34.散文詩 ≪あったかい小さな生命≫
夕方五時半とはいえ、真冬ではもう暗い。
久美子は、夕飯の支度前に、毎日の日課でもあるウォーキングに出かけた。
住んでいる住宅街から、少し外れたところで、
何やら、ミャー、ミャーと、弱々しい、微かな鳴き声が聞こえた、
久美子は歩くのを止めて目を凝らした、
どうも道路沿いの側溝から聞こえてくる、
覗き込むと溝に落ちた大きな石と石の間に挟まれて動けないようだ、
生まれてまだ日も浅そう。
久美子は、猫は好きではない、子供の頃、
引っかかれた経験がある、
それゆえ、あまり関わりたいとは思わなかった。
が、少し迷った挙句、驚かせないように、怖がらせないように、
そーっと近寄り、子猫を持ち上げ、
道路上に、そーっとおいてやった。
子猫は温かかった、生命を感じた。
子猫は、ヨロヨロ立ち上がり、
そしてヨチヨチと動き出した。
ちょっと心配で、そのままついて行きたい心持ちでもあった、
ほっておけないような気になった、
が、ウォーキングの途中でもあり、
子猫が遠くまで歩いたのを見届けてから、その場を離れた。
きっと暖かい母猫のもとに帰り着くだろう。
久美子は、
家に戻っても子猫のことが
気になって仕方がなかった、
あのまま、あそこで挟まれたままだったら、夜は凍てつくような寒さ、
子猫はどうなっていただろう、
少し、良いことをしたと思った。
あの小さくて温かい生命の感触が、手のひらに今でも残っている、
なぜか可愛くて、愛おしくて仕方がない。
猫好きな人の気持ちが、ほんの少しだけど、分かったような、
あの小さくて、温かい生命を、
シッカリと胸に抱きしめたい、
と思った。
そして、元気に育ってほしい、と祈った。
幸せ詩集 『愛おしき人々』 著:中村とうご より
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生命の重さを知る、それは心を持つ人間の優しさの世界かも、
折角の二度と無い人生、仲良く楽しく幸せに生きましょう(H/P 書窓けやき通り)