2023年10月に読んだ、おすすめの本 その1
10月に読んだ本の中で、おすすめの本を紹介する第1回です。今回は、発売済みの『文芸/ホラー/ミステリ/SF 等』から10冊を紹介します。
🌟発売済み『文芸/ホラー/ミステリ/SF 等』
「あの日、少年少女は世界を、」 櫻いいよ 著
地道な地域のヒーロー活動を小学校時代に辞めた実と、高校生で同じ事を実行している聖良。子供の頃に夢破れた実は、その夢を貫いている彼女から誘われるが、断固拒否する。そして、聖良の正体がバレ、行っている事がSNSで拡散してしまった時、実にとっての本当の物語が始まる。正しいとは、悪いとは。戦うとは、逃げるとは。そして、守ることと助けることとは。それらについての、実と聖良がやり取りが圧巻。 そして最後に、海に腰までつかった二人は、「世界」をどのように見たのだろうか。
「怪獣保護協会」 ジョン・スコルジー 著
無数にある平行宇宙の中で行き来できる世界は、なぜかただ一つだけだった。そこは全く異なった進化の結果、「怪獣」が生態系の頂点を占める地球。ではなぜ、KPS(怪獣保護協会)という汎地球的組織が必要なのか? 軽快なテンポで語られていく並行世界の様子。特にそこのタナカ基地ゴールドチームの新人メンバー達のやり取りが楽しい。
各SF賞を受賞している「老人と宇宙」シリーズやスター・トレック愛に満ちた「レッドスーツ」などのジョン・スコルジーの、これは「初代ゴジラ愛」に溢れた怪獣SF。
「QJKJQ」 佐藤究 著
両親と兄妹の4人全員が、オリジナルの殺し方をもつ猟奇殺人鬼の家族。ところが、兄が殺されたのをきっかけに、妹の亜李亜は現実と狂気の狭間に自ら踏み込んでいく。「Q.J.K.J.Q.」とは何を意味するのか。 それは、猟奇殺人鬼家族の信じがたい秘密と、さらにそれさえも単なる一部としてしまっている、あまりにも大きな規模の「枠組み」を読み手に突き付けてくる。その異様なめまい感を、ひたすら読んで追っていくしかなかった。
「神々の歩法」 宮澤伊織 著
「憑依体」が人に取り憑くことにより、高次元の力による殺戮が始まってしまう。それに対する反撃(神殺し)は、高次元センサーを装備した戦闘用サイボーグが、憑依体と同じく高次元を感知して行うダンス(歩法)によるの攻撃しかなかった。しかし、様々な特性を持つ「憑依体」に対し、その恐るべき力が完全発揮されるまでの60時間内に、いかに対処いくのか?そんな 綱渡りが続く連作短編集。
宮澤伊織の新作、主人公の性別が変わりパワーアップしたハチャメチャSF「ウは宇宙ヤバイのウ! 新版」、更に爆笑SF「ときときチャンネル」の前に、復習の意味で本作を再読した。ハードな科学知識満載なのは同じだか、この2作とは方向性が真逆の重厚なSF。この続編がぜひ読みたい。
「私は命の縷々々々々々」 青島もうじき 著
遙か未来。人類が存在する至上命題は「様々な生物の存続」となっていた。人類の生殖の多様性を後天的に付与できるまでに生物科学が発達したその時代では、高校の3年間できめる『進路』は、「どのような生殖型/生活環を選択するか」だった。その過程で、様々な上級生、同級生らとふれあいながら、主人公セイの思索は深く深く沈んでいく。
3章から終章までのその思索は、まさに正座して熟読すべきものだった。
「アリアドネの声」 井上真偽 著
巨大地震で地下5階に取り残された、三重障害の女性の救出を目指す人々の、驚くべき叡智。しかし、それを上回る障害が次々と立ち塞がってくる。 読んでいて、最後のシーンで畏敬の念を抱いたのは、人の持つ…………
井上真偽先生は、『その可能性はすでに考えた』や『探偵が早すぎる』、最新作の『ぎんなみ商店街の事件簿』のSister編/Brother編などと、ふたひねり以上したミステリの名手。 更にこのような作品まで。更にこれからが楽しみになった。
「花咲小路一丁目の髪結いの亭主」 小路幸也 著
「花咲小路」シリーズの第6部。
花岡小町一丁目にある「バーバーひしおか」の旦那は、いわゆるぐーたらの「髪結いの亭主」。でも、 無類の美術鑑定眼を持つその旦那が、〈怪盗セイント〉の正体に気づてしまった。彼が「バーバーひしおか」の店員せいらや外国から帰った息子らと企む、〈怪盗セイント〉に対する陰謀事とは? 後半のどんでん返しの連続の果てに着地した結末は、読者ももちろん旦那も全く予想していないものだった。 それにしても、〈呪いの絵〉から〈呪い〉だけ盗んだ経験のあるセイさんって、いったいどれだけすごい怪盗なんだ。
「花咲小路四丁目の聖人」(2011)からの連作も、次の第7部「花咲小路二丁目の寫眞館」(2022)まで出ている。花咲横町商店街に住む個性的な人々の絡みの様子が、時の移り変わりに合わせて描かれていくことに愛着がわく。まだまだ続いてほしいシリーズ。
「ヘルメス」 山田宗樹 著
2029年小惑星衝突の危機を辛くも脱した人類は、小惑星の追突に耐えられる地下都市のモデルとして、世界に三つ、地下3,000mに実験都市をつくった。しかし日本の地下都市は、実験終了時にその住民の意思で連絡を絶つ。2099年に小惑星が再度衝突する可能性が指摘された2073年、その実験都市から18年振りに生存者が1人帰還する。なぜ一人だけ生き残ったのか? それが社会に与える影響は? 小惑星衝突による人類滅亡に対する、ある家族の70年3世代の相克が描かれる、壮大な黙示録。
「十戒」 夕木春央 著
携帯電話の電波も通じる、陸からほど近い小島に渡った9人。そこで一人が殺される。しかし、他の8人は〈十戒〉に縛られ、犯人を探すことも殺人事件を通報することも禁じられてしまった。更に指示された行動に従わざるを得ない中、更に殺人が続いていく。 〈名探偵〉もいない中で、残った者達はこの状況を打破することはできるのか?
「方舟」に続く、特殊状況ミステリ。
「幽世の薬剤師 5」紺野天竜 著
300年前に「幽世」を「現世」から分離した金糸雀が昏睡した。それと、不老不死のはずの八百比丘尼達の死に関係はあるのか? 暗中模索の果てに、頭がキレすぎる空洞淵は、〈伝奇ミーム〉と医学の両観点から、「八百比丘尼達の死」だけでなく「死神」などの今までの怪異さえも一括して『説明してしまう』。「ミーム」(模倣子)が「ジーン」(遺伝子)を含め全てを支配するこの「幽世」ではそれが何を呼び起こしてしまうのか、全く自覚もせずに。 次巻、どうなってしまうのか?
魅惑的なキャラ、こより先生の装画、練り込まれた設定と三拍子揃った大好きなシリーズ。 ミームが裏設定の本は他にもあるが、世界の基盤、さらに謎解きまでに〈伝奇ミーム〉が直接関わってくる本作は発想そのものが凄い。特に今回の終末には呆気にとられた。