「UGA」で広告はコンテンツに昇華する。マーケターが考察したTikTokの独自性
突然ですがみなさん、TikTokにどんなイメージを持っていますか?
「10代、20代の若い子が踊るアプリでしょ?」
ある意味ではその通りです。でも、そうじゃないとも言えます。
実は今、世界では世代を超えた生活発信の場としてTikTokが使われています。
昨年TikTok本を出版し、「中国トレンド情報局」で有名なブロガー・こうみくさんによれば、TikTokの本場中国では「50代の大学教授や田舎に住む農家のおばあちゃん、屋台のお兄ちゃん」まで、まさに老若男女が使うアプリの筆頭とのこと。
世界でも爆発的な広まりを見せています。
つい最近も、「1年間で6億1,400万回ダウンロードされ、その広告費は2019年5月から2019年11月にかけて75倍に成長している」というニュースがありました。
間違いなく日本にもその波が
FacebookもTwitterも、そしてInstagramも。
最初は学生だけ、IT業界の人だけ、女性だけ。そんなふうに言われているうちに、爆発的にユーザーが増え、企業のマーケティング施策で当たり前に名前が挙がるまでになりましたよね。
日本のTikTokユーザーは今、月間で約950万人(2019年)。ちなみに同じ年のInstagramが月間で約3300万人です。
TikTokでは半数が20歳未満のユーザー(※日本国内)とのことですが、ここから世代を超えてどこまで普及するでしょうか。どこまでというよりも、「どのくらい早く」爆発的に普及するか、と考えたほうがいいかもしれません。(こうしたトレンドでは、日本はよく「米国の5年遅れ」と言われたりもしますが…)
前置きがちょっと長くなりましたが、この確実にくるであろう波を前に、今回は「TikTokの何を知っておくべきなのか」をマーケターの視点でまとめてみようと思います。
キーワードは「自発性」と「本音」。これはマーケティングにおいて非常に重要な要素でもあります。
TikTok広告が唯一無二な理由
マーケティングの視点で、TikTokはなぜ注目に値するのでしょうか?
Instagram(Facebook)でもYouTubeでも、動画広告は出せます。10代のユーザーだっています。つまり、特筆すべきはそこではありません。
結論から書くと、TikTokは「ユーザーが一緒に広告をつくってくれる」プラットフォームです。この点においてTikTokは非常に独自性が高いといえます。そんなプラットフォームは今までにありませんでした。
ここからは事例を交えながら話を進めていきたいと思います。
キャッシュレス決済サービス、PayPayはTikTok上にユーザーが使えるオリジナル曲とともに「PayPayダンス」を公開し、大きな話題を呼びました。
同時期にテレビCMでもキャンペーンを展開したので、PayPayダンスという名前を知らなくても、「このダンス(と音楽)なら知っている」という方もいるはずです。
これがなぜ大きな話題を呼んだか
その答えは、ユーザーもコンテンツになれたからです。
TikTokのユーザーは、アプリ内で用意された楽曲と自分で撮影した動画を組み合わせたコンテンツを投稿できます。他のソーシャルメディアと同じく、自分の投稿にはいいね!が付くので、みんなが夢中になって目を引く投稿内容を考えます。
そこにPayPayダンスという絶好の素材が企業から提供されたのです。
「元ネタ」としてお笑い芸人が出演するテレビCMの認知度があり、そして、そもそも音楽とダンスがシンプルかつコミカルでおもしろい。そんな素材を自分もTikTokで使えるとなれば、模倣しやすいし、模倣したくなるのがユーザー心理です。
結果、多くのユーザーが自分なりのPayPayダンスを投稿し、その投稿がまた新たなPayPayダンスを呼び起こす連鎖が起きました。これは動画広告のクリエイティブをユーザーが自発的に量産してくれていると言い換えられます。さらに、クリエイティブの量産だけにととまらず、その配信にユーザーが自分のアカウントを使わせてくれてまでいるのです。
つまり、TiktokキャンペーンはUGAだ
勝手に名付けてすみません。。
