
後編のPart1はこちら(https://note.com/fred409/n/nfa782f4fca20
後編のPart2はこちら(https://note.com/fred409/n/n4e80bb2d9cef

こんにちは!私はPenelope's WebのライティングリーダーでパスタフォビアのEpochPirateです。ギリシャチームのリーダーであるMuatin Helix氏に代わってギリシャについてご説明します!それでは早速いきましょう。

物語が始まる時、ギリシャには三つの存在がありました。偉大なる兵士達、地中海、それから非効率で腐敗した政府です。偉大なる戦士というのは遙か昔の話であり、10年前にドイツ人が地中海を消し去ろうとすらしました。そして残ったものといえば腐敗した政府だけです。パンガロスの庇護者、ゲオルギオス・セメシスの、理論上だけはファシストであるが実態は全くの日和見主義者の集合である国民連合の政府です。

スタート時のギリシャ

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ギリシャの現政権は第二次世界大戦の際にイタリアがギリシャへ侵攻、占領した結果として樹立しました。それまでの王国政府は国外に亡命し、国王はアメリカに流れ着きます。国内では、完全な傀儡と成り下がるのだけは防ぐため、イタリアへの協力を引き換えにゲオルギオス・ツォラコグル将軍の力で新政府が成立しました。その後ツォラコグルは政権運営に完全に失敗したため、チャーノの意向によってイタリアのファシストに古くから味方してきたギリシャ国家社会主義党とゲオルギオス・メルクリスが新しく政権を担うことになりました。メルクリスは抵抗運動や飢饉といった危機の中死去してしまい、最終的には戦後テオドロス・パンガロスが短い間独裁者となったもののすぐに独裁者という役割自体が消滅し、政府は再び協力政権に戻りました。

抵抗運動はギリシャに傀儡政権を樹立させるという条約が書かれたその瞬間から存在していました。ギリシャの抵抗運動組織と見做されるものには二つあります。一つは共産党であるギリシャ社会主義労働党(SEKE)の支配する民族解放戦線(EAM)で、もう一つはナポレオン・ゼルバス(あのナポレオンとは無関係です)を中心とする個人的な派閥である民族共和ギリシャ連盟(EDES)があります。EDESは中道的で民主主義を理想としていました。

この種の組織に共通のものとして、両組織は共通の敵を抱えているのにもかかわらずすぐにお互いとの内紛と口論に走ってしまいます。それでも、ゼルバスの死や、SEKEの政治的立場がKKE(ギリシャ共産党)に取って代わられたことによるEAMの母体の変遷があった後も、抵抗運動がギリシャ協力政府を悩ませていたのには変わりはなく、政府は戦闘の助けとすべく治安大隊を復活させました。政府はより危険だと認識したEAMの根絶に集中しかつてはより小規模だったEDESと同程度にまではその勢力を削りましたが、EAMは依然として健在でした。一方のEDESはEAMの抵抗運動における存在感が減ったため、EKKA(国民社会解放戦線)のような他の組織を吸収しながら抵抗運動全体における影響力を増大させました。

1962年のレジスタンス

ギリシャから簒奪しようという枢軸国の政策によって引き起こされ数万の人々が餓死することになった国家規模の飢饉である「大飢饉(The Great Famine)」が抵抗運動に爆発的な火を付け、腐敗は政府の至る所に蔓延していたにもかかわらず、パンガロス政府はギリシャに対する支配を固めることに成功しました。パンガロスは野心的で拡大主義的であり苛烈な、半ば狂人じみた人物であり、国民にとっては最悪の指導者でありましたが、自身の野望を持つ人間としては最高の性格を持ち合わせていました。彼の影響力は無血クーデターによって得られたものです。前政権を無能だと批判し、治安大隊の忠誠を維持しています。彼はイタリアからの莫大な物資援助を得てパルチザン活動の抑制に成功し国家を掌握しました。しかし、脅威はパルチザンだけに限りません。パンガロスの共和的思想を敵視する前国王を含む政敵は様々な方法を通してパンガロスと対決しようとしています。

