【コラム】ドイツの学校における『いじめ問題』
学校での 『いじめ』は、ドイツにおいても例外的な問題ではなく、深刻化しています。『いじめ』は、被害者が長期間にわたって繰り返し受ける、一人または複数の者による身体的・心理的暴力を内包します。身体的暴力には殴る、押す、蹴るなどが、そして心理的暴力には、侮辱や罵倒、その他のハラスメントが含まれます。また、心理的暴力の一形態としての 『サイバーいじめ』は、インターネットや携帯電話のサービスを利用して、長期間にわたって行われる傾向があり、それはデジタルメディアの普及に伴って増加しているといえます。
『いじめ』に関する調査は、ドイツでも数多く実施されています。そこで今回は、『ドイツ連邦議会の科学サービス(Wirtschaftliche Dienste des Deutschen Bundestages (WD)、ドイツ連邦議会議員に対して、特定のテーマについて情報を提供するための機関)』が、2018年10月に公表した報告書を基に、『いじめ』に関するドイツの実態を把握したいと思います。
ドイツにおける学校での児童生徒や教育関係者に対する『いじめ』の頻度についてWDは、様々な研究や調査結果を紹介しています。それらの内容は、次のとおりです。まずは『生徒間のいじめ』から。
15歳の学童を対象とした、3年ごとに繰り返されるPISA調査によると、2015年にはドイツでは平均16%の生徒が定期的に『いじめ』を受けていました。また、ドイツでは15歳の学童の約2%が身体的暴力を受けたことがあると、同調査は報告しています。
ドイツ全土の12歳から19歳までの若者1,200人を対象とした電話調査では、5人に1人が、デジタル情報や通信手段を介して、自分自身に関する誤った内容や攻撃的な内容が複数回流布されたことがあると回答しました。また、同調査によると、『いじめ』の影響をもっとも受けたのは、16~17歳でした。
11歳・13歳・15歳児の健康に関する調査では、調査対象となった11歳の男児の11%、女児の9%が「月に2~3回以上いじめられたことがある」と回答しました。15歳児では、割合は男子が6%、女子が8%でした。
教師への『いじめ』も、軽視できない問題です。教員計 1,951 名を対象とした電話調査では、調査対象者の23%が心理的暴力を受けたと回答しました。また、29%が『サイバーいじめ』を経験。身体的暴力を受けたと答える割合は、ギムナジウムが9%、実科学校が16%、そして小学校が33%でした。
他者をいじめる動機としては、権力の誇示や復讐、他者が苦しむのを見る喜びなどが挙げられます。他者を誹謗中傷することで、加害者はクラス内での自分の地位を強化したり、確保しようとするのです。とりわけ『サイバーいじめ』は、被害者にとってストレスや自尊心の低下、パフォーマンスの低下、社会的孤立、うつ病、睡眠障害、人生への満足度の低下などの悪影響をもたらすことから、ドイツにおいても深刻な問題として認識されています。また、被害者の14%がアルコールや錠剤に助けを求めるほか、5人に1人は自殺願望を持っているという調査結果も出ています。
ドイツでは16ある州が教育政策に関する権限を持っていますが、児童・青少年福祉については、それが国と州の両レベルに関わる課題であることから、ドイツ政府も関与しています。例えば、連邦家庭・高齢者・女性・青少年省(BMFSFJ)は、「他の信仰を持つ人々に対する憎悪や暴力を抑制し、寛容さと民主主義への理解を促進する」という観点から、学校を支援。当プロジェクトの一環としてドイツ政府は2,000万ユーロを拠出し、いじめ防止専門家170名を学校に派遣させています。
また、2018年には、小学校におけるいじめ問題を扱う『子どもたちを強くする!』プログラムが発足。いじめの重大さを、早い段階で生徒、保護者、教員に認識させることが当プログラムの目的です。
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