【レビュー】ルノー トゥインゴ インテンス(EDCターボ)
2017年に新車で納車し、乗り続けてきたルノー トゥインゴ、そのEDCモデル(デュアルクラッチ トランスミッション+ターボエンジン搭載の通常モデル)に関して、記憶のあるうちに感想を述べておきたい。
もう発売終了しそうだけど、購入を迷っておられる自動車好きのかたのほんの僅かでもご参考になればと思い。
※本稿では、トゥインゴ初代、二代目との区別のため、この車のことを「トゥインゴIII」と書く。
感想の要約
小気味よく、(外車にしては)比較的安価に乗れて走れる優秀な5ドアハッチバック
積載性重視のかたには不向き
内外装は値段なりにお安い、フランスブランド=高級志向 のかたには厳しい
リアエンジン、またはリアドライブ、あるいはその両方が好きというかたには良い選択肢。見た目で決めても全然良い
1000ccNAより900ccターボのほうが出力は上だが、ノンターボのMTがダメということはない
①安価にキビキビ走りたいニーズに応える一台
ルノー トゥインゴIIIがどういう歴史を辿った自動車なのかは、既に色々なWebページで詳しく語られているだろうからここでは省略する(大雑把に申せば、昔のルノー5ターボをオマージュした、RRレイアウトの3代目トゥインゴである)が、この車はたいへん元気が良い。たった900ccのH4B DOHCターボエンジンが「リアに配置されること」によって生み出されるパワーは、カタログスペック以上に高い。迂闊に雑に踏み込んだら文字通り”かっ飛んでいく”レベルで走り出す。なまじ見た目が可愛らしいもんで、外車を知らないドライバーからはトロく見られがちの車なのだが、実際はシグナルダッシュで後ろから突っつかれる回数は少ないと考えて良いだろう。非力な軽自動車やミニバン、エコドライブモードが普及した現代においては、人によってはパワー過剰で怖いと感じるかもしれない。80km/hまでは正気を逸脱しない程度にストレス無く速い。それがトゥインゴEDCターボである。
足回りは、正直並のレベルと思う。少なくともGTでない通常モデルのトゥインゴIIIは、足が硬いとか、特段粘ることはなく、どちらかというともうちょっと踏ん張る設定にしてくれたほうがコーナーを攻めやすいのに、と思うくらいではある。一般大衆車の目線で申せば、リアエンジン車ということでリアが硬めに仕上げられており、段差を踏んだときにドカドカ揺れるなぁという感想を抱くかも知れない。少なくとも、マツダ2のようなバランスの良い上品な足回りではないし、トヨタ車のようなお花畑的フワフワ感もない。試乗の際には、敢えて段差のある路面を通行してみて、リアのギャップの感覚をチェックしてみると良いだろう。
当のルノーがアピールしている通り、トゥインゴIIIの旋回半径は4.3mと非常に小さい。具体的には、日本国内の、よほど狭い道でなければ2車線あればその場でUターンが出来てしまう。ちょっと強引だったかな、という狭さでもキッチリ曲がりきれる。これをもしお求めなのであれば、評判通りの小回りであるとお答えしたい心持ちである。
②貨物車としてはギリギリ及第点
トゥインゴIIIは、かつて販売されていたスマート フォーフォーとプラットフォームを共有している自動車で、リアエンジン&リアドライブのレイアウトを持つ。ゆえに、後部ハッチ内の荷室は、底面に潜むエンジンによって高さが圧迫され、その辺にある普通のFFベースハッチバック(例:マツダ2、ヤリス、マーチ等)よりけっこう狭い。どのくらい狭いかは、お近くのルノーディーラーなり中古屋に足を運んで見てみて頂きたいのだが、自分は特にルノーから袖の下をもらっているわけではないので、「狭いと感じる人にはお勧めはできない」と素直に書くことにする。リアエンジン車は割と、フロントのハッチ内に多少の収納スペースを持つことがあるが、このトゥインゴIIIにそれはない。あくまで、リアハッチ内の収納スペースで生活出来る人向けの車だといえる。この点は重要なので、この車を実車チェックする際には、日常的に積載したい荷物が入るかどうかをチェックすることをお勧めする。エンジンがリアトランクの下にぶら下がる関係上、底がやや温かくなるので熱に敏感なかたはそこも注意。