1962年の政府

パンガロスの庇護者セメシスの文民政府は実行力を持ちません。暴力装置を独占できていないためです。ギリシャでは政府とパルチザン、民兵、そしてイタリア人が国のあらゆる部分を寡占的に支配しています。アントニオ・ガンディン将軍(ギリシャにおける最高司令官)イタリア人はかろうじて国を一つに纏めるので精一杯です。ギリシャで唯一の軍である治安大隊は小規模で無力です。もしも三頭連合がギリシャから撤退すればこの治安大隊がギリシャにおける唯一の軍事組織となるでしょう。治安大隊は小規模ゲリラに有利なギリシャの地形特性も相まってといういつもパルチザンの襲撃を止められず、内陸部は情報の全く入ってこない暗黒地域となっています。

「強力」なギリシャ軍

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腐敗を考慮すれば政府の影響力はさらに貧弱なものになります。政府の力が弱くなれば何をするにも賄賂が必要になります。政権運営を行っているファシスト政党のギリシャ国民同盟(EEE)はそもそもが日和見主義者の集まりであり、党員の大部分がイデオロギー的裏付けをほとんど持たず満足がいくまで汚職の限りを尽くしていることは状況をさらに悪くしています。彼らは権力を得るためであれば母親ですらイタリア人に売り渡すことでしょう(そして何人かは恐らく既に売り渡しました)。結果としてこれまで以上に機能しない政府が誕生してしまったのです。EEEはギリシャに災厄をもたらしました。腐敗の核、セメシスももちろんその一部です。

ギリシャはいくつもの大問題を抱えています。はっきり言えば政府はイタリアの守備隊が駐屯している人口集積地以外では殆ど何も管理できていません。ギリシャは戦争、経済の崩壊、そして腐りきった社会によって目も当てられない状態です。人々が腐敗した政府に嫌気がさして抵抗運動に参加し、抵抗運動によって政府の腐敗はさらに深刻になるという悪循環が存在します。ギリシャの将来は貴方に託されています。抵抗運動と戦い抜けるのでしょうか、それとも失敗するのでしょうか。

レジスタンスのメカニズム


アンカラに話を戻しましょう。ファフリ・サビ首相の外遊は何の成果も生みませんでした。イタリアは来年度のマルタ会談に全てを賭ける覚悟を決めており、交渉はイノニュの閣僚がトルコに戻ってから内密に行われました。チャンカヤ(大統領府)ではにわかに緊張感が高まります。

不吉な会合

国内の騒乱に関していえば、国家安全保障局(National Security Agency)は反乱に対する影の戦争を実行するため免責特権と追加予算を与えられました。過激とさえ評されるこのエスカレーションはイノニュがどれほど緊張感を持っていたかを示す徴候の一つです。強引な鎮圧を行ったのは決して彼が残虐だったからではなく、それ以外に成功する見込みを感じられなかったからでありました。必要性から生まれた無慈悲さの哲学こそが、イノニュ達にトルコの立場を軍事的に試させた衝動だったのです。この時点ではイタリアとの国境紛争や貿易問題に関する合意に至れずに外交手段を使い果たしていたのにもかかわらず、体制を再活性化させるためには勝利が絶対に必要だったのでした。

トルコの国内状況

戦争になればトルコは中東の同盟国に依存しなくてはなりません。同盟国はたった二カ国です。一つは1950年代の戦争でイラクから削り取ったモースル・キルクーク、もう一つは第二次世界大戦やシリア反乱を経てその国境が何度も変更されてきたシリア国民国です。

