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イスラエルの主張を信じていいのか?

5月6日、共同通信を始め、世界中のメディアが露のプーチン大統領とイスラエルのベネット首相の電話会談時に、プーチン氏が露のラブロフ外相のヒトラーを巡る『発言』について謝罪したと報道した。これらの報道に元ネタを提供したのは、イスラエル首相事務所のプレス発表だ。今回は、メディアではなく各国の正式発表とヒトラーのユダヤ血縁について考えてみたい。

イスラエル首相の言い分

イスラエルのベネット首相事務省の発表を要約すると次の様な内容となっている:
「ナフタリ・ベネット首相は、本日(2022年5月5日、木曜)ロシアのウラジーミル・ぷ0沈大統領と電話会談した。首相は、マリウーポリのアゾフスタルからの民間人の避難を依頼。この依頼内容は、昨日ベネット首相とウクライナのウォロジーミル・ゼレンスキーの会談の結果としてまとめられている(整合されている)。プーチン大統領は、負傷した民間人を含む、民間人を国連と赤十字の人道回廊を通じて批難させることを約束した。また、両首脳は、ラブロフ露外相の発言について議論を行った。首相は、ラブロフ氏の発言に対するプーチン大統領の謝罪を受け入れ、ユダヤ人とホロコーストに対する大統領の考えを明確化したことに感謝した。ベネット首相はイスラエル独立74周年記念の祝福の言葉に感謝を述べた」。

露大統領の言い分

イスラエル首相のプレス発表と同日、クレムリンからも同じ電話会談の報告があった。内容ははだいたい以下の通り:
「大統領はナフタリ・ベネット始め、イスラエル全国民を本日祝われている独立記念日に温かく祝福した。双方から露以間友好的関係の更なる発展と両政府間関係維持の重要性について認識合わせが行われた。ウクライナ情勢についても意見交換が行われた。特に、国連および赤十字との連携の下、アゾフスタル域内からナショナリスト過激派武装組織によって拘束された民間人の避難を含む人道的側面について注意が払われた。ロシア軍は今後も、民間人の安全な避難を支援する。一方、アゾフスタルに残っている武装勢力には、ウクライナ政府が戦闘停止と武器の返上を命令すべき。

5月9日の大祖国戦争(第二次世界大戦)勝利記念日を目前にした今、プーチン大統領とベネット首相は、当時の歴史的事実とホロコーストの犠牲者を含む命を失った全ての人の記憶を称える両国にとってのこの日の重要性を強調した。露大統領は、ナチスによってゲットーや強制収容所で苦しめられ、殺害された600万人のユダヤ人の40%がソ連国民だったことを想起するとともに、イスラエルに暮らす退役軍人への健康と幸福の意を伝える様依頼した。一方、ベネット首相は、ナチズムに対する勝利に於いて赤軍(ソ連軍)の決定的な貢献について言及した」。

ラブロフ外相の『発言』

ではそもそも、イスラエルのベネット首相が気にしている、ラブロフ露外相の発言とはというと、5月1日のイタリアのメディアセット社へのインタビューのことだ。全文だと長すぎるため(文脈を理解するために全文読んだ方がいいのは間違いないが)、記者の質問とラブロフ外相の回答のセットだけを紹介したい:
質問:「貴方とゼレンスキー大統領の見解が異なります。彼(ゼレンスキー大統領)は、非ナチ化は無意味だと主張しています。彼もユダヤ人です。『アゾフ』のナチは少数派で数千人を過ぎません。ゼレンスキー氏は貴方の現状の見方を否定しています。貴方はゼレンスキー氏を平和への道での障壁と見ていますか?」
回答:「私は、ゼレンスキー大統領は何を否定して何を否定しないかには興味がない。ロシアではこういう時は、彼にとって「一週間の7日間が金曜日だ」という。彼は一日に数回言い分が変わる。彼が非武装化と非ナチ化を和平交渉で協議しないと話していたのを聞いた。まず、彼は、ミンスク合意と同じ様に、この交渉そのものをサボタージュしている。そして、ナチ化が存在しており、捕虜のアゾフやアイダル大隊の兵隊は制服そして肌にタトゥーとしてヴァッフェンSS大隊のかぎ十字(スワスティカ)を付け、同等と『我が闘争』の思想を広げていたことは証拠として出ている。彼は、本人がユダヤ人である故、ナチかはあり得ないと主張している。私が間違っていなければ、ヒトラーにもユダヤの血があった。これは何の意味もなさない。思慮深いユダヤ民族曰く、最も強烈な反ユダヤ主義者は基本的にユダヤ人だ。ロシアでは『厄介者はどこにでもいる』という言葉の通りだ。アゾフに関しては、昨今出てきた資料によると米国そして特にカナダがウクライナでの超過激派で明らかにネオナチ部隊の準備において主要な役割を担っている。ここ数年の彼らの狙いは、ネオナチのウクライナ(通常)軍への注入だった。こうやってやがて、各部隊にアゾフの人間が主導権を握れる立場に置かれてきた。これを西側のメディアが報道しているのだ。アゾフが明らかにネオナチ集団であることは西側では2022年に見解変更の命令が出されるまで何ら疑いなしに認められていた。つい最近、日本が、何年もネオナチ・テロ組織として認定していたアゾフに対して謝罪した。とある西側のメディアの記者が、ゼレンスキー氏にアゾフとその思考、実動についてどう考えているかを問うた。この質問に対して彼は、このような大隊が多数存在し、『彼らは、彼らだ』と答えた。注目に値するのはその『彼は、彼らだ』というフレーズは削除され、放送されなかった。つまり取材するジャーナリストもゼレンスキーが何を考え何について話しているかを理解しているということだ。彼(ゼレンスキー)の考えているは、ネオナチを使ったロシア連邦との闘いだ」。

