【翻訳】TNO開発日誌27:変わりゆくもの、変わらないもの(後編)
原文はこちら ( https://www.reddit.com/r/TNOmod/comments/s3tstc/development_diary_xxvii_to_things_that_change_and/ )
前編はこちら( https://note.com/fred409/n/nd995408573d8 )
ゲームの目標
ゲームが1960年代、シリコンの時代に入ると、広東は行政長官のイメージに沿って変革を受け、共栄圏の輝く宝石となろうとします。目標は単純です。満洲帝国に匹敵するほどの経済規模を達成することです。
私たちは広東の国家アイデンティティを巡るユニークな苦闘や地下での闘争、そして広い共栄圏の中で電機のハブとなる役割を表すために、Toolbox Theoryで使えるようになったツールと共に大量の(5つしかないということはありません)メカニックスを詰め込みました。始めてのプレイヤーは圧倒されてしまうかもしれません。そしてそれこそが最初の二年間をお話しし、広東のゲームプレイがどのようなものかをお伝えしたかった理由なのです。
ゲームプレイの概要
こんにちは。私は広東の共同リーダーで珠江文明のメインコーダーのOPAsianです。これから鈴木貞一が行政長官として受ける最初の二年の艱難辛苦をご説明しましょう。
上の二つの画像は事前にリークされていたテーザーです。広東のメカニックスを表しています。
時は1962年。日本の行政から自然と発生していたものですが、広東を再生するための計画は鈴木のもので、実行に移されようとしていました。最初の3つの国家方針は広東を支配する様々なメカニックスをゲーム内で紹介するためのものです。最初の国家方針を完了するためには、地下社会にも表社会にも潜んでいる広東の手に負えない勢力を鈴木がなんとか抑える必要があります。
腐敗したヤクザ、そこら中にいる憲兵隊、非協力的な中国人大衆にいたるまで、シリコンの楽園を築くためにはどんな行政長官もこれらの勢力を制さねばなりません。
2つめの国家方針が完了すると国家へ影響を与える勢力、広東の三大悪がより鮮明に映し出されます。彼らはつねに裏社会で蠢き続けることでしょう。
大日本帝国も中華民国も共にこの小さな企業国家へ圧力を加えており、街角にも行政府にも腐敗が蔓延しています。彼らを慎重に管理せねばなりません。腐敗の野放しも日本の反感も中国からの嫌悪も気を許せば全て若い広東国へ無視できない悪影響をもたらすでしょう。
日本はまた珠江からの利益を期待しています。数万の投資家が広東へ大量の資本を投下していて、国家レベルでの裏金の見返りを求めています。経済目標が達成されれば、行政長官の地位は強固なものになり、日本の広東への信頼もより厚くなることでしょう。だが期限までに経済目標を達成できなければ行政長官の地位は弱まり、広東の財政を支えるために日本は資金投下を開始します。
財政状況を改善するためには広東は変わらねばなりません。変われるでしょう。広東は巨大な電子機器研究の市場を持っていますが、それは戦争から利益を得ることとは矛盾しないでしょう。南方でマラヤ危機が勃発すると、広東は新しい実験・研究グループである製品試験研究グループ(Product Testing Research Group, PTRG)を試行的に設立します。
研究グループの新ライフルの設計のため、主要三電子機器メーカーの一つを選ぶことになります。研究グループの兵器はまず広東に、そしてゆくゆくは共栄圏全体に採用されるでしょう。
しかし兵器というのはテストを必要とするものです。新装備の試験を行うためにPTRGは戦闘部隊を大勢の研究者と共にマレー半島へ送り前線での現地テストを行います。
進捗を進めるためには、PTRG師団を必要なコンディション下の戦場へ派遣する必要があります。
目標を達成するごとに兵器に改良が重ねられ、戦争が終わるまでに達成できた目標の数に従って共栄圏でのライフル販売から得られる利益は増加します。
5つ全ての目標が達成されれば新設計ライフルの研究は完了し、大東亜共栄圏のために供されることとなるでしょう。
広東の軍事研究界は未熟なため、広東の改革気質と偉大さの中核を成す最先端の電化製品産業の灯火を消してしまう訳にはいきません。これは第三の国家方針で導入されます。招聘された世界トップクラスの日本人技術者、低賃金で抑圧される中国人労働者をバネとして広東は前例の無い速度で改革を進め、国家と会社にさらなる利益をもたらしています。毎年の景気循環が一周するたびに新製品が発表され、この時に行政長官は一つの企業へマーケティングや品質保証のために助成金を出し製品の商業的成功を後押しすることができます。