トルコの傀儡国

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シリア国民国は実際には同盟国というよりかは占領地域といった方が正確でしょう。第二次世界大戦の間に占領されたシリアは外国の支配との闘争の長い歴史を持っており、特にオスマンのトルコ人との戦いはまさにアラブ民族主義を鍛え上げたものでもあります。近年も何度も反乱が勃発してきました。アンカラが発見した唯一の機能する統治方法とは、シリアの南部と西部の直接統治を諦め協力政府の軍事政権に間接的に支配させ、広大な北部でのみ軍による直接統治を行うというものでした。シリアは軍事的、経済的にはアンカラと完全に結びついていますが、ダマスカスの将校達は必ずしも忠実であるというわけではなく、ただ選択肢が他にないためそうしているに過ぎません。イタリアとの戦争が起こればより多くの人々が反植民地闘争に参加してしまうかもしれません……

注意しなくてはならないのは、トルコによる抑圧というのはイタリアがレパントでしているものと悲惨さの点では全く同程度であり、シリアの支援が見込めるのはシリア軍を繋ぎ止める鎖が健在の時だけです。さらにいえばシリアの抵抗組織は占領が始まった時からトルコ政府をありとあらゆる手段で苦しめてきました。シリア独立と自由のための北部同盟(NASIL)は占領下の北部で活動する政治、軍事組織であり、バアス主義者や共産主義者、シリア社会民族党(SSNP)、様々な種類の民族主義者の支援を受けています。近年はNASILはトルコにとって脅威では無くなってきていますが、それでも消滅はあり得ません。

一方、イラク領クルディスタンはモースル・キルクーク行政地域という異様な存在によって支配されています。トルコ共和国に完全に統合してしまうという計画も存在しますが、現状は地域の権力は歴史的にアラブやイランといった外部の侵略者に対して抵抗してきたクルド部族やバルザニによって完全に支配されています。彼らは独立を望んでいますが、自分をごまかしながらアンカラへの服従を選んでいます。アフマド・バルザニはイギリス委任統治領の解散に伴う混乱に乗じて地域を非公式的に掌握し、1952年にトルコ軍がイラク領へ侵攻するまでバグダードとは軍事的に対決してきました。トルコはクルド州の防衛を侵攻の大義としましたが、口実があまりに見え透いていたために当のモースルでも反トルコ暴動が起こり、バグダードとの外交関係は破滅しました。トルコ国内でのクルド人反乱が引き起こされることを恐れ領域を離れることを忌避したためにイラク領クルディスタンの併合が決定され、バルザニの部族が特権と共に軍事政権を運営し統治する行政権を得たとはいえ、一般的にはこの地域はトルコ国境の内部にあると考えられています。モースル・キルクークはイラクがトルコに敵対的姿勢をとる最大の要因であり、地域を取り戻したいという思いはカーシムをイタリアの下へ走らせてしまう可能性もあります。とはいえアンカラとって重要なことは、バルザニが自分の国家を守るためには必死になって戦うということだけです。

このような状況下で、プレイヤーの皆さんもご存じの通り、イノニュの閣僚の中にも直接介入を提案するタカ派が出現するようになりました。もしローマが三頭連合のメンバーであるはずのトルコに対して領土、主権、名誉の問題で妥協の姿勢を見せないのであれば、トルコは力によって奪い取るという姿勢を固めるべきです。どのような犠牲を払ってでも、そして戦場がマルタの議場であろうとシリアの砂漠であろうと、勝利こそが政権の最大の優先事項となりました。

こんにちは!私はPikeman、昼は優秀なライター、夜は……夜でも優秀なライターです!ここまで、皆さんは三頭連合内そしてその加盟国内での緊張感について読んできましたね。三頭連合は望んで加盟した国もそうでない国もありますが、当然ながら、イタリアへの敵対的姿勢が見過ごされることはありえません。イタリアの秘密警察である軍情報部隊(SIM)は懸念を強めており、母国への報告文はより長く、頻繁に送られるようになってきていました。イタリア帝国の最高指導者のもとへこれらの情報が上げられるのも時間の問題です。

同盟内での緊張が高まる中で、三頭連合の設計者であり最大の支持者でもあったチャーノでさえ、事態は急激に変化し制御を失っていることを認めざるを得ませんでした。10年来の均衡が崩れ始めているのは明確であるのに、全員の一致した合意は存在しません。ここにきては選択肢は一つ、同盟の解散以外ありえません。

