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デザイン史(概論)#15 V&A(ヴィクトリア&アルバート博物館)の誕生


はじめに(いつもの挨拶)

以前担当していた、大学での講義をまとめて不定期に少しずつ記事にしていっているつもりが、色々寄り道したりしながらぶらぶら書いていく記事になっています。本流としてはデザイン史、デザイン概論、ということで続けていきます。なるべく分かりやすいように、平素に、小分けに書いていくつもりです。よろしくお願いします。今担当している建築史の記事はいつになることやら・・・

前回の記事

こちらの記事は、下の記事の続きになってますが単独で読んでもいただけます。

ロンドン万博のその後〜マールボロ・ハウスの産業博物館

 こちらの記事「万国博覧会と水晶宮」で紹介しましたが、1851年には世界初のロンドン万博が行われました。その後、万博を推進したアルバート公により、翌年の1852年に、産業博物館がオープンします。これは、バッキンガム宮殿の北側に位置している、マールボロハウス(Marlborough House)という建物の中に作られました。その建物がこちら。

マールボロハウスの南正面 https://x.gd/c988Q Wikipediaより P.D.

  元々は、1711年に、マールボロ公爵夫人のために建てられた建築物で、英国では非常に著名な建築家であるクリストファー・レンによって設計されました。初期のスケッチでは二階建てのもので、のちに増築されています。増築の際には、建築家ウィリアム・チェンバースが3階部分や屋根・天井・煙突などを追加しました。
 
公爵夫人サラ・チャーチルは当時のアン女王の親友で、かなり政治にも影響力を持っていた女性でした。彼女は、この建築物の設立全てを夫から任されていて、デザインの細部にまで関わり、レンの雇った業者を巡って口論などもあり最終的にはレンを解雇してデザインを自分で決めたそうです。また、長年親友であったアン女王と決裂したのがこの建築物が竣工した1711年でした。二人の女性の友情に何があったのでしょうか。その3年後にアン女王は亡くなっています。建築家レンやアン女王との訣別など、想像が膨らみますね。

左:サラ・チャーチル公爵夫人 右:アン女王 Wikipediaより P.D.

 その後様々に使われてきた建築物ではありますが、万博の翌年に博物館を創設するにあたり、1852年から5年間、コレクションをここに保存していました。この博物館創設にあたっては、すでに紹介したヘンリー・コールが中心となって、初代館長に就任しています。

世界初のデザイン・ミュージアム

 5年後、コレクションは、新たにサウス・ケンジントンへ引越します。このタイミングで、「サウス・ケンジントン博物館」と改名されました。
 さらに42年後、1899年 ヴィクトリア&アルバート博物館に改称され、現在の建築物が1909年に竣工しています。

 実は、すでに万博の20年ほど前、つまり30年代からヘンリー・コールを中心として、政府内部でデザインの質を上げ、産業を発展させるために博物館が必要だ、という構想がありました。それがようやくこの年にコレクションとして形となったわけです。特にロンドン万博において、イギリスのデザイン力が、他国に劣っているという指摘を受け、広くデザインを教育し、質を高め、工業を振興する目的で博物館が作られました。そして、世界各国の工芸品から工業製品を陳列するということが行われました。

 陳列されたのは主に、応用芸術(applied arts)、装飾芸術(decorative arts)、そして デザイン(design) の分野であり、これが非常に当時では新しかったと同時に、今でも世界最大のコレクションとなっています。考えてみれば、それまでヨーロッパでは美術という伝統的な分野での美術館はあれど、デザインという一般大衆の芸術とみなされていた分野の博物館はなかったわけですね。つまり、世界初のデザイン・ミュージアムが創設されたわけです。

 そのため、他のヨーロッパ諸国にもこの流れが出てきます。わかりやすく一覧表にしてみました。

  • 1851 ロンドン万博

  • 1852 産業博物館(マールボロ・ハウス)

  • 1857 サウス・ケンジントン博物館へ移転

  • 1863 パリ装飾美術間開館

  • 1864 ウィーン応用美術館開館

  • 1899 ヴィクトリア&アルバート博物館に改称

  • 1909 現在の建築物が竣工(下記写真)


By Diliff - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=31813288

 立派なルネサンス様式の博物館ですね。これは、建築家アストン・ウェッブによって設計されました。彼は、バッキンガム宮殿の主要なファサード(正面)なども設計しています。

進化し続けるV&A博物館

 この博物館が建っているエリアは、ロンドン中心部の王立自治区内にあり、ここには他にも自然史博物館や科学博物館など、文化施設のメッカとしてのエリアになっています。入場料は、無料となっていて、教育・啓蒙の目的によるものです。

 V&Aは、デザインの全領域についての膨大なコレクションを内蔵し、近代デザインの歴史をかなり系統立てて視覚化しています。もちろん、日本のコレクションもあります。

 さて、この世界初であり、世界最大のデザイン・ミュージアムですが、現在も成長を続けています。2001年以降、1億5000万ポンド(日本円で300億円弱)を投じて、さまざまな展示を拡張し、進化しつづけています。

2015年 新たに追加された17~18世紀のヨーロッパのコレクション、
2018年 V&A  Dundee 日本の建築家 隈研吾による、スコットランド
2023年 ヤングV&A(こども博物館)
伝統的な陶器のウエッジウッド博物館
2025年 V&A east  ディラー・スコフィディオ&レンフロによる設計
企画中:V&A  spiral ダニエル・リベスキンド&セシル・バルモントによる設計

など、開館が目白押しです。著名な建築家による建築物もかなり話題になっているので、気になる人は、検索してください。(著作権がわからず掲載しておりません)

 イギリスが国として政策を進めるデザイン分野。イギリスを中心に多くの施設を近年開館させていますが、みなさんどのように思いますか。ヨーロッパの国にとってデザイン戦略は、伝統的な美術の分野と並んで、国家戦略でもあるのです。日本にも、同じように、デザインを啓蒙するために、創設者イッセイミヤケ(三宅一生)を中心として作られた六本木の21_21 DESIGN SIGHTがありますが、やはり規模としてはまだまだという感じですね。

表紙:王立芸術アカデミーの学長を務めたイギリスの建築家、アストン・ウェッブ卿の肖像画。パブリック・ドメイン

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