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▶️自作脚本◀️Tempo Rubato 最終場

 コンサートホール。

 カズナリがそわそわしながら観客席に座っている。
 そこへ、正装のトワがやってくる。

トワ    来てくれてありがとう、一成。
カズナリ  何だよ、いきなり改まって。まさか、ここ貸し切りにしたのか?
トワ    うん。一成にだけ、聞かせたいものがあるんだ。その前に、俺、来月から海外に行く。ドイツに行くんだ。
カズナリ  は?ドイツ?来月から、いつまで?
トワ    分かんねえ。
カズナリ  え?
トワ    俺の気の済むまで。
カズナリ  そんな。
トワ    だから、その前に、絶対お前に聞かせたい音があるんだ。聞いてくれるか?
カズナリ  ……ああ。

 トワは観客席に一礼し、ピアノの前に座る。
 トワがピアノを弾き始める。
 カズナリとの思い出、自分に新しい名前をくれたあの日に恋をしたこと、ずっと好きで、今も好きで、本当は別れたくないけど、もうお別れなこと。全てをピアノの音に乗せた。
 演奏が終わり、トワは立ち上がり、礼をする。

トワ    ……泣くなよ。
カズナリ  だって、ごめん。俺、俺、永弦が好きだよ。
トワ    でも、俺のとは違うだろ。
カズナリ  ……ごめん。
トワ    謝らなくて良い。俺は、お前と一緒にいられるだけで、それだけで、良いんだ。
カズナリ  ……。
トワ    あーあ。言っちまったなあ。あ、来世があるなら、俺は一成と一緒が良い。
カズナリ  一緒って?
トワ    同じ人。
カズナリ  どういうこと?
トワ    俺とお前が一緒、同じ一人の人間として生まれたい。
カズナリ  永弦と同じ人間になるのか……?
トワ    そういうこと。
カズナリ  ……それ、良いな。ずっと一緒だ。
トワ    ああ。ずっと一緒だ。
カズナリ  じゃあ、一緒に音楽続けられるな。
トワ    良いな、それ。俺本当は音楽なんて好きじゃなかった。家族のために仕方なくやってた。でも、一成が俺のピアノ好きなら、続けられる。
カズナリ  うん、俺、永弦のピアノ好きだよ。
トワ    ……ありがとう。ありがとうございました。

 トワが深くお辞儀をする。
 カズナリが拍手をする。
 トワが顔を上げる。
 カズナリが舞台に上がり、トワを抱きしめる。


▶️おしまい◀️


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