#82 スペア x 誰かを演じる
人は皆コミニティーに属することで
自分の居場所のようなものができる
不思議と役割り分担みたいなものができて
人が求める姿
人に求められたい姿
私はこういう人です
それを少しずつ演じ始める
私が座っている椅子は
いつしか私だけの特別なものに変わっていく
どこにでもあるただの椅子
でも私だけの特別な椅子
そこに小さな生きがいが生まれる
パズルのピースの一部になって
この日常の景色の一部になって
私は誰かに必要とされて
私は誰かの必要になっていく
変わらぬ景色をただ見つめ
変わらぬ景色に守られて
毎日通う道すがら
何度も通ったこの景色
コンビニが潰れマンションができた
コンビニの前は何だっただろう…
あんなに見つめた誰かの顔も
おぼろげにただ過去になる
毎日観ていたはずなのに
「大切だった」を思い出せない
でも考えている暇もなく
私を誰かが必要とする
私は世界の時計を回す
私の正義のために
季節は知らぬまま春が終わる
私のためには桜は咲かない
でも私を誰かが必要とする
仕方がない部屋に花を飾ろう
小さな部屋の
小さな窓辺
私だけの小さな花瓶
私だけが知る角度
私だけの時間
のぞまなくても時計はすすむ
私の何かがサビついていく
誰かが新しい椅子を買った
新しいテーブル
新しいカーテン
新しい人間
新しい風がカーテンを揺らす
小さな花瓶が倒れる
音を立てて割れた
「新しい」がいっせいに群がり
私の花瓶を片付ける
ふと後ろを振り返る
私のいた場所に
誰かが座っている
私とおんなじ格好をした
私じゃない私
…「私」は何だろう?
私は私の椅子を探した
積み重なった椅子の中から
必死に私の椅子を探した
あれ…前にもこんなことあったなぁ
私はキーケースから
私の世界の鍵を外した
私の正義がなくなった
そして私がいなくなった世界で始まる
何事もなかったように
世界が今日も動き出す
私がいなくなった世界が
楽しそうにわらってる
私を悲しんでくれた人が
満面の笑みを浮かべている
私の存在が少しずつ
何事もなかったように消していく
私を必要としていた人が
私を過去と呼んでいる
コンビニがあったマンションの前で
変わってしまった景色を見つめる
そして私は淡々と
また何かに属そうとする
新しいドアの前に立ち
ノックをして扉を開ける
知らない誰かを知りながら
知らない誰かを満たしていく
スペア