【コラム】PISAショックからドイツが得た教訓
ドイツにはVorlaufkurs(就学前教育)やGanztagsschule(終日学校)などの教育政策が存在しますが、①それらの教育政策と②以前にお話しした『PISAショック』は密接に絡んでいます。その背景を今回、整理したいと思います。
初回(2000年)のPISA調査においてOECDの平均点を下回り、その後も奮闘を続けているドイツですが、その原因の一つとして「移民の背景を持つ子ども(注)」が挙げられることは、前回お伝えしたとおりです。「本当にそうなの?」とも思ったのですが、やはり①ドイツのPISA結果と②「移民の背景を持つ子ども」には因果関係があるようです。
下のグラフは、移民の背景を持つ・持たない者(0 - 20歳)の人口推移を示しています。なお、データが入手できた年のみを表示しているほか、移民の背景を持つ者を『移民』、持たない者を『非移民』と略しています。それによると、非移民は少子高齢化の影響で減少傾向にあるのに対して、移民は増加していることがわかります。とりわけ、2015年9月5日のメルケル首相による『Wir schaffen das(我々にはできる)』声明後における移民人口が著しく増加しているのが興味深い点です。
上記を受けて、「ドイツ語を母語としない児童生徒に対して、より良い教育の機会を提供し、教育の機会均等を推進することによって全体の底上げを図る」ことが推進されることになりました。代表的な具体策は下記のとおりです。
就学前教育の重視
移民の背景を持つ子どもの就学時における不十分なドイツ語能力が学習に影響を与えていることへの対策として、就学前にドイツ語能力試験を実施し、必要に応じて就学前にドイツ語に触れる機会を増やす政策が進められるようになりました。これが、Vorlaufkursです。
柔軟な学校導入段階
子どもの習熟度に応じた学年配置を行うために、Grundschuleによっては、1年生と2年生を学年混同クラスとするケースが見受けられるようになりました。これを「柔軟な学校導入段階(flexible Schulanfangsphase)」と呼びます。つまり、学習発達が早い子どもは、1年で3年生へと進級することが可能となったのです。
終日学校の拡大
家庭環境が学校での成績に大きな影響を与えていることへの対策として、終日学校(Ganztagsschule)が拡大されるようになりました。放課後の家庭での学習量に起因する個人差を少なくするためには、午後の時間を学校内外(学童保育所など)で過ごす必要があり、終日学校はその答えであるといえます。
子ども達が何気なく通っているVorlaufkursやGanztagsschuleですが、背景がわかると、その意義をより実感しますね。
(注)「移民の背景を持つ者」という表現は、連邦移民難民庁の定義により、「1949年以降に現在のドイツ領に移住した者、ドイツで生まれた外国籍の者、あるいはドイツ国籍所有者のうち、親の少なくとも一人が移住者であるかドイツで生まれた際に外国籍だった者」を意味し、2000年代初め頃から「外国人(Ausländer)」や「移民(Migrant)」といった呼称に代わる概念として用いられるようになりました。
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