20241123の夢/獣とヒトのあいだ(前編)
車の事故を見ている。
運転席と助手席に座っていた二人は腰から上が吹き飛ばされていて、ジュースみたいになってしまった残骸が後列まで飛散している。
後列にいた三人はかたちこそ保っていたが、からだのあちこちを強く打ち、骨という骨が粉々に砕けてしまっている。
「なにあれ、すごくない?」という声が歩道から聞こえるが、その声の主はぼくじゃない。
「行くよ」と声がした方を振り仰ぐと、青のインナーカラーを入れたおとなのお姉さんが、なぜか車道のまんなかに立ってぼくを見おろしている。
ふいにぼくは金縛りがとけたようにわれにかえる。事故現場を後目に、お姉さんのあとをついていく。
一台のスポーティな車に乗り込む。
運転席に座っていたおとなのお兄さんが、「そいつか?」と聞いてくる。
「うん、たぶん」とお姉さんが答える。
お兄さんは「たぶんかよ」と不満そうに言いながら車を発進させる。
着いたのは旧市街に古くから建つ一軒の民家で、間口は狭く、奥行きのある造りだった。
招かれるまま中にあがる。
表座敷を抜けるとキッチンのある部屋があり、二人の姉妹がテーブルについている。妹は小学生くらいで、姉はおとなびてみえるがぼくをここに連れてきた二人に比べると幼い。
ぼくを連れてきたお姉さんが、「今日からいっしょに暮らす子ー」と雑に紹介しながら姉妹の脇を通り抜け、さらに奥に進んでいく。
中庭を隔てていちばん奥まった部屋の襖を開けると、あの狭かった間口や細い廊下からは想像がつかないほどのだだっ広い空間がある。入口は襖だったのに、部屋のなかは無機質なラボみたいだった。
「ここが今日からあんたが暮らすとこね」
ぼくを見おろしてお姉さんが言う。
ぼくはどこかに帰らなくちゃいけないような気がしたけど、それがどこだったか思い出せなかったので、あいまいにうなづく。
「なに? あんたの居場所はここしかないんだって」
そう言われるとそうかもって気がしてくるから、きっとそうなんだろう。
ここがぼくの居場所で、ぼくのことを気にかけてくれる人がいて、どこに帰ったらいいのかとか考えなくてよくて、ってつぎつぎ頭に浮かんできて、急にあたたな気持ちになる。
それってなんか家族みたいだなって思えて、なくしたくないなって、そう思った。
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