そこでチャーノの脳裏に一つのアイデアが生まれます。三頭連合の全ての加盟国代表が一挙に集まる盛大な国際会議を開催し、お互いの不平不満をぶちまけつつも最後には一つの妥協に至ることができたとすれば同盟は継続できるのではないか。早速議場を見つけよう……

当然ながら、三頭連合は対等な立場での同盟でありますので、全ての加盟国が会議に招かれます。実務的にはチャーノは様々な加盟国への招待状をしたためなくてはなりません。他の二つの原加盟国、イベリア連合とトルコ共和国には出席したくなるような、そして主にギリシャ国を意味する、公式には独立している国家には出席しなければ全てが会談で決定され苦しむことになるとわかるようなものです。

マルタ会談

三頭連合加盟国は忠告に応えてマルタへ赴こうとしています。当然国家元首だけが参加するわけではありません。そろい踏みした外交官達、議員、調整家、鞄持ちなど、とても、とてもたくさんの人々が最終合意の詳細を整えるために出席します。

しかしながら、雰囲気が友好的で開放的なものになる道理はありません。それぞれの国は自国の目標、計画、利権を持って参加しているのであり、中には他国との共存は絶対に不可能な領域もあるでしょう。イタリア代表団はそれをよく理解しており、他の参加者に対し帝国の裁定者として振る舞おうとしていました。誰もイタリアに要求することなどないだろうという驕りがありました……

マルタへの招待状(ここでは紹介しませんが、イベリア連合へ宛てたものもあります)

会談が始まりました。国際会議にはよくあることですが、会議は議題のテーマ毎に分割されています。それぞれの会議で利害関係者達が議論を交わす方式で、まずは双方とも共通戦略を見つけ同意に至り、予備的な議論を解決し、そして最後に実際の討議が行われて合意が形成される。全てが計画通りに進めばこうなります。

ですが、会談が始まってすぐにイタリア代表団は他の参加国が外交関係よりも自国の目標の追求を優先していることに気がつきます。積み重なった怨恨や不満、嫉妬が表面化し、会議は誰を切り捨て誰に好意を示すかの問題となりました。ホスト国であったはずが突然被告人のような立場に立たされてしまったチャーノは、イタリアが全大戦で手に入れた戦果を必死に守らねばならないことを悟ります。議場は次第に熱を帯びてきました。

キプロス国境問題

チャーノは理解します。一つ一つの選択が将来の関係に深い影響を与えること、そしておそらく、イタリアの利権を守ることは同盟を維持することよりも重要だということを。彼はその日の最後まで三頭連合は危機を乗り越えられると信じていますが、それでもです。必要なものは外交のスキルと少しの賄賂だけです。運命の輪は彼をまだ見捨ててはいないようですが……

残念ながら、チャーノの努力も空しく、事態はそれほど単純なものではなかったようです。歴史というのは結局、気まぐれに動くものであり、運命の女神は盲目でありながらもその歯車を永遠に回し続けている存在なのです。一体誰が想像もできない状況への用意を済ませられるというのでしょうか。そしてマルタ会談こそがまさにその想像もできない状況であったのです。

マルタの悲惨な運命

犯人が誰であったのかは関係ありません。議場の爆発事件は誰も制御できないような急展開を招きます。その後の糾弾合戦は三頭連合が形成された時から、いえ、さらにその前から、積み重なってきた敵愾心と不信感の本当の根深さを示すものでした。一つ目の困難に直面した時点ですでにお互いに指を突きつけ合うような関係の二カ国を「同盟国」などと呼べるでしょうか?

そしてその後

マルタ会談をきっかけに三頭連合という不安定な秩序は崩壊し、イタリアはかつてよりさらに孤立することになってしまいました。またしても地中海でただ一国、敵対国に取り囲まれています。孤独な国家の頂点には孤独な男が佇んでいます。

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