ご参考までに、トゥインゴIIIのリアハッチ内の収納には、20リッターの灯油のポリタンが3つ入る。日常使いの収納スペースとしては高さの確保がやや厳しいかも知れないが、案外なんとかなるサイズとは書いておく。
見た目より車内のスペースが確保された形状をしているため、後部座席の居住性はこのサイズにしては悪くない。決して快適ということはないのだが、身長180cmの人でも頭を打たないのは偉い。
③どこをどう見ても高級車ではない
これだけ日本車が高いクオリティを極め、日本人にピッタリ合った各種自動車を競い合うように発売している中、敢えて高コストの割に低信頼性やクセ、要するに値落ちの激しくリセールバリューの低い外車を選ぶとしたら何であるか? 重要なテーマである。ベンツ、BMW、アウディのドイツ御三家は高級ブランドとして確立しているので理解しやすいのだが、その他は? イタリア車は「痛車」と揶揄されたほど、かつてしょっぱい作りと故障に悩まされ、イギリスはもう親会社が外国の車ばっかりになった。スウェーデンの雄、ボルボも親会社が中国なんて情けない状況になってしまった。では、フランス車は。なんだこの奇抜な自動車は? って思われていやしないか心配するほど、近年のフランス車はデザインが夜空の彼方にぶっ飛んでしまっている。特にシトロエンがひどい。(※個人の感想です)そんな傾奇者フランス車にあって、割合まともな部類に入るのがルノーではないかと個人的には考えている。が、そのルノーも高級車ブランドとは思えない。ルノー車は、アルピーヌA110なんて特殊なものを除けば、特段高級車をラインアップに揃えている訳ではない。日本人にとってのフランス≒パリ みたいなおしゃれ路線を狙ってはいるが、自動車そのものはトゥインゴIIIを除けば基本的にFFベース、リアサスは基本トーションバーサスペンション、2024年時点で560万ほどするメガーヌR.S.を除けば、安価に作られ、安価に売られる大衆車メーカーと言って良いと思う。JPY-ユーロが円安に傾く時、値上げをするのは欧州メーカーどこも同じであるが、その中でもルノーはまだ、値上げ幅は頑張って抑えているほうだと言って良いだろう。抑えているということは、内外装はドイツ御三家みたいなキチっとしたハイブランド志向ではないどころか、必死にコストダウンしながら生き長らえている、ということ。例えば、このトゥインゴIIIは、出たばかりの頃にはあった装備のいくつかが、後期モデルでは省略されている。具体的には、リアのリフレクター(反射板)やフロントのランプ(前期にはステアリング方向に応じて光るランプが左右に配置されていたが、後期で省略された)、内装で申せばサングラスホルダー、小さいところではセンターのカップホルダーの仕切りなど、色々な部分がコストダウンの影響で省略されている。元々、このトゥインゴIIIはA、またはBセグメントの一般大衆車として作られてはいる。内装は決して豪華絢爛ということはなく、プラスチックが目立つ、良くも悪くも開き直った作りをしている。個人的には8万km乗ってどこかが壊れたり外れたり、ということは特に無かったので決して低品質ということはないのだが、内外装に不安をちょっとでも覚えたくないというかたは、いつの時代もそうではあるが、デザインが受け付ける限り、素直にトヨタあたりにしておくと良いだろうと思う。
まあ、1つ申し上げると、塗装の品質は思っていたよりずっと良かった。少なくとも6年の酷使に特に色褪せることなく、そこそこキレイなボディでいてくれた。
④RRが好きでも、好きでなくても、見た目で選んでも好きになれる不思議な魅力
車オタクからすれば、リアエンジン・リアドライブ(RR)レイアウトの車がこのご時世どれほど貴重か、ということについて異論を挟む余地はないと言えるだろうが、そんなことは、多くの一般人にとってはどうでもいいことだ。車が「かっこいい」または「かわいい」か、自分の感性に合うか、理屈なんか解っていなくても、なんとなくでデザインや走りの特性を気に入るか。多くの人にとって自動車選びのポイントはいつだって変わらず、理性をやや超越したところにある。誰だって、自分が気に入った姿かたちの車を買って乗りたい。トゥインゴIIIは自分にとっては、とても良い形のかわいい車だった。幸いなことに自分の家にとっては、後輪駆動で、20リッターのポリタンが3つ入れば問題なかった。だから、購入後に所有したことを後悔したことはない。自分が気に入った車を買う、というのは大事なことだと考える。