広東では経済的成功は政治的成功であり、また経済的失敗は政治的失敗でもあります。シリコンデルタでのマーケティングの巧妙さや担当者、そして製品の完成度によって、製品が及ぼす影響は大きく変化します。
一つ確かなことがあります。それは経済成長と安定度のためには商品の商業的成功が必要だということです。商品は行政長官が経済目標を達成する助けになるでしょう。
メカニックスへの理解を深めていただいたところで、実際の国家方針が解禁されます。
4つの枝の内の1つめは中国人からの支持を引き換えに資源産出量を増加させるものです。中国人は好まないでしょうが、資源量の大きな増加は広東国に確実な利益をもたらします。中国人達がこの恨みを忘れることはないでしょう。彼らは新しい部屋を与えられますが、鞄には服以外殆ど何もはいっていないというような環境に押し込まれるのです。
2つめの枝は1962年の製品サイクルでの担当企業決定についてです。松下電器はW-31 エアコンを、富士通はFACOM-222コンピューターを、ソニーはTC-962Aオーディオプレイヤーを売り込みます。もしかしたら他の選択肢もあるかもしれません。
3つめの枝は広東の治安を扱います。警察組織を強化することも広東憲兵隊の指導者である宮崎大佐の協力を取り付けることもできますが、鈴木は日本人のヤクザと協力するか、中国人の三合会と協力するかという岐路に立たされることとなります。どちらと協力するか決めることで地下社会で有用なディシジョン群を解禁することができます。
最後の枝では様々な人口統計を扱い、行政長官が彼らにどのように支持を訴えかけるかに影響します。裕福な日本人エリート、協力的な珠人、過剰労働に苦しむ中国人らはそれぞれ行政長官からの感謝を受けられます。
そしてここで鈴木の賭け、すなわち修正労働基準命令(Labor Standards Ordinance)の立法が始まります。この命令は広東を過剰労働の地獄から救い、この先何十年も生き延びる安定した汎アジア国家に変えるものとなるでしょう。しかし企業にとっては利益だけが最大の関心であり、立法議会を通じて鈴木を妨害します。したがって、鈴木はソニー、富士通、松下、安田の四大企業と交渉する必要があります。
広東のガジェットマスター、ソニーの盛田昭夫はこの法案に最も融和的で、また確実に興味を示します。対照的に富士通の先を見通すエンジニアである井深大は法案には反対を示すでしょうが、鈴木はなんとか彼の企業を操ることもできます。他の選択肢は松下の後継者、松下正治です。彼は必要な妥協次第では立法議会で味方してくれるでしょう。最後は香港での財閥利権を代表する存在である、安田銀行の松澤卓二です。彼は四大企業の中でも最も鈴木に協力的です。とはいっても、松澤も安田も鈴木を政治的後押ししているのは見返りを期待してのことです。
鈴木が自身のロビーイングスキルを活かして4つの勢力のうち議会で反対する2つを口説き落としたとしても、法案通過にはあと少しのところで足りなくなるでしょう。しかし問題ありません。政治の世界に金はつきものです。
多数票を獲得するために買収した議席の数だけ腐敗度は上昇します。法案は議決に賭けられれば確実に通過し、象徴的な法案ではあるものの共栄圏の安定度に貢献し常にオーバーワークを強いられている中国人労働者達を救うことでしょう。
国家方針ツリーの次のセクションは満州帝国が開催する汎アジア経済会議への参加についてのものです。鈴木は昨年の大躍進を披露し共栄圏での広東の地位が上がっていることを示すべく期待を胸に新京を訪問します。
しかし何もかもが計画通りにいきません。広東は中国と日本という二人の巨人の間で身動きの取れなくなった末っ子なのであり、満洲帝国には汎アジア主義というイデオロギーの実験場という程度の大義はあるのに、広東の誕生には企業の利権関係以外何も根拠がないのです。違いを見せつけられた鈴木は広東の可能性を示すため次の経済会議までに満洲帝国を純粋な経済規模で追い越そうと決意します。膨張しきり過伸展を起こした満洲帝国、全アジアの工場を打ち破れるのは技術力と創造力だけです。
会議が終わると鈴木は再び国内政治に目を向けられるようになります。警察組織の強化は必須です。特にいくつかの不快な事件が起きたからにはなおさらです。