こんなマーケティング用語はないのですが、TikTokキャンペーンはいわばUser Generated Ads、「ユーザーがつくり出す広告」なるものが成り立ってしまうキャンペーンなのです。
そして、それを見たユーザーは広告ではなく“コンテンツ”として受け入れ、参加者──つまり広告のつくり手──の輪が広がっていく性質まで持っています。
今までこんなキャンペーンを設計することができたでしょうか。
…冷静に考えると、この文章を書いているnoteでもキリンが「#社会人1年目の私へ」というテーマを出して、noteユーザーにエッセイやマンガなどを募る形のキャンペーンを行いました。これも構造としては似ていますが、違いは次のような点です。
・没入感:TikTokのコンテンツ=動画は視覚だけなく聴覚にも訴えかけるという意味で、没入感がより強い
・話題化:TikTokは短い動画をどんどん見て、気に入ったものを簡単な操作でいいね!できるように設計されているので、話題化しやすい
Instagramでも、特定のハッシュタグをテーマにした投稿キャンペーンが行われています。これも表面的には似ていますが、TikTokでは「ユーザーの本音」がよりコンテンツに反映されやすく、それがキャンペーンの広がりにも寄与します。
みなさんは「インスタ疲れ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? SNSのフィード上に現れる、友人や憧れのインフルエンサーたちのキラキラした日常を見ていると、自分の現実とのギャップを感じて気疲れしてしまう状態をいいます。特にInstagramでは「映える」写真が重要なので、SNSの中でもその気疲れが起きやすいという調査もあります。
その意味で、TikTokはより気兼ねない投稿がしやすいプラットフォームです。同じPayPayダンスでも、背景の映り込みや服装などを気にしすぎたり、きれいに編集しないといけないといった意識が強すぎる状況だったら、面白い投稿やそれによる話題化が起きなかったかもしれません。
とはいえ、ほかの広告と同じく万能薬ではない
ここまで読んでいただいた方には、きっとマーケティングの視点から見たTikTokの魅力が伝わっているかと思います。
でも見出しのとおり、TikTokでキャンペーンを展開したからといってすぐに売上が上がるかというと、正直に言えばそうではありません。
広告にはそれぞれの特性と役割があるので、一つの施策だけで売り上げを伸ばすのはやはり難しいでしょう。
──じゃあ、一体TikTok広告にはどんな役割があるの?
そんな声が聞こえてきます。
TikTok広告の最大の役割は、圧倒的な認知獲得力です。
ここまでに紹介してきたような「ユーザーの自発的な行動」や「キャッチーな音楽と映像」がテレビCMのような役割を果たし、ブランドの想起に役立ちます。
たとえば「#PayPayダンス」のように、特定のハッシュタグの投稿を見たユーザーはもちろん、投稿をしたユーザーにはブランド名やキャッチコピー(と、楽しいなどのポジティブなイメージ)を記憶させることができます。
刈り取れば刈り取るだけ“枯れる”顕在層
デジタル広告を扱う立場として、私はこれまで直接購買につながる「刈り取り系」の広告にばかり予算を投下し、認知獲得の施策に注力できないケースをたくさん見てきました。そのケースのほとんど全てで、CVが減少し伸び悩みます。
ブランドの成長の鍵は(新規の)顧客獲得を大きく伸ばすことにある。顧客の獲得に失敗したときにブランドの縮小が始まる。
(「ブランディングの科学 誰も知らないマーケティングの法則11」P.64)
これはP&Gのマーケターを経て江崎グリコの執行役員を務めた、加藤巧さんが監修したことでも知られる本の一節です。成長しているブランドは、認知獲得施策をやり続けることで顧客獲得をし続けているのです。
実際に経験したところでは、刈り取りを目的としたAmazon広告に、認知獲得を狙ったSNS施策をプラスしたことによって、1か月の売上額が1.3倍に増えた事例もあります。
見出しにもある通り、刈り取り系の施策にはいつか限界がきます。だからこそ、短期的な成果だけでなく、広い視野を持って認知獲得施策の重要性をあらためて考えることが必要です。