ベネット首相の抗議

で、上述のラブロフ外相の所謂『発言』に対し、イスラエルのベネット首相はなんと言ったのか。首相事務所のプレス発表内容は大凡次の通り:
「露外相の発言を極めて遺憾に思う。彼の言葉も狙いも間違っている。この様な嘘の目的は、ユダヤ人に対して犯された歴史上最悪の犯罪で当のユダヤ人を責め、イスラエルの敵を責任から逃れさせることだ。現代の如何なる戦争もホロコーストに近くないし、比べられてはいけない。ユダヤ人のホロコーストの政治利用がすぐに止められるべき」。

ヒトラーとユダヤの血縁

ベネット首相の上記の短文の声明ですらツッコミどころありすぎて呆れる(ユダヤ人とイスラエルを交互に使っている辺りが、異なる二つの歴史的存在を混合させるためのトリックに見えて仕方がない 等々)。そもそもラブロフ外相の『発言』とは、長文の一部を切り取っているだけではないかとか、至極常識的な疑問はあるが、そこには一旦触れないでおきたい。そしてイスラエルを代表する他の政治家や政府関係者の発言、イスラエル以外の国の人の発言やメディアの取り上げ方に対しても色々とものを申したいところではあるが、今回はラブロフ外相の『発言』に集中したい。つまりラブロフ外相の『発言』が本当に間違っていたのかについて再確認が必要ではないだろうか。

 ポップス系の情報源から始めるとあのヒストリー・チャンネルと同じ系列のヒストリー・ドット・コム等でも取り上げられていたベルギーのジャン・ポール・ムルデール(Jean Paul Mulders)とマーク・フェルメーレンの研究結果はヒトラーの母がユダヤの血を受け継いでいたことを示唆している。他に、例えば米国人のレオナード・サックス博士の2019年の英デイリーメールへのインタビューも有名だ。

アドルフ・ヒトラーの家系図

この辺の歴史を詳しく見たい方は、ヒトラーの弁護士を務めた(ヒトラーユダヤ系説を始めたとされる)ハンス・フランク氏について調べてみると良い。ここでは簡単に触れると、ヒトラーの祖母マリア・アンナ・シックルグルーバーがユダヤ系だった(現代のナラティブでマリア・アンナ・シックルグルーバーが住んでいたオーストリアのグラッツに15世紀からユダヤ人は住んでいなかったという説は間違いだと、ニコラウス・フォン・プレラドヴィッチに随分と前に証明されている)ため、ヒトラーは少なくとも4分の1の血をユダヤ人から受け継いでいると言えよう(英文だが、ヒトラーの家系について比較的分かりやすくに説明した2021年記事。ちなみにナチスドイツの政権ではユダヤ系だったのはヒトラーだけではない)。ヒトラーの父親アロイスが、母アンナ・マリアとヨーハン・ゲオルグ・ヒードラーとの結婚のときは5歳児にだったのも興味部会話しだが、今回は控える。

 終わりに

この文章を作成している5月6日時点、露外務省からも露大統領からもラブロフ首相の『発言』に対する公式訂正も謝罪も無い。そして、メディアセット社へのインタビュー文が英・露の二か国語で露外務省ウェブサイトに掲載されたまま。一方であるのは、露外務省の公式テレグラムアカウントに5月3日に掲載された『意見書』だ。この意見書によると、イスラエルのヒステリー、その後のドイツの(ウクライナ駐独大使のドイツ首相批判に対する)沈黙が一連の流れの出来事だ。

 上述のテレグラムアカウント記載内容とは毛色が異なるが、一連の流れの出来事だと見て差し支えないと考える。イスラエルは今までウクライナのネオナチに関する言及を避けてきたのだけでなく、参加の機会を探ってきた。そして、ラブロフ外相の『発言』の直後(5月3日)にイスラエルがウクライナへの軍事支援を検討していると報道された。これらの出来事を一連と流れとして見ると、プーチン大統領とベネット首相の電話会談で実際に何が議論され、会談後の各々のプレス発表の意味合を改めて考えるとやはり『人道的』、『国連』、『赤十字』、『民間人』等のキーワードが共通で出ている辺りに注目して少し安心できるのか。それとも、ウクライナのゼレンスキー大統領の会談の翌日にプーチン大統領と会談を持ったベネット首相の本当の狙いを疑いの目で見るべきか。プーチン大統領から『引っ込め』の合図があったのか。今後の動きを注視しながら見極めたい。少なくともイスラエルの言い分を素直に信じてはいけないというシグナルを直感が送ってくるのは確かだ。

 今日はここまで。

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