ヤクザと三合会の抑圧、日本人の上官と珠人の部下との間の言語的障壁の橋渡しなど必要なことはたくさんあります。そして全てが結合して全般的な治安国家、全ての犯罪者が執行を逃れることのできない電気の「パノプティコン」を目指す野心的な計画が立てられます。
しかし人々が広東国に抱いている印象通り、鈴木の夢とは夢に過ぎず、潰える運命にあります。
広東の財閥の安定性の柱であった安田が崩壊します。四大企業の一つが一夜にして消滅してしまい、最大の銀行が破綻したために莫大な円が経済圏から蒸発します。鈴木は迅速に行動せねばなりません。
事態が落ち着いた後には回復に向かいます。中国人や珠人を助け、日本人投資家を救うなど、鈴木は広東を守るためその権力でできる全てを行います。経済が前後不覚に陥るのを食い止めるための財政安定命令は彼の凄まじい努力を代表するものです。鈴木は広東経済と命運を共にすることでしょう。
しかしそれ以前の問題があります。四大企業と実業家らが鈴木に刃を向けるのです。彼は不信任決議の通過を防ぐために戦わねばなりません。経済計画にとっては痛手ですが、広東を救うより先に鈴木は自身を守らねばならないのです。警察のパトロールを集中させ、ヤクザと協力し、報道機関を弾圧し、実業家を脅迫するのです。鈴木はここを乗り越えるためにはなりふりかまってはいられないのです。
テーマ
再びこんにちは。ThArPiです。美徳と悪徳も、驚きも苦悩も、南シナ海沿岸の小さな地域に特徴的な全てが露わに説明されてしまいました。しかし、一つ大事な疑問がありますよね。これらは結局何の意味があるのでしょうか?この国民無き国家が新秩序にて手に入れたかったものとは何だったのでしょうか?そして私たち、ストーリーテラーが獲得したかったものとは何だったのでしょうか。
勘違いしてはいけません。広東国というのはどのような意図、目的においても存在してはならないようなものだったのです。中華民国から広東省を分離させるというのは現実(OTL)の日本側のいかなる戦後計画にもないものです。歴史的にも似たような枠組みすら存在せず、ブルグンド騎士団領と比較してもなお異常な存在です。広東国とは誕生の過程から完全に偶然的なものでした。これはTNO世界においても、よりメタ的な視点から言ってもです。もしも広東プロトコルがなければ、汎アジア主義を掲げる同胞と対等に立とうとする共栄圏の電気の首都という存在もなく、またTNOのストーリーの中でのフィクション的面白さのためだけに第二の満州国が建国されなければ、これほどまでに色鮮やかな設定や大量のアイディアも無かったでしょう。
これこそが創作物の面白さなのではないでしょうか。この事故と過ちの象徴、空っぽの国家に、新しい命を吹き込み、あなたの選択で意義を与えるのです。過去の呪縛にいつまでも縛られるのは愚かなことです。回転する歴史の歯車の下では、新秩序において自身の未来を鋳造することは広東の権利であり、義務であり、運命でもあるのです。アイデンティティとは広東を人間らしさと尊厳のオアシスにも、富と安定の砦にも、進歩と革新の楽園にも変えられるものです。アイデンティティは特色の異なる三つの制御を失った資本主義から、シリコンデルタにそびえる三人の巨人から生じます。もはやその精神の基盤である日本にも肉体の提供者である中国にも絡み取られることはありません。
10年間の動揺する歴史上で、広東国の物語は単なる創作国家の話ではないのです。この物語はアイデンティティの物語であり、偶発的な驚異と悪夢の話物語でもあり、確かに非現実的ではあるかもしれませんが、私たち広東チームが語りたかった物語なのです。我々が完了させ、国家という巨大な船が皆さんの手に渡れば、あとはこの開発日誌が皆さんが正しい航路を進む助けになるのを願うだけです。
だから見届けてください。渦巻く中で傷だらけのアイデンティティーが3つの真珠の街角に定着するのを。そしてそれと共に潜む仄暗いものを見てください。ここにはいつも「品物」の箱、小部屋での握手、獅子の心臓を持つ男達の命がけの交渉があります。警棒を振るう音、カメラの回転音、薄暗い裏路地で笑う男の見せる金歯があります。「セーフティ」ネット、ひび割れて厚ぼったくなった手、コンクリートの大地を覆い尽くすスモッグがあります。移住者と地元住民の、汎アジア主義の理想と泥まみれの現実の、大きく開いた分断と対立があります。ネオンビルボード、広告用スピーカー、企業の看板に、幾人もの人々が集い、混じり合い、自分の人生を生きているのです。
そこにはいつも不安と恐怖があり、そして我々が過ごさねばならない日常があります。