お試しでまずやるのなら「購入アシスト」
TikTok広告で認知獲得をして、刈り取り系の施策で獲得効率を上げるという考え方を、1つの型として知っていただけたかなと思います。
「とはいえ、予算が限られているし、いきなりユーザー投稿型のキャンペーンなんてハードルが高い」と思われる方もいるでしょう。
理想形を描くことは簡単ですが、膨大なタスクや理想通りには行かない現実と向き合いながら日々の施策に腐心するマーケターさんの気持ちは私もよく分かります。
でも、です。
冒頭で紹介したように、TikTok広告はTwitterやFacebook、YouTubeといった広告に並び、マーケティング施策に欠かせない存在になるはずです。
だからこそ、まずはできる範囲で試していって、知見を貯めていきましょう!というのが、私が今みなさんにお伝えしたいことです。
オススメは、購入アシストとしてTikTok広告を活用することです。スマートフォンに適した縦型のクリエイティブでユーザーを惹きつけ、自社ECやAmazonなどの商品ページへ誘導する、という広告が任意の金額で配信可能です。(実際に効果を出すためには、30万円〜の実施を推奨します)
今はオンラインでもオフラインでも、私たちは毎日大量のコンテンツに囲まれています。そのため、いきなりバナーが出てきて「詳細はこちら」と言われてもなかなかユーザーは興味を示しません。
だからこそ、まずは気軽に楽しんで見られる動画・キャンペーンでブランドを記憶してもらう。そのあとで「詳しくはこちらです」と言えば、もう自己紹介は済んでいるわけなので、「ちょっと覗いてみようかな」というユーザーが増えるわけです。
でも、音楽やダンスから用意するのはちょっと。
PayPayダンスの事例を挙げておいて……ではありますが、実は必ずしも10代、20代の女の子がダンスを踊っていなくても大丈夫です。試しにTikTokをインストールして、どんな動画が投稿されているか実際に見てみてください。
そして、動画自体が用意できなくても大丈夫です。たとえば静止画をTikTokアプリにアップロードすると、簡単な動きをつけた動画を生成できます。もちろん、こうした静止画1枚のクリエイティブで高い広告効果が出るかといえば、実際には難しい面もあります。ただ繰り返しになりますが、テレビCMやYouTube広告などのように大きな予算を割かずとも、ユーザーに受け入れられるクリエイティブになりうるのがTikTokです。
↓元の静止画 (私が所属する会社、(株)TAMのキャラクターです)
この考察を読んでTikTok Adに少しでも興味を持たれた方がいれば、まずはこのプラットフォームの「肌感覚」をつかむところから始めてみてください。
アカウントをつくって、いろんな人の投稿を眺めるだけでもいいですし、上の動画のように静止画を1つ用意して簡単な動画を投稿してみるのも大きなステップです。
最後に
SNS時代は特に、やる前から「この形がベストだ」と決めるのは困難です。なぜならそれが面白いか・良いかはユーザーが決めるからです。(OBに著名なマーケターを多く輩出しているP&Gには、“Consumer is Boss” という有名な言葉があります)
だからこそ、「仮説を立てたら試す→結果を見てまた違うことを試す」を繰り返して、「自社なりのノウハウ」を貯めていくことが必要なのです。
「SNS時代には素人っぽくて、手作り感のある動画がユーザーに受け入れられる」と耳にすることも多いでしょう。ですが、これを単に知識として頭に入れておくのと、その実態を自分の肌で感じることには違いがあります。まずは投稿を見るだけも良いので、アカウントをつくってみてください。
私が所属している(株)TAMの広告チームTAMKOは、TikTok Adsの正規代理店として、日々TikTokの最新動向を探っています。今後も"TikTok研究"の成果をまとめていきますので、興味がある方はぜひこのマガジンを覗いてみてください。
著:佐藤佳穂 構成:小野祐紀
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