褒めてばかりではフェアではないので、トゥインゴIII(EDC)の弱点というか、ダメと思えたところを書き記しておこうと思う。
(DCT制御のせいなのかは知らないが)ファジーな=中途半端 な加減速の連続操作に弱い。アクセルを微妙に踏んだり抜いたりの連続があると、シフトチェンジが普通のATと比べて遅れるというか、違和感を覚えることがある
リアカメラが付いていないモデルの場合、後方の死角が結構多いのでバック駐車にやや気を遣う。※これはリアエンジン車の宿命である
エンジンはよくある3気筒。回転数が低い場合、ステアリングがプルプル震える。振動が気になるかたは要注意
EDCモデルの変速機(ゲトラグ製6DCT150)は、エンジンパワーに対してクラッチ容量は十分で10万kmには余裕で耐えるとされるが、距離が延びると、走行シーンによっては変速レスポンスが低下したりすることがあるようだ。走り方によるのかも知れないが、念のため書いておく。(6DCT150自体は少なくとも8万kmノートラブルであった)
バッテリーの潜むフロント内部へのアクセスは良くない。交換はだいたいどなたも自力で出来るだろうが、なんでこんな作りにした!もうちょっとどうにか出来たろルノー。
⑤エンジンの選択は悩ましい
はじめからAT、つまりDCTモデルで良いのなら、個人的には迷わず900ccターボ(H4Bエンジン搭載)のトゥインゴをお勧めする。山道を含め、無理なく加速して走りきれるのはこちらだからだ。並のダンボール型国産車では到底追いつくことが出来ないくらいのパワーはある。峠道はエコモードを切らないとギクシャクするだろうが、それでも小排気量車にしては十分なパワーとトルクだ。ジェレミー・クラークソンは満足しないだろうが、ジェームズ・メイはきっと満足することだろう。DCTの操作感覚については、試乗してみてとしか言えない。世に出回っている、トルクコンバーターが仲介してしっとり動力を伝える普通のATとは感覚が違うので、意識して踏んだり減速したりしてみて欲しい。減速時にややシフトショックを感じやすいのは、トゥインゴ搭載のDCTが構造上MTに近い乾式のトランスミッションだからである……。そこを受容できるかどうかは、ご自身の素直な感想に従ってください。(ルノーも上位モデルは湿式DCTを採用している)
MT車が欲しいという変わり者にとって、トゥインゴのエンジンの選択肢は非常に悩ましいものとなる。並行輸入車の場合はわからない(H4B搭載のMTが確かあった気がする)が、ルノー・ジャポンの仕入れる正規輸入車に限って言えば、MTに乗りたければ中古のトゥインゴGTを探すか、あるいはH4DまたはB4D搭載のトゥインゴ ゼンまたは最終型のインテンスMTを探すしかない。H4D、B4Dは要するにターボなしの1リッターエンジン。正直性能は似たりよったりである。平地で苦労はないのだが、峠道ではキチンとシフトダウンさせないと簡単に失速する。ちょっと頑張って回さないと、DCTターボのトゥインゴのような加速は出来ない。早い話が、現実的にいまからMTのトゥインゴに乗るのなら、ターボで得られるはずだったパワーと引き換えになる。ついでに申せば、MTモデルは足のスペース上、フットレストが無い。ギアチェンジのときに左足をどこに置くかでやや悩ましい問題を抱えることになる。(特に、マツダのように足元に余裕を持たせる会社の車に乗っているかたにとってはツラいかも知れない)
トゥインゴに興味をお持ち、かつMT好きのあなたが本当にMTに乗りたいのか、それともDCTモデルで事足りるのか、その結論を下すには、きっと長い沈思が必要となるだろう。
裏技というほどではないが、最後に1つだけトゥインゴ(ルノー車の結構な車種?)の便利な仕様を書いておく。
この車、フロント、リアのどちらのドアも、バタンと閉めなくても、ハマる手前までゆっくり閉じて、最後ウィンドウの付け根あたり(フロントドアならBピラー側、リアなら取っ手のそば)をそっと押し込むように押すことで「カチッ」とクリック音がして静かにドアが閉まる。
深夜に帰宅したときに重宝するので、この車をチェックされた時に試してみて欲